著者
伊藤 剛 阿部 朋弥 宮川 歩夢
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.105-116, 2020-10-01 (Released:2020-10-15)
参考文献数
68
被引用文献数
4

西三河平野南西部の油ヶ淵低地で採取したボーリング試料中の更新統下部の礫層に含まれるチャート礫及び珪質泥岩礫から放散虫化石を抽出した.チャートの中亜角礫からペルム紀放散虫を,中亜角礫~亜円礫から三畳紀放散虫を,中角礫からジュラ紀放散虫を得た.これらの礫の供給源は,調査地域南方の渥美半島に露出するジュラ紀付加体秩父テレーンである可能性が最も高い.そして,重力異常(ブーゲー異常)に基づくと渥美半島と西三河平野南西部の間に大きな基盤の隆起帯が無いと推定されることから,礫層の堆積時(約100~80万年前)には渥美半島から西三河平野南西部に礫を供給しうる水系が存在していたことが示唆される.
著者
宮川 歩夢 名和 一成 山谷 祐介 大滝 壽樹 杉原 光彦 奥田 隆 住田 達哉
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
雑誌
地質調査研究報告 (ISSN:13464272)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.63-76, 2020-04-27 (Released:2020-05-07)
参考文献数
17
被引用文献数
1

国立天文台VERA石垣島観測局を中心とした名蔵川流域において,地下の地質構造を反映すると考えられる重力異常を明らかにするために重力測定を実施した.この重力測定では絶対重力測定及び周辺での相対重力測定を組み合わせている.絶対重力測定は国立天文台VERA石垣島観測局の重力計基台において,また相対重力測定は周辺域の62地点において実施した.得られた重力測定結果に既存の重力データを加え,重力異常図を作成した.おもとこれにより,名蔵湾から於茂登岳だけに向かって,負の重力 異常が大きくなる傾向がみられた.これは,於茂登岳を構成する漸新世の珪長質深成岩が周囲のジュラ紀付加体に比べて密度が低いことによると考えられる.さらに於茂登岳麓から名蔵湾にかけて負の重力異常の帯が確認された.このことは,名蔵湾から於茂登岳に向かう局所的な基盤形状を反映し,密度の低い堆積層が埋める埋没谷の存在を示唆する.
著者
高下 裕章 芦 寿一郎 朴 進午 宮川 歩夢 矢部 優
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

浅部プレート境界断層領域は防災上重要な研究の新領域として注目されている。プレート沈み込み帯では、沈み込みに伴いプレート境界面が固着している領域で歪が蓄積され、それが一気にずれて歪を解放、境界面が滑ることで地震が発生する。そのため、固着が強い地震発生帯と呼ばれる深部領域が、沈み込み帯の中では主な研究対象であった。一方、固着が弱く非地震性の定常すべり領域と考えられてきた浅部領域は、歪を多く蓄積せず、巨大なすべりを一度に開放することがないとされてきたため、これまで注目される機会が少なかった。2011年の東北地方太平洋沖地震では、海溝軸付近で最大約60 mの巨大な変位が地震時に発生したことが明らかになり、浅部プレート境界断層の破壊に関する初の観測事例となった。この破壊によって、巨大な津波が東北地方沿岸部の広い地域に甚大な被害をもたらされた。科学掘削の結果から浅部領域における断層部は摩擦の低い物質で構成されていることが明らかになったが、それがその領域だけなのか、もしくは日本海溝全体が同様の特徴を持つのかはわかっていないそこで本研究では、浅部プレート境界断層の摩擦係数の詳細な分布を明らかにし、上記の課題を解決するために、まず既存の研究手法Critical taper model (CTM)を改善し、新たな解析手法を開発した。CTMは沈み込み帯のウェッジにおいて力学的な条件を説明するのに重要な手法であり、ウェッジ形状を示す斜面傾斜角αとデコルマ傾斜角βから、プレート境界断層の摩擦係数を計算することができる。ただし、摩擦係数分布を得て、沈み込み帯の力学条件を議論するには、βの値の取り扱いについて大きな注意が必要であった。ベータは基本的に反射法地震探査断面から得るものであるが、その深度処理がβの値に大きな影響を与えることから数kmのオーダーであればPSDMのように高精度な深度処理が行われたものを、より広範囲を対象とした場合は屈折法を組み合わせ正確な速度構造を得たものでなければ、比較という点で信頼性を保つことが難しかった。本研究では、CTMを精査したところ、βがプレート境界断層の摩擦係数の算出にほとんど影響を与えないことが明らかになった。つまり、摩擦は斜面傾斜角αのパラメータのみで計算できることが明らかになった。αはグローバルに存在する水深測量データからも得ることができる。本手法を改めて日本海溝で得られている水深測量データに適用し、浅部プレート境界断層における高密度な摩擦分布を適用したところ、2011年東北沖地震の地震時すべり分布が低摩擦セグメントに対応することを示した。つまり、地震時の滑りが浅部プレート境界断層の浅い部分に伝播した際に、低摩擦領域にそのすべりを拡大し、巨大な津波につながった可能性を考えた。また、現在グローバルに摩擦分布を算出する手法を開発しており、その一部を紹介する。