著者
金子 真美 杉山 庸一郎 平野 滋
出版者
日本喉頭科学会
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.32, no.01, pp.52-57, 2020-06-01 (Released:2020-09-04)
参考文献数
20

Medialization procedures, such as type I thyroplasty, arytenoid adduction, and vocal fold injection, are currently popular treatments for hoarseness due to unilateral vocal fold paralysis. However, hoarseness occasionally remains after medialization procedures due to tension imbalance. This tension imbalance causes diplophonia, asymmetry and aperiodic vibrational flutter in travelling wave motion. This is mostly due to incomplete glottic closure, imbalance in muscular tension, and increased air flow through an incompetent glottis. There is no established treatment for tension imbalance. We herein report two cases with remaining hoarseness post-medialization for chronic unilateral vocal fold paralysis. These patients underwent voice therapy using flow phonation to establish respiratory support and a resonant voice to facilitate vocal fold vibration. As a result, the functional vocal fold vibration, aerodynamic assessments, acoustic analysis findings and self-rated condition improved in both cases after therapy. These results suggest that voice therapy involving flow phonation and resonant voice may help improve the vocal function in cases of tension imbalance with dysphonia. Further studies with a larger number of participants or a prospective randomized controlled trial are warranted.
著者
平野 滋 杉山 庸一郎 金子 真美 椋代 茂之
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.11-13, 2021-01-20 (Released:2021-02-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

声帯は50歳ごろより萎縮が始まり, 声の減弱化, 嗄声を呈するようになる. 声帯の粘膜および筋肉の萎縮によるが, 声の劣化は活力の低下, 生活圏の制限, 社会的地位への脅威など高齢者における生活および仕事環境を脅かすことにもなり, またひいては誤嚥による健康被害にも繋がる. 声が掠れてきたら要注意であり, 予防による声帯の維持が重要である. 声帯の維持のために, 1. 声帯の保湿, 2. 喉頭の慢性炎症の予防, 3. 適度な発声, 4. 活性酸素の抑制を勧めている. 声帯の保湿には1日1.5L 以上の水分摂取が世界的に推奨されている. 喉頭の慢性炎症予防のためには禁煙, 胃酸逆流やアレルギー性炎症のコントロールが重要である. 歌手は声帯の寿命が長いといわれるが, 近年の臨床研究で一定のエビデンスが示された. 適切な発声を継続することが声帯維持に重要である. また, 活性酸素は加齢とともに増加し, 組織障害性を発揮する. 声帯も例外ではなく, 加齢や声帯酷使により声帯粘膜内の活性酸素が増加すること, また抗酸化剤の投与によりこれを予防し, 声帯の維持に有効なことを示した. 声帯の萎縮が生じてしまった場合, 呼気と共鳴を最適化する適切な音声治療によりある程度の改善が期待できる. 塩基性線維芽細胞増殖因子は, 萎縮した声帯粘膜内のヒアルロン酸産生を促進することで, 声帯の再生を促すことが可能である. かつては「年だから仕方ない」とされた声帯萎縮であるが, 健康長寿のために予防と治療が重要である.
著者
平野 滋 杉山 庸一郎 椋代 茂之 金子 真美
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.8, pp.1113-1117, 2019-08-20 (Released:2019-09-05)
参考文献数
30
被引用文献数
1

喉頭・咽頭逆流症 (LPR) は, 慢性的な咽喉頭炎から音声障害を来し得る. 胃酸による逆流性炎症が後部声門の肉芽腫や潰瘍の原因となることは広く知られているが, 近年, LPR では胸焼けや吃逆などの胃食道逆流症 (GERD) 症状は10~20%程度であるのに対し, 音声障害は約70%にまで起こるとされる. 音声障害の病因は, 慢性的な酸暴露による上皮, 粘膜固有層の損傷が主体で, 上皮の肥厚・角化, 潰瘍, 肉芽, 溝の形成, 粘膜固有層の炎症と乾燥などが指摘されている. 動物モデルにおいては, 喉頭に酸やペプシンを暴露すると, 肉芽腫の発生や粘膜上皮内の炎症, 扁平上皮の過形成や潰瘍, 線維化を来すことが確認され, また, LPR 患者の咽喉頭の生検組織において, 声帯上皮, 喉頭前庭, 後部声門の上皮内のペプシンの存在, 細胞間間隙の増大, 粘膜保護作用のある炭酸脱水素酵素やカドヘリンの減少などが報告されてきた. これらの炎症が音声障害を引き起こすと同時に, LPR 患者の発声はしばしば過緊張となり, 筋緊張発声障害を招くことが多い. 最長発声持続時間 (MPT), jitter, shimmer, 雑音成分などの異常を来す. 歌手は LPR の高リスク群とされている. 歌唱に腹圧のサポートが必須で, 高い腹圧によって胃酸の逆流が生じやすいこと, パフォーマンスの前は常に強いストレスにさらされること, 食事や飲酒に無頓着であることなどが原因で, 嗄声のほか音声疲労や歌唱中の声の途切れ, 痰の引っ掛かりなどを訴えることが多い. LPR による音声障害の治療は, 食事様式の適正化, ライフスタイルの改善, 胃酸逆流の抑制で, 胃酸分泌を強力に抑えるプロトンポンプ阻害薬 (PPI) は多くの場合奏効する. これらの治療により, jitter, shimmer, HNR, VHI, GRBAS, RSI, RFS などの改善が多数報告されている. 音声障害患者において, 酸逆流の関与の有無について的確に診断し治療することが重要である.
著者
杉山 庸一郎 金子 真美 平野 滋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.126, no.8, pp.983-989, 2023-08-20 (Released:2023-09-01)
参考文献数
34

高齢者の嚥下障害に対する嚥下診療では, 加齢による嚥下機能低下に加え, 高齢者に好発する疾患とそれに伴う嚥下障害を理解し, 嚥下メカニズムに沿って治療を行うことが原則となる. 高齢者では咽頭・喉頭感覚低下, 食道入口部の抵抗増加, 咽頭残留などの加齢に伴う嚥下機能低下に, 脳血管障害や神経筋疾患など原疾患による嚥下機能低下が加わると, 嚥下障害を来す. 原疾患の治療に加えて, 嚥下障害に対して病態に即して対応することが必要となる. そのためには嚥下機能評価が重要となる. 摂食・嚥下は5段階に分類されるが, そのうち咽頭期嚥下障害は誤嚥のリスクに関与するため, 適切に評価し対応する必要がある. 咽頭期嚥下障害に対する嚥下機能評価は嚥下惹起性と咽頭クリアランスの評価に大別される. 嚥下機能評価により病態生理を解析し, 原理原則に沿って嚥下リハビリテーション治療や嚥下機能改善手術などの適応, 治療方針を決定することが重要である.
著者
辻川 敬裕 木村 有佐 森本 寛基 佐分利 純代 光田 順一 吉村 佳奈子 森 大地 大村 学 椋代 茂之 杉山 庸一郎 平野 滋
出版者
特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会
雑誌
頭頸部外科 (ISSN:1349581X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.117-120, 2022 (Released:2022-10-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

生命・機能予後の改善をめざし,口腔癌を含む局所進行頭頸部癌に対する導入化学療法・免疫療法を検証する臨床試験が国内外で複数進行している。1切片から14マーカーを可視化・定量化可能な多重免疫染色により,頭頸部癌においてリンパ球系優位,低免疫細胞,骨髄系優位の3種類の免疫特性の存在が示され,これらの免疫特性が免疫療法のみでなく,導入化学療法の効果と関連することが示唆された。免疫特性をふくむ組織バイオマーカーに基づいて適切な症例選択が可能になれば,口腔癌における将来的な導入化学・免疫療法や術式を含む治療方針の最適化が期待される。
著者
杉山 庸一郎
出版者
日本喉頭科学会
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.33, no.01, pp.16-20, 2021-06-01 (Released:2021-09-17)
参考文献数
22

Bilateral vocal fold immobility influences not only vocal function but also the airway tract, possibly resulting in dyspnea. Pathophysiological diagnosis using electromyography of laryngeal muscles is also critical for patients with bilateral vocal fold immobility to optimize the surgical procedures. Vocal fold lateralization, transverse cordotomy, and arytenoidectomy can be utilized for bilateral vocal fold paralysis and posterior glottic stenosis depending on the severity of stenosis and mobility of cricoarytenoid joints. A unilateral approach should be recommended for the initial surgery to reduce the risks of aspiration and hoarseness. Laryngofissure with cartilage grafting and T-tube stenting may be performed for severe posterior glottic stenosis, often coinciding with subglottic stenosis. Laryngeal stenosis due to the bilateral vocal fold immobility should be carefully evaluated and treated with appropriate surgical technique, thereby keeping adequate airway space with preventing severe postoperative swallowing and phonatory dysfunction.
著者
根本 玲 相良 亜木子 沢田 光思郎 杉山 庸一郎 櫻井 桃子 川上 愛加 大橋 鈴世 三上 靖夫
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.69-76, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
23

【目的】皮膚筋炎に伴う重度の摂食嚥下障害は,回復まで長期間を要するとされている.さらに間質性肺炎と縦隔気腫を伴うと,治療はより困難になる.われわれは皮膚筋炎に間質性肺炎と縦隔気腫を合併し,重度の摂食嚥下障害をきたした症例に対し,リハビリテーション治療を行い良好な経過を得た.本症例で実施した摂食嚥下リハビリテーション治療の工夫と経過について報告する.【症例】69 歳男性.四肢の関節部痛と筋力低下,嚥下困難感を訴え,皮膚筋炎と診断された.間質性肺炎を併発し,プレドニゾロン,免疫抑制剤による薬物療法が開始されたが,嚥下困難感が増悪したため,リハビリテーション科に紹介された.嚥下造影検査では咽頭収縮は不良で,嚥下内視鏡検査(以下VE)ではとろみ水(段階1 よりうすいとろみ),ゼリー(コード0j)で誤嚥,喉頭蓋谷残留を認めた.摂食嚥下障害臨床的重症度分類2,藤島グレード2 であった.摂取エネルギー維持目的に経管栄養を開始した.過用による皮膚筋炎増悪防止のため頭部挙上運動などの間接訓練は実施せず,とろみ水(段階1)とゼリー(コード0j)の複数回嚥下による直接訓練を開始した.2 週間後,胸部CTで縦隔気腫と診断された.直接訓練では,縦隔気腫の増悪や縦隔炎の予防目的にゼリーを中止したが,摂食嚥下機能向上を目的にとろみ水(段階1)のみ継続した.疲労感,とろみ水摂取量,血清CK値,VE所見から摂食嚥下機能を総合的に評価し,食形態を段階的に変更した.12 週で,摂食嚥下障害臨床的重症度分類6,藤島グレード7 に改善し,1 日3 食の嚥下調整食(コード4)の摂取が可能となった.13 週目,亜急性期病院に転院した.【結論】皮膚筋炎に間質性肺炎と縦隔気腫を合併し,重度の摂食嚥下障害をきたした症例に対してリハビリテーション治療を行った.皮膚筋炎の過用に注意して経鼻経管による栄養管理を行い,縦隔気腫を増悪させないために間接・直接訓練を工夫することで,摂食嚥下機能の向上が得られた.