著者
田中 和彦
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.143, pp.99-109, 2021-03-31

本研究の目的は,依存・嗜癖といわれる「アディクション」分野におけるソーシャルワーク実践の礎となる理論について,先行研究のレビューから概観を明らかにすることである.アディクションをもつ人たちへのかかわりは難しいとされ,アディクションを専門で取り組んでいる人や機関に支援をゆだねる傾向が強い.そこでアディクションに特化したソーシャルワーク理論が存在しているのか,そもそもその理論の必要性があるのかについて,先行研究のレビューを行い考察した.その結果,アディクションにおけるソーシャルワークの理論ではエンパワーメントアプローチをベースにしており,そこにナラティヴアプローチ,リカバリー概念など親和性が高い理論が影響し合っている.また,当事者の主体性の尊重といったポストモダンの思想潮流と親和性が高いということが考えられた.さらに社会への働きかけの重要性を指摘しているが,一方でマクロレベルのソーシャルワークにおいての理論化と実践がまだなされていないことが課題としてあげられた.上記はアディクションに限らず他の精神保健分野の課題でも同様であると考えられ,アディクションに特化したソーシャルワーク理論があるということではなく,アディクションに対する忌避感情が支援の困難さを生み出しているのではないかという仮説を得ることができた.
著者
村瀬 善彰 田中 和彦 村上 典央 平尾 純子 加藤 忠幸 青木 隆明 糸数 万正
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第23回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O045, 2007 (Released:2007-11-02)

【はじめに】 線維筋痛症あるいは線維筋痛症候群(fibromyalgia syndrome:以下、FMS)は、長時間持続する全身の結合織の慢性疼痛やびまん性疼痛、こわばり、疲労感を主訴とし、他覚症状として特徴的な圧痛点を有する疾患である。その他、しびれ感、頭痛などの精神神経症状もかなりの頻度でみられる。このような関節リウマチ様の全身症状を呈するため多くの患者がリウマチ専門医を受診するが、器質的障害の存在を裏付ける明確な臨床所見を認めず、多彩な不定愁訴を呈するため、別名「心因性リウマチ」ともいわれている。FMSは日本ではなじみの薄い疾患であるが、欧米では比較的頻度の高い疾患であり、一般人口の2%にみられるとの報告もある。40~50歳前後の壮年期~更年期の女性に多く(約85~90%は女性)認められ、原因の詳細不明な疾患であるため効果的な治療法に乏しい。そのため、薬物療法以外にも様々な治療が試みられているのが現状である。 今回われわれは、このような疾患に対して理学療法を行い、痛みとQOLの評価を用いて理学療法アプローチの必要性について検討したので、文献的考察をふまえ報告する。 【方法】 当院整形外科外来患者のうちリウマチ専門医により、FMSと診断され経時的評価が可能であった女性7例(平均年齢49.4歳)を対象とし、身体ストレス緩和のためのリラクゼーションを目的とした環境作りの提案や生活指導及び拘縮予防や除痛を目的とした運動療法を行った。FMSは他覚的所見として全身の各部位に18ヶ所の圧痛点が存在するのが大きな特徴であるため、その圧痛点の変化とVAS(Visual Analogue Scale)を用いた痛みの評価を行った。QOL評価にはMedical Outcome Study Short-Form8Item Health Survey(以下、SF-8)を評価ツールとして使用し、理学療法施行前後及びその後の経過観察において各々評価を行った。 【結果】 全例において多彩な不定愁訴に加え、両側性筋痛症状が認められ、疼痛の評価から何らかの改善が得られたのは7例中6例であった。また、SF-8においては国民標準値を下回っている症例を認めたが、評価カテゴリーによって改善傾向を示す結果であった。 【考察】 今回の結果から、理学療法による一定の傾向を示すことは困難であったが、環境改善についての生活指導や運動療法の介入によって、身体及び精神環境の面において何らかの改善が得られることが示唆された。FMSは日本以外の先進国の常識であり、症状が多彩であるがゆえに必然的に、原因不明、経過観察という説明のもと、診断、治療を受けられずに医療機関を転々としながら長い経過をたどっていることが予測されることからも、今後さらなる調査を継続して行い、理学療法の立場から長期的に検討していくことが必要と思われた。
著者
田中 和彦
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.143-152, 2017-03-31

2013 年(平成25)年にアルコール健康障害対策基本法が成立し,わが国のアルコール依存症を含めたアルコール健康障害対策は新たなステージに入った.2016(平成28)年に閣議決定された「アルコール健康障害対策推進基本計画」では,「アルコール健康障害に対する予防及び相談から治療,回復支援にある切れ目のない支援体制の整備」が挙げられており,地域におけるアルコール依存症治療における連携体制の確立が急がれる.わが国では,アルコール依存症が医療化した1961(昭和36)年以降,自助グループの誕生と相まって,各地の実情に合わせたアルコール依存症治療のための連携が取り組まれていた.その代表的なものが,大阪方式,世田谷方式,三重モデルである.本稿では,この3 つのモデルのレビューと比較検証を行った.その結果,3 つのモデルは二次予防から三次予防に比重を置いた連携体制であることがわかり,アルコール依存症の「医療化」という目的に基づいた連携体制であることが分かった.一方でそれぞれのモデルが進化,発展を遂げており,一次予防を含めた取り組み,すそ野の広がるアルコール問題への対応などに取り組んでいることも明らかになった.今後の課題として,医療化してきたアルコール問題を,医療化の視点のみならず,地域課題としてとらえていく視点の重要性,アルコール問題の予防から,早期発見,介入,治療,回復支援と地域生活を支えるアルコール問題トータルサポートネットワークの必要性が示唆された.
著者
田中 和彦
出版者
上智大学
雑誌
上智アジア学 (ISSN:02891417)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.313-401, 2005-12-27

<特集>東南アジアの土器と施釉陶磁器(Technology and Chronology of Gazed Ceramics in Southeast Asia) 第4部:フィリピン:貝塚土器の編年 (Part 4: The Philippines : Chronology of the Earthenware of Shell-middens, Earthenware and Glazed Ceramics in Southeast Asia)
著者
田中 和彦 Kazuhiko Tanaka
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal of social welfare, Nihon Fukushi University
巻号頁・発行日
vol.130, pp.31-43, 2014-03-31

アセスメントはソーシャルワークの要とされ,質の高いアセスメントができてこそ価値に基づくソーシャルワーク実践が展開できるといえる.若手PSWに対するソーシャルワーク実践力の向上を目的とした研修の方向性を探るために,アセスメントプロセスに着目し,若手PSWのアセスメントの特徴について,面接事例を用いた内容分析をおこなった.その結果,若手PSWのアセスメントプロセスにおける困難性として①PSWの枠組みでクライエントのスキルの査定を中心としていること,②変換ミス(クライエントの言葉についてクライエントの真意をくみ取れないまま,PSWの言葉で言い換えている),③話題の回避(クライエントが話したいと思われることについて避けている),④病理・欠損モデル(クライエントの問題点を抽出しようとする視点が強い),⑤直線的理解(状態の原因探しに視点が偏重である)という特徴がみられた.さらに上記5点は相互に影響しあい,アセスメントの本来の目的であるクライエントの全人的理解を困難にしていることがわかった.研修の方向性として,エキスパートのアセスメントスキルの抽出を踏まえ,体験の積み重ねだけにとどまらないアセスメントスキル獲得のための研修の必要性と,そのためのソーシャルワークの「職人技」の言語化の必要性が示唆された.
著者
山形 眞理子 田中 和彦 松村 博文 高橋 龍三郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

環南シナ海地域の先史時代の交流というテーマに最も合致する遺跡として、ベトナム中部カインホア省カムラン市ホアジェム遺跡を選び、平成18年度(2007年1月)に発掘調査を実施した。ベトナム南部社会科学院、カインホア省博物館との共同調査であり、ベトナム考古学院の協力もいただいた。その結果、6m×8mの面積の発掘区から甕棺墓14基、伸展土坑墓2基を検出することができた。そのうち6号甕棺から漢の五銖銭2枚が出土したことから、ホアジェムの墓葬の年代を紀元後1,2世紀頃と結論づけることができた。平成19年度にはカインホア省博物館において出土遺物の整理作業を実施した。6個体の甕(棺体)をはじめ、多くの副葬土器を接合・復元することができたが、それらはベトナム中部に分布する鉄器時代サーフィン文化のものとは異質で、海の向こうのフィリピン中部・マスバテ島カラナイ洞穴出土土器と酷似することがわかった。これは南シナ海をはさんで人々の往来があったことを示す直接の証拠であり、重要な成果である。ボアジェム遺跡とオーストロネシア語族の拡散仮説との関係、さらには、1960年代にハワイ大学のソルハイムが提唱した「サーフィン・カラナイ土器伝統」の再吟味という、二つの重要な課題がもたらされた。甕棺に複数遺体を埋葬する例があることも大変に珍しい。たとえば8号甕棺からは3個の頭蓋骨を含む多くの人骨が検出され、人類学者によって一人が成人女性、あとの二人は5歳くらいの子供と確認された。成人は改葬ではなく一次葬である。人骨の系統分析(歯冠計測値と歯のノンメトリック形質にもとづく)によれば、ホアジェム人骨の特徴はフィリピンのネグリトとの親縁性を示した。遺跡から採取した炭化物と貝の放射性炭素年代は前1千年紀前半を示したが、これは墓葬に先行する居住の時期と考えられる。
著者
田中 和彦
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.143-152, 2017-03-31

2013 年(平成25)年にアルコール健康障害対策基本法が成立し,わが国のアルコール依存症を含めたアルコール健康障害対策は新たなステージに入った.2016(平成28)年に閣議決定された「アルコール健康障害対策推進基本計画」では,「アルコール健康障害に対する予防及び相談から治療,回復支援にある切れ目のない支援体制の整備」が挙げられており,地域におけるアルコール依存症治療における連携体制の確立が急がれる.わが国では,アルコール依存症が医療化した1961(昭和36)年以降,自助グループの誕生と相まって,各地の実情に合わせたアルコール依存症治療のための連携が取り組まれていた.その代表的なものが,大阪方式,世田谷方式,三重モデルである.本稿では,この3 つのモデルのレビューと比較検証を行った.その結果,3 つのモデルは二次予防から三次予防に比重を置いた連携体制であることがわかり,アルコール依存症の「医療化」という目的に基づいた連携体制であることが分かった.一方でそれぞれのモデルが進化,発展を遂げており,一次予防を含めた取り組み,すそ野の広がるアルコール問題への対応などに取り組んでいることも明らかになった.今後の課題として,医療化してきたアルコール問題を,医療化の視点のみならず,地域課題としてとらえていく視点の重要性,アルコール問題の予防から,早期発見,介入,治療,回復支援と地域生活を支えるアルコール問題トータルサポートネットワークの必要性が示唆された.
著者
田中 和彦
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.69-85, 2003 (Released:2003-11-19)
参考文献数
35
被引用文献数
2 2
著者
三宅 亜希子 小沼 聖治 佐藤 光市 杉本 浩章 小松尾 京子 田中 和彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.129, pp.107-123, 2013-09-30

本研究は, 相談援助実習の巡回指導における実習教育スーパービジョンの内容とその課題を明らかにすることを目的としている. 巡回指導における複数回の実習教育スーパービジョンにおいて, それぞれの回で取り上げるべき実習教育スーパービジョン項目があることを仮説とし, 各回の実習教育スーパービジョンの項目を明らかにするための調査を行った. 分析方法は, 新カリキュラム初年度に本学通信教育課程の教員が作成した 『巡回指導ガイドライン』 の分類枠組みを作業仮説とした逐語データの分析である.その結果, (1)それぞれの回の巡回指導を構成する実習教育スーパービジョン項目の位置づけ, (2)実習生の語りから実習教育スーパービジョンの手がかりを得ることの有用性, (3)実習教育スーパービジョンにおける 「実習記録」 活用の有用性が明らかになった.
著者
山形 眞理子 松村 博文 鐘ヶ江 賢二 田中 和彦 俵 寛司
出版者
昭和女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

平成21年度にベトナム中部・ホアジェム遺跡の第二次発掘調査を行った。カムラン湾岸に位置する鉄器時代埋葬遺跡である。この遺跡で甕棺墓に副葬される土器群は、フィリピン中部カラナイ洞穴、タイ南部サムイ島出土土器と酷似する。考古学的な考察から土器の年代は紀元後2~3世紀と推定され、埋葬人骨の放射性炭素年代もそれを裏付けた。東南アジアに国家が出現する時期、南シナ海を渡って交流した人々の存在が明らかになった。