著者
松井 美穂
出版者
札幌市立大学
雑誌
札幌市立大学研究論文集 = SCU journal of Design & Nursing (ISSN:18819427)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-10, 2013-03-31

サウス・キャロライナ州出身の白人女性作家 Julia Peterkin は,Scarlet Sister Mary において,プランテーションの黒人たちが話すガラ英語を用いながら,教会から罪人として追放され,最初の夫に棄てられた後,父親の違う子供を何人も産み育て,最終的に経済的にも性的にも自立した存在となる一人の黒人女性の姿を描いている.Peterkin 自身,エリート階級の白人女性として南部家父長制社会における抑圧を敏感に感じ取っていたことが伝記的事実からうかがえる.彼女は,最初の出産の折,医者である父親によってこれ以上の出産には耐えられないと判断され,彼女の意識がないうちに,不妊手術を施されることになる.この事は,父権制社会において女性が主体的に自身の性と身体をコントロールする存在となりうることの困難を物語っていると言えるが,そういう点から考えると,男性に依存せず,性的に自由で,かつ多くの子供を産む主人公 Mary は,作者の抑圧された状況を反転させた人物であり,また,抑圧や規範からの解放を探求するための Peterkin 自身のペルソナでもあったと解釈できるであろう.Peterkin は自ら黒人女性のペルソナを借りることによって白人社会の批判を試みたとも言える.他の白人作家同様,Peterkin も本作品において完全にステレオタイプな黒人表象を免れているわけではないが,性規範の逸脱と同様,カラー・ラインの逸脱も重大な意味をもった当時の南部社会において,あえて Peterkin が黒人女性の視点を通して白人社会を見ようとしたことは重要である.Scarlet Sister Mary, written by Julia Peterkin, from South Carolina, is the story of a black girl named Mary. Although Mary was expelled from her male-dominated church and community for being a sinner and abandoned by her husband, she lives socially, economically, and sexually independent from men. She also has several children, each of whom has a different father. In contrast to Mary, Peterkin, as a plantation mistress, seemed to feel confined within the genteel and male-dominated society of the South. Peterkin's biographical facts show that Mary is the opposite of Peterkin herself. Throughout her life, she had suffered through traumatic experiences with her first delivery, after which she was sterilized by her father, who thought his daughter would never survive another delivery, because the first one had been so difficult. This sterilization clearly showed that in a patriarchal society where the sexuality of a Southern, white, middle-class woman is only utilized for the purpose of maintaining the legitimate white paternal line, her body was controlled not by her own will, but by her father, or men in general. Thus, it can be said that Mary is Peterkin, and that by wearing the black mask, Peterkin finds a way to criticize the male-dominated society that controls desire and the female body, exploring the possibility of female independence. In the South, where racial segregation had been fortified, it cannot be overlooked that Peterkin had assumed the black point of view to really see Southern society and relativize it in her fiction.
著者
松井 美穂 笠井 孝久 Matsui Miho 笠井 孝久 カサイ タカヒサ Kasai Takahisa
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.77-86, 2013-03

本論文では,小・中学生の時期に不登校を経験した青年たちへのインタビューをもとに,不登校経験がその後の生活にどのような影響を及ぼしているのか,すなわち不登校経験と現状のありようとの関連やその意味づけを明らかにすることを試みた。インタビュー内容を分析した結果,家庭や周囲のかかわりのあり方が,彼らの自分自身の問題との向き合い方に大きな影響を及ぼしていること,自分で認めている問題と,実際に問題の本質と考えられるものとの間にズレがあり,不登校が解消した後も扱えずに問題が継続されている可能性が示唆された。これらのことから,義務教育終了後の支援においては,日常の中で彼らの本質的な問題を見据え,働きかける支援者の存在が不可欠であること。彼らの育ちを支えるという視点に立ち,これまでの経過を踏まえその時々の彼らの状態に合わせてサポートをしながら,一緒に問題を考えていける場の必要性が示された。