著者
松井 良明
出版者
奈良工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

ともに1835年に成立した動物虐待法と公道法は、イングランドにおける前近代的なスポーツに対する法的規制としての歴史的意義を有していた。両法は、アニマル・スポーツと公道でのスポーツ活動を合法的に実施するための条件として、「生活妨害」、「風紀紊乱」、「迷惑行為」に該当する要素の払拭と、「動物の福祉」、「万人の通行権」への配慮を提示し、それらの近代化を促した。両法が成立するまで、動物闘技ならびに公道でのスポーツ活動の違法性は、コモン・ロー上の「生活妨害罪」の適用を通して示されているに過ぎなかった。だがその一方で、両法は狩猟、テニス、ファイヴズ、クリケットなどを意図的に対象から除外してもいた。そのため、それらの近代化を停滞させ、前近代性を温存させる側面も有していた。続いて『チティの実用制定法集』第5版を検討した結果、19世紀の制定法に基づくスポーツ規制の広がりは以下のとおりであることが明らかとなった。「動物」、「陸軍」、「鳥」、「刑法」、「犬」、「魚」、「狩猟の獲物」、「遊戯と賭博」、「公道」、「未成年者と子供」、「酩酊アルコール飲料」、「市場と定期市」、「首都ロンドン」、「警察」、「大衆娯楽」、「公衆衛生」、「鉄道」、「歳入」、「船舶」、「日曜日」、「放浪者」19世紀イギリスにおけるスポーツの近代化に関しては、上記項目に分類された制定法諸規定を検討する必要がある。また、その際には個々の制定法の背後にある政治的意図に加え、個々の制定法が施行された後の諸判例の検討も必要となるだろう。イングランドにおけるスポーツに対する政治的な介入はその近代化を促すきっかけになると同時に、その背後にあった政治的な意図についての再考を促している。
著者
松井 良明
出版者
奈良工業高等専門学校
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996 (Released:1996-04-01)

近代スポーツはその大半がイギリスで礎を与えられた。だが、近代スポーツが出現する以前のイギリスには、前近代的な娯楽・スポーツが数多く存在した。たとえば、闘鶏、闘犬、熊がけ、牛がけ、牛追いといったアニマル・スポーツは、今日からすればいずれも残酷で血なまぐさい娯楽であったし、拳闘や棒試合など、人間が直接行うものでも、流血を不可避とするスポーツが少なからず存在した。本研究によってあきらかとなったのは、以下の点である。1.「ブラッディ・スポーツ(流血をともなうスポーツ)」の多くは、とくに王政復古後、ジェントルマン階層のパトロネジを得るとともに、賭を介して民衆のあいだでも大いに人気を博したこと。2.18世紀後半からは、とくに福音主義勢力とそれによる娯楽批判の高まりとともに、その残酷性に対する批判が高まり、「ブラッディ・スポーツ」がその批判対象となっていったこと。3.アニマン・スポーツについて1835年の動物愛護法が、また拳闘についてはコモン・ロ-の罪状が適用されることで、非合法と見なされたこと。4.しかし、ジェントルマンのパトロネジを得た「ブラッディ・スポーツ」は、「八百長試合」を排除し、賭けを公正に行わせるために、ルールの成文化、そして統轄団体の成立を促した。すなわち、民衆の社会規範とジェントルマンの文化が賭博や残酷性を介して、近代スポーツ成立の素地を作りだしていたのである。