著者
井上 富雄 脇坂 聡 松尾 龍二
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

三叉神経運動ニューロンは豊富なセロトニンおよびノルアドレナリン作働性ニューロンからの入力を受けており、これらの神経活性物質を介して活動性の調節を受けている可能性が高い。そこでまず三叉神経運動核を含む脳幹スライス標本を用いて、三叉神経運動ニューロンに対するセロトニンおよびノルアドレナリンの投与の影響を調べた。その結果以下のことが明らかになった。1.セロトニンおよびノルアドレナリンの投与により、(1)静止膜電位が上昇し、入力抵抗の増大が認められた。(2) time-dependent inward rectificationが増強された。(3)脱分極パルス通電によるスパイク発射頻度が上昇した。(4)セロトニンの投与により、スパイク後過分極電位の振幅は変化しなかったが、ピーク時点が遅延し、持続時間が延長した。(5)ノルアドレナリン投与により、スパイク後脱分極電位が増大し、後過分極電位の振幅は減少し、後過分極電位のピーク時点が遅延した。2.セロトニンとノルアドレナリンで効果の異なるスパイク後電位については、(1)後脱分極電位は、EGTAの細胞内注入、Ba2^+の投与により増強され、ω-agatoxin-IVA投与により、抑制された。(2)後過分極電位は、EGTAの細胞内注入、Ba2^+およびω-conotoxin-GVIA投与により抑制され、apaminにより抑制された。以上の結果から、セロトニンおよびノルアドレナリンは三叉神経運動ニューロンの興奮性を上昇させるが、スパイク後電位については逆の効果を示した。このスパイク後脱分極電位はω-agatoxin-IVA感受性高閾値Ca2^+チャネルを介して流入したCa2^+により形成され、スパイク後過分極電位はω-conotoxin-GVIA感受性の高閾値Ca2^+チャネルを介して流入したCa2^+がCa2^+依存性K+チャネルを活性化することで形成されていることが示唆された。
著者
松尾 龍二 美藤 純弘 松島 あゆみ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.6, pp.306-309, 2013 (Released:2013-06-10)
参考文献数
11

上唾液核は顎下腺・舌下腺を支配する副交感神経系の中枢である.ラットの脳スライス標本を用いた電気生理学的実験により,上唾液核ニューロンは興奮性と抑制性のシナプス入力を受けていることが示されている.その主な受容体は興奮性がグルタミン酸受容体とムスカリン性アセチルコリン受容体,抑制性がGABA受容体とグリシン受容体である.免疫組織化学的にもこれらの受容体が検出された.一方,蛍光色素の軸索輸送を利用した組織学的検索により,上唾液核に入力する主な神経群は脳幹部の網様体,結合腕傍核,孤束核,および上位脳の視床下部外側野,扁桃体中心核,室傍核などである.これらの部位は上唾液核に直接入力すると考えられる.これらの神経核群の中で,抑制性GABAニューロンは主に脳幹部の網様体に存在し,前脳の扁桃体中心核や視床下部外側野にも検出された.これらの所見は,唾液分泌が食欲(摂食中枢としての視床下部外側野)や食の嗜好性(扁桃体中心核)を反映することを示唆している.さらに上唾液核へのコリン作動性入力の起始核として,脚橋被蓋核や背側被蓋核が上記の軸索輸送の実験で認められている.これらの部位は網様体賦活系と関連しており,覚醒やレム睡眠の維持などに重要である.精神ストレスは,食欲,情動,睡眠に影響することがよく知られており,これらの上位中枢の変化は唾液分泌にも変調を来すと考えられる.
著者
美藤 純弘 藤井 昭仁 舩橋 誠 小橋 基 松尾 龍二
出版者
日本生理学会
雑誌
日本生理学会大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.236-236, 2007

We showed the glutamatergic, GABAergic and glycinergic synaptic inputs to superior salivatory (SS) neurons which is the primary center of submandibular salivary secretion. This glutamatergic input is considered to derive from the forebrain and brainstem. In the present study, we studied how SS neurons receive the glutamatergic inputs from the forebrain and brainstem in rats. The SS neurons innervating the salivary glands were labeled by retrograde axonal transport of a fluorescent dye. Subsequently some rats were decerebrate. Whole-cell patch-clamp recordings were performed from the labeled cells in slices. Excitatory postsynaptic currents were evoked by electrical stimulation near the recording cell. As compared with normal SS neurons, decerebrate SS neurons showed 3 types of the responses: enhanced responses, similar responses, no responses. The SS neurons which showed enhanced EPSCs receive the excitatory inputs from forebrain and brainstem. Decerebration induced denervation-hypersensitivity in the glutamate receptors. Enhanced EPSCs may be evoked by stimulation of glutamatergic inputs from brainstem. The SS neurons displayed similar responses have mainly excitatory inputs from the brainstem. The SS neurons which displayed no responses produced larger currents by the application of glutamate, suggesting that this type has excitatory inputs exclusively from the forebrain. <b>[J Physiol Sci. 2007;57 Suppl:S236]</b>
著者
松尾 龍二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.4, pp.261-266, 2006-04-01
参考文献数
42
被引用文献数
10 3

唾液腺の活動は自律神経系が担っており,他の消化腺に見られるホルモンによる分泌の調節は知られていない.また副交感神経と交感神経の拮抗作用はなく,副交感神経は主に水分の分泌を調節し,交感神経は主にタンパク質成分の開口分泌に関与している.唾液腺の副交感神経と交感神経の一次中枢はそれぞれ延髄の外側網様体と胸髄の上部に位置している.これらの中枢は主に視床下部の支配下にあり,これに加えて口腔感覚の中継核や大脳辺縁系,大脳皮質が影響を及ぼすと考えられる.しかしこれらの上位の中枢は唾液腺に特有な中枢ではなく,摂食行動,体液浸透圧の調節,体温調節,咀嚼運動の調節,口腔感覚の情報処理などに関連した部位である.したがって唾液腺はこれらの調節機構や行動に必要な効果器の一つであると解釈される.ヒトでの唾液分泌は摂食行動との関連が深いが,実験動物(ラット)では体熱放散や毛づくろいでも唾液が分泌され,これらの機能は顎下腺が担っている.さまざまな唾液分泌の水分量とタンパク質量を比較することにより,その行動における自律神経系の役割を推察することができる.毛づくろいや体熱放散反応時には,副交感神経の活動が高い(20 Hz程度).一方,交感神経は摂食中に最も活動が高いが,体熱放散時の唾液分泌ではほとんど活動していない.この様な両自律神経系の協調性は視床下部の司令によると考えられる.また副交感神経の一次中枢(唾液核)では,全ての細胞が興奮性と抑制性のシナプス入力を受けており,それぞれ伝達物質はグルタメートとGABAまたはグリシンである.一次中枢には強力な抑制機序も存在することは明白であるが,分泌という一方向性の興奮性反応が注目されがちである.抑制系の中枢機序にも今後注目する必要がある.<br>
著者
松尾 龍二 美藤 純弘 松島 あゆみ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.6, pp.306-309, 2013-06-01
参考文献数
10

上唾液核は顎下腺・舌下腺を支配する副交感神経系の中枢である.ラットの脳スライス標本を用いた電気生理学的実験により,上唾液核ニューロンは興奮性と抑制性のシナプス入力を受けていることが示されている.その主な受容体は興奮性がグルタミン酸受容体とムスカリン性アセチルコリン受容体,抑制性がGABA受容体とグリシン受容体である.免疫組織化学的にもこれらの受容体が検出された.一方,蛍光色素の軸索輸送を利用した組織学的検索により,上唾液核に入力する主な神経群は脳幹部の網様体,結合腕傍核,孤束核,および上位脳の視床下部外側野,扁桃体中心核,室傍核などである.これらの部位は上唾液核に直接入力すると考えられる.これらの神経核群の中で,抑制性GABAニューロンは主に脳幹部の網様体に存在し,前脳の扁桃体中心核や視床下部外側野にも検出された.これらの所見は,唾液分泌が食欲(摂食中枢としての視床下部外側野)や食の嗜好性(扁桃体中心核)を反映することを示唆している.さらに上唾液核へのコリン作動性入力の起始核として,脚橋被蓋核や背側被蓋核が上記の軸索輸送の実験で認められている.これらの部位は網様体賦活系と関連しており,覚醒やレム睡眠の維持などに重要である.精神ストレスは,食欲,情動,睡眠に影響することがよく知られており,これらの上位中枢の変化は唾液分泌にも変調を来すと考えられる.