著者
松岡 雅雄 安永 純一朗
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.1376-1382, 2017-07-10 (Released:2018-07-10)
参考文献数
13

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)は,ヒトで初めて同定された病原性レトロウイルスであり,生きた感染細胞を介してのみ感染するという特徴を有している.生体内では,主にCD4陽性Tリンパ球に感染しており,その感染細胞の形質を変化・増殖させ,次の個体へと感染を拡大している.HTLV-1のマイナス鎖にコードされるHTLV-1 bZIP factor(HBZ)はHTLV-1の病原性発現に極めて重要な役割を担っている.この感染細胞を持続的に増殖させるというウイルスの戦略が病原性と結び付いており,感染細胞の抑制が発症予防にも重要である.
著者
畠山 昌則 谷口 維紹 瀬谷 司 大島 正伸 松岡 雅雄 下遠野 邦忠 東 健 秋吉 一成
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

新学術領域研究「発がんスパイラル」は、単一の微生物感染による発がんを中心に、がんの発症・進展に関わる微生物側因子の役割を明らかにするとともに、発がん微生物感染が局所に誘起する炎症・免疫応答が発がんを加速する機構の本態を解明し、革新的ながん予防・がん治療法開発への道を拓くべく平成22年度に開始された。本取り纏めでは、新学術領域研究「発がんスパイラル」の研究成果を以下のように取りまとめた。1.領域研究報告書の作成研究代表者ならびに連携研究者による会合を2回行い、過去4回にわたり発刊したNews Letterの集大成として、5年間の成果をまとめた領域研究報告書を発行した。報告書では、発がん微生物が保有するがんタンパク質の作用機構、微生物がんタンパク質と宿主生体応答系の相互作用ネットワーク、「発がんスパイラル」場形成を担う免疫系細胞の同定とゲノム不安定性を増強するエフェクター分子の作用機構、自然免疫系細胞のがん細胞認識とがん細胞破壊を促進する分子群の同定、など本領域研究から得られた多くの新たながん生物学的知見を記述するとともに、新規ナノゲルやDNAワクチンの開発を通して拓かれつつある「向がん」から「制がん」への宿主応答ベクトル変換を誘導する次世代のがん予防・治療法開発へのプロセスを記載した。インパクトの高い国際一流誌に報告された研究成果も報告書内に別刷として収集した。2.領域公式ウェブサイトの運営:ウェブサイトを通じ、社会・国民に向けた積極的な情報公開を維持した。これまでに公開してきた情報に加え、新たに「研究成果」として過去5年間に進めてきた基礎研究の成果の社会への還元状況を発信した。さらに領域公式ウェブサイトから、各研究者個別のウェブサイトへ相互リンクを図り、利用者はリンク先からさらに詳細な情報を得ることが出来るように工夫した。
著者
松岡 雅雄
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.1030-1037, 2001-06-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia: ATL)が疾患概念として確立され4半世紀が経過し,その病因ウイルスhuman T-cell leukemia virus type I (HTLV-I)の発見から疫学的全貌,臨床像の広がりも解明された.しかし,その病態の分子機序,白血病化機構に関しては不明な点が残されているだけでなく,この予後不良な疾患に対する治療法の開発が急務となっている. ATLは感染から発症までをHTLV-Iプロウイルスという指標で解析可能であるため,リンパ系腫瘍の多段階発がん機構を解析する上で格好のモデルであり,その解明,治療法開発に有益な情報をもたらすことが期待される.