- 著者
-
畠山 昌則
- 出版者
- 日本臨床免疫学会
- 雑誌
- 日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
- 巻号頁・発行日
- vol.31, no.3, pp.132-140, 2008 (Released:2008-06-30)
- 参考文献数
- 27
- 被引用文献数
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胃癌は全世界人口における部位別癌死亡の第二位を占める.近年の研究から,cagA遺伝子を保有するヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の持続感染が胃癌発症に決定的な役割を担うことが明らかになってきた.cagA遺伝子産物であるCagAタンパク質はピロリ菌が保有するミクロの注射針(IV型分泌機構)を通して菌体内から胃上皮細胞内へと直接注入される.細胞内に侵入したCagAはSHP-2癌タンパク質に代表される細胞内シグナル伝達分子と特異的に結合しそれらの機能を脱制御することにより,細胞増殖・細胞運動にかかわる多彩な細胞内シグナル伝達系を撹乱する.同時に,CagAは上皮細胞の極性制御を担うPAR1b/MARK2キナーゼと結合し不活化する結果,消化管粘膜構築を崩壊させる.一連のこうした生物活性から,CagAは胃癌発症に深くかかわることが推察されてきた.ごく最近,ピロリ菌CagAを全身性に発現するトランスジェニックマウスにおいて胃癌,小腸癌さらには骨髄性白血病,B細胞リンパ腫が発症することが明らかとなり,CagAが生体内で直接の発癌活性を示す細菌由来の初の癌タンパク質(bacterial oncoprotein)であることが示された.