著者
畠山 昌則 谷口 維紹 瀬谷 司 大島 正伸 松岡 雅雄 下遠野 邦忠 東 健 秋吉 一成
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

新学術領域研究「発がんスパイラル」は、単一の微生物感染による発がんを中心に、がんの発症・進展に関わる微生物側因子の役割を明らかにするとともに、発がん微生物感染が局所に誘起する炎症・免疫応答が発がんを加速する機構の本態を解明し、革新的ながん予防・がん治療法開発への道を拓くべく平成22年度に開始された。本取り纏めでは、新学術領域研究「発がんスパイラル」の研究成果を以下のように取りまとめた。1.領域研究報告書の作成研究代表者ならびに連携研究者による会合を2回行い、過去4回にわたり発刊したNews Letterの集大成として、5年間の成果をまとめた領域研究報告書を発行した。報告書では、発がん微生物が保有するがんタンパク質の作用機構、微生物がんタンパク質と宿主生体応答系の相互作用ネットワーク、「発がんスパイラル」場形成を担う免疫系細胞の同定とゲノム不安定性を増強するエフェクター分子の作用機構、自然免疫系細胞のがん細胞認識とがん細胞破壊を促進する分子群の同定、など本領域研究から得られた多くの新たながん生物学的知見を記述するとともに、新規ナノゲルやDNAワクチンの開発を通して拓かれつつある「向がん」から「制がん」への宿主応答ベクトル変換を誘導する次世代のがん予防・治療法開発へのプロセスを記載した。インパクトの高い国際一流誌に報告された研究成果も報告書内に別刷として収集した。2.領域公式ウェブサイトの運営:ウェブサイトを通じ、社会・国民に向けた積極的な情報公開を維持した。これまでに公開してきた情報に加え、新たに「研究成果」として過去5年間に進めてきた基礎研究の成果の社会への還元状況を発信した。さらに領域公式ウェブサイトから、各研究者個別のウェブサイトへ相互リンクを図り、利用者はリンク先からさらに詳細な情報を得ることが出来るように工夫した。
著者
松本 美佐子 瀬谷 司
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.20-24, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
22

がん免疫療法では、免疫チェックポイント阻害剤による腫瘍内CD8+ T細胞の機能抑制解除とともに、リンパ節局所での腫瘍反応性CD8+ T細胞の誘導が重要である。新しく開発したRNAアジュバントARNAXは、プライミング相で抗原提示樹状細胞のTLR3を活性化し、炎症応答を誘導することなく抗原特異的CD8+ T細胞を誘導する。がんワクチンや免疫チェックポイント阻害剤との複合的免疫療法が期待される。
著者
瀬谷 司 新開 大史 松本 美佐子
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-8, 2004 (Released:2005-06-17)
参考文献数
39
被引用文献数
4 7

TLRファミリーはロイシンリッチリピート (LRR) の細胞外領域と細胞内のTIR (Toll/IL-1 R homology) ドメインからなる. TLRはリガンドを認識すると細胞内のTIRドメインへアダプター分子MyD88などをリクルートし, NF-κBとMAP kinaseを活性化し, 最終的にサイトカインやケモカインなどを産生誘導する. 一方, 骨髄性樹状細胞 (mDC) ではTLRによるIFN-β産生やIFN誘導遺伝子の発現, 樹状細胞の成熟化などが誘起されるが, これらはアダプター分子, MyD88非依存性に起こる. TLRのIFN-β産生系としてはdsRNA刺激によるTLR3依存性経路, LPS刺激によるTLR4を介したIFN-β産生経路などがある. リンパ球様樹状細胞 (pDC) ではTLR7/TLR9刺激でIFN-αがMyD88依存性に誘導される. 我々は, 本稿でTLR3, TLR4を介したIFN-β産生に関与するアダプター分子の構造と機能を総説し, 新規のIFN-β誘導経路に言及する. 併せてウイルス成分認識性のTLRがtype I IFNを誘導するシグナル経路, これらの経路とウイルス感染が誘起する抗ウイルスの細胞応答の連携を概説する.
著者
松本 美佐子 瀬谷 司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

エンドソームに局在するToll-like receptor 3(TLR3)はウイルス由来の二重鎖RNA(dsRNA)を認識し、タイプI インターフェロンや炎症性サイトカイン産生の誘導、樹状細胞の成熟化を介して抗ウイルス応答を誘起する。しかしながら、どのように細胞外dsRNAをエンドソームで認識するか不明である。本研究では合成dsRNAのpoly(I:C)によるTLR3活性化機構を解析し、poly(I:C)の取り込みとエンドソームTLR3への配送に細胞質タンパクRaftlinが必須であること、RaftlinはクラスリンーAP-2複合体と協調してdsRNAの取り込みに働くことを明らかにした。