著者
松木 正恵
出版者
早稲田大学
雑誌
早稲田大学日本語研究教育センター紀要 (ISSN:0915440X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.27-52, 1990-03-25
被引用文献数
1

いくつかの語か複合してひとまとまりの形で辞的な機能を呆たすものを「複合辞」とする考え方は, 昭和27年に永野賢氏によって提唱された.本稿では, 永野氏の考察を出発点として, 明治20年代以降の資料から用例を収集し, 複合辞の認定基準及ぴ複合辞性の尺度を新たに設定することを試みた.まず, 複合辞を形態により以下に分類する.(1)第1種複合辞(助詞・助動詞のみが二つ以上複合した形-「からには」「ては」等)(2)第2種複合辞(形式名詞を中心にした形-「ものだから」「ところで」「ことだ」等)(3)第3種複合辞(形式用言を中心にした形-「なけれぱならない」「にようて」「といえども」「てもいい」「たらだめだ」等)認定基準は(1)・と(2)(3)では異なり, (1)は, I 形式的にも意味的にも辞的な機能を果たしていること.II 形式全体として, 個々の構成要素の合計以上の独自な意味が生じていること.の二つを満たしたものとし, (2)(3)は, (1)のIのほかに次の二つを満たしたものとする.II^°中心となる「詞」は実質的意味が薄れ, 形式的・関係構成的に機能していること.III^°II^°の語に他の辞的な要素等が結合して一形式を構成する場合, その要素の持つ意味がII^°の語に単に付加され準ものではなく, 形式全体として独自の意味が生じていること.また, 複合辞性(複合辞らしさ)の尺度としては次の三点が挙げられる.(i)構成要素の緊密化の度合い(交春・挿入・省略が可能か否か)(ii)形式名詞・形式用言の形式化の度合い(iii)形式用言の文法範疇(活用・肯否・テンス・丁寧体等)喪失の度合い まず基準を用いて複合辞を選定した上で, 尺度を適用して複合辞性の高低を吟味するという新たな手順を踏むことによって, 多様で曖昧な境界領域である複合辞か多少とも解明できるのではないかと考えている.
著者
松木 正恵
出版者
早稲田大学国語学会
雑誌
早稲田日本語研究
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-9, 2000-03-31
著者
藤田 保幸 砂川 有里子 田野村 忠温 松木 正恵 中畠 孝幸 山崎 誠 三井 正孝(三ツ井 正孝) 江口 正
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、研究代表者らがこれまでに『現代語複合辞用例集』などの形で積み上げてきた複合辞についての記述研究をふまえ、そうしたそれまでの成果を理論的にもまた個別形式の記述においても深めていくことを意図して企画したものであり、補助金の交付期間中にも、(1)複合辞についての従来の研究を見直して、問題点を明らかにするとともに、(2)複合辞各形式についての各論的記述を深める、という点を中心に研究が進められた。まず、第一点の従来の研究の見直しと問題点の明確化という点については、研究代表者藤田により、本研究の初年度に「複合辞の記述研究の展望と現在」と題する研究発表が行われ、現段階の問題点が総括されたほか、研究分担者松木により複合辞研究史についての一連の論文が発表され、学説史の総括が試みられた。第二点の各論的記述の深化については、研究期間内にかなりの成果を上げることができた。具体的に取り上げられた形式は、格助詞的複合辞(もしくは副助詞的複合辞)としては、「について」「において」「をめぐって」「に限って」「によって」(「によっては」との比較を中心に)、接続助詞的複合辞では「として」「からには」「ばかりか」「くせに」「につれて」「にしたがって」「うえで」「こともあって」「ことだし」、助動詞的複合辞としては、「どころではない」などで、それぞれについて各論的研究論文が公にされ、個々の形式の意味・用法に関する詳細な知見が得られた。そのほか、複合辞に関連して、複合辞と助詞「は」の関わりやコピュラ・形式名詞、韓国語・中国語との複合辞的形式の対照などについても研究が進められ、それぞれその成果は論文として公にされた(上記には、研究協力者による研究成果をも含む)。これまでの複合辞研究を記述的に一段深化させるという点で、本研究は相応の成果を上げることができたものと考える。