- 著者
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松永 光平
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
- 巻号頁・発行日
- vol.84, no.5, pp.442-459, 2011-09-01 (Released:2015-10-15)
- 参考文献数
- 97
中国黄土高原の環境史をめぐる研究動向を分野横断的に整理し,今後の研究の課題と方向性を示した.黄土高原の環境史研究は,「人為的植生破壊が土壌侵食を加速させ,黄河の洪水頻度を高めた」という歴史地理学の主張の一方,地質学は「森林は山地のみにあって黄土高原の大半の原植生は草原であり,植生減少を駆動したのは寒冷乾燥化である」と反論するなど,分野ごとに切り分けられてきた.しかし,両者の研究対象のスケールが異なったため,黄土高原の土壌侵食に及ぼす人間活動と気候変動それぞれの影響はいまだ不明瞭である.この課題に対して本稿では,時間・空間スケールの指標として「地形」に着目する.地形が変化しているにもかかわらず,これまで多くの研究者は,現在の地形区分を過去に適用していた.人間活動と気候変動とが土壌侵食に与えた影響を解明するためには,地形の発達を踏まえて黄土高原の環境変遷を明らかにすることが必要である.