著者
佐藤 廉也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.159, 2019 (Released:2019-03-30)

報告者はかつて、2011年当時に全国で使用されていた高校地理A・B教科書(6社14冊)の中に見られる焼畑に関する全記述を拾い上げて整理検討した(佐藤 2016)。その結果、ほぼ全ての教科書の記述に誤りや偏見が見られることを指摘した。その後2016年には教科書改訂が行われたが、現在も多くの教科書では誤った記述内容はいっこうに改善されることなく、ほぼ踏襲されたままである。焼畑に対する誤解と偏見の歴史は古く、1950年代には既にH.C.Conklinの古典的な研究によって指摘されているが、とりわけ地球環境問題の文脈において焼畑が注目を浴びた1980年代以降、2010年代に至るまでの間に、焼畑の持続性に関する膨大な事例研究が蓄積されている。特に1990年代後半以降には、焼畑休閑期間と土壌養分や収量との関係に関する実証的な研究が複数現れており、その結果、焼畑が熱帯破壊の主因であるというかつて根拠のないまま流布していた主張はほぼ否定されるに至っている。要するに、研究の蓄積によって得られた知見と、教科書やメディアによって垂れ流され続ける誤った情報との間のギャップは埋まるどころかむしろ広がる一方なのが現状である。 メディアや教科書の焼畑記述に見られる誤りや偏見を大きく4つのパターンに分けると、(1)常畑耕地造成のための火入れ地拵えを焼畑と混同する誤り(2)焼畑を「原始的農耕」などと記述する偏見(3)熱帯林減少の主因が焼畑であるとする誤り(4)伝統的な焼畑は持続的だが、人口増加に伴って休閑期間が短縮され、結果として土地の不毛化を引き起こすという根拠のない「失楽園物語」、となる。(1)は最も低レベルの誤りであるが、種々のメディアではこの種の誤りが後を絶たない。(2)〜(4)が現在の高校教科書に見られる誤りである。(3)に関しては、熱帯林減少の主要因を地域別に検証したGeist et al. (2002)や、焼畑変容の要因を地域別に整理したVan Vliet et. al. (2012)ほかいくつかのレビュー論文が現れ、その結果、熱帯林減少は主として商品作物栽培を目的とした常畑農地の拡大や、道路建設と並行して進む木材伐採やパルプ材生産を目的とする植林地造成などによって進み、焼畑が熱帯林減少の要因となるケースは稀であることが明らかになっている。一方、(4)は最も根が深い誤りであると言え、地理学者の間ですら誤解が見られる。「人口増加→休閑の短縮化→土地の不毛化」という、未検証の仮説が前提となっているものであるが、2000年以降に発表されたいくつかの論文は、この前提とは逆に、休閑期間と焼畑収量の間にはほとんど相関が見られないという結果を示している(Mertz et al 2008)。 本発表では、上に述べた「誤記述のパターン」がなぜ間違いなのかを、先行研究を引きながら簡潔に説明するとともに、現行教科書の記述を具体的に挙げながら、それらの記述の何が問題なのかを詳細に検討し、誤りを正すにはどうすれば良いのかを検討する。なお、報告者は高校地理B教科書の採択率が最も高い教科書会社に、記述の誤りを指摘する質問状を送ったが、2ヶ月経った現在回答はない。報告当日までに何らかの回答があった場合にはその内容も紹介したい。
著者
蒋 宏偉 佐藤 廉也 横山 智 西本 太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.324-338, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
15
被引用文献数
1

焼畑・漁労・狩猟・採集を生業としているラオス中部の少数民族マンコン集落において,雨季・乾季に分け,成人住民を中心とする生活時間配分調査を行い,主に(1)想起法によって収集した経時的な活動内容の記録,(2)GPSロガーによる生活活動空間情報の記録,および(3)身体活動に費やすエネルギーの加速度計による記録,の3つのデータを収集した.データの分析結果は,労働時間配分における成人男女の分業および男女活動範囲とその相違といった生活活動の時空間パターンを明らかにした.さらに,開発が急ピッチで進んでいるラオス中部地域に生活している焼畑農耕民の各種の生業間の時間配分のつり合いから対象地域の土地利用と生業の変化の解明に重要な手掛かりを提供した.
著者
佐藤 廉也 蒋 宏偉 西本 太 横山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.309-323, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
15
被引用文献数
2

焼畑・漁撈・家畜飼養・狩猟・採集を生業とし,自給的な食生活を維持しているラオス中部のマイノリティ(マンコン)の村において,一年を通じた食生活を把握するとともに,世帯の食料獲得戦略を考察した.データは食事日誌法によって収集し,毎食ごとの主菜・副菜メニューとともに,それらの副食の食材を誰がどこで獲得したのかを記録し,世帯の構成に注意を払いつつ分析した.結果として,子どもが10歳代の時期に世帯の生活収支(生産量から消費量を差し引いた値)もプラスに転じることが推測され,子どもの成長に応じた家計への貢献が重要な役割を果たしていることが示唆された.
著者
佐藤 廉也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.5, pp.351-371, 2020-09-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
41
被引用文献数
4

森の資源に依存して暮らす人びとが生涯を通じて植物知識をいかに獲得していくのかを検討するために,エチオピアの焼畑民マジャンギルを対象に植物知識を測るテストを実施し,その結果を性・年齢に注目しつつ分析した.テストは植物名の知識,樹木利用知識,樹木の断片から樹木名を同定する能力,というレベルの異なる3種を設定した.その結果,植物名と利用知識では,10歳代には急激に,20歳代以上には緩やかに,年齢とともに得点が増加する傾向が認められる一方,生業の性分業に由来すると推測される知識量の性差がみられた.同定テストでは,30歳代までは年齢が高くなると得点も高くなる傾向があるのに対し,40歳代以上では逆に年齢と得点に負の相関が認められ,知識のレベルによって獲得・維持パターンが異なるという結果が得られた.以上の結果と生業活動に関する情報を合わせ,植物知識が生業活動と密接に関連しつつ獲得・維持されるという示唆が得られた.
著者
福井 勝義 宮脇 幸生 松田 凡 佐藤 廉也 藤本 武 増田 研
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、平成17年以来、北東アフリカのエチオピアを主要な対象とし、国民国家の形成過程で頻発してきた民族紛争について、その発生・拡大・和解のプロセスを歴史的に検証することを目的としている。昨年に引き続き本年度も、研究代表者をはじめ研究分担者および研究協力者がそれぞれエチオピア西南部の各民族集団において、民族紛争の発生・拡大・和解に関する聞き取り調査を実施する一方、各地方行政府に収められている行政文書のアーカイブ調査を試みることで、現地で得た情報との整合性を確認し、民族紛争と国家政策との関連性を示した。例えば、研究代表者である福井は、攻撃する側である農牧民メ・エンと攻撃される側である農耕民コンタ双方において戦いとその被害状況に関して情報収集を行った結果、エチオピア帝政期・デルグ社会主義政権期・EPRDF現政権期という20世紀のエチオピアにおける3つの政権の交代期に民族間の戦いが頻発していることが明らかにされた。こうして現地で収集、整理された情報は、国内で年3回開催された研究会合において統合的に分析が進められた。また、空中写真・衛星画像を用いて戦いや環境の変化に伴う各民族の居住領域の変化を時系列的に復元し、これを生態環境データと照らし合わせ比較検討した。これらの情報は今後、各民族における紛争に関する情報収集を継続的に行うことで、より広範な地域における民族間関係を歴史的に明らかにすることが可能になる。また、昨年度より着手したアーカイブ調査を実施していくことで、民族紛争と国民国家への統合のプロセスとの関連性を理解することができるようになる、と考える。
著者
原 裕太 佐藤 廉也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.39, 2022 (Released:2022-10-05)

1. 背景と目的 1950~1960年代における発展途上国等の地表面環境を高分解能で把握する重要なツールの一つに米国の偵察機U-2による偵察空中写真がある.米軍偵察衛星による撮影頻度が比較的低い1960年代前半以前は,土地被覆を把握する有力な選択肢であり,1960年代以降は偵察衛星を補う目的で撮影が続けられ,貴重な情報が蓄積されている.しかし,機密解除された写真フィルムはアーカイブ化が進んでおらず,近年当該写真を紹介する先行研究がいくつか発表されているものの(Sato et al. 2016; Hammer and Ur 2019),経路,頻度の全容解明は道半ばである.本研究では U-2に関する米国中央情報局(CIA)の機密解除文書を用い,東アジア,中央アジアにおける偵察飛行の地理的特徴の解明を試みた. 2. 対象地域と調査資料,研究方法 主な対象は日本,中国,朝鮮半島,ヒマラヤ山岳地域,中央アジア(ソ連領)である.調査資料は米国情報公開法により開示されたCIA機密文書で,当局の電子データベースにミッション名等を入力して網羅的に収集した.なお開示資料には現在も白塗りの非公開情報が多数含まれる.また一部飛行経路は米国立公文書館Ⅱで収集した.得られた経路情報はArcGISで線データに変換し密度解析を行った. 3. CIAによる世界でのU-2偵察回数(国・大地域別) まず,CIAによる偵察飛行の実施回数を示すとみられる一覧表を発見した.当該表では「ソ連」「衛星国(東欧)」「中東」「インドネシア」「ラオス・ベトナム・カンボジア」「NEFA・ネパール・チベット・中国」「北朝鮮・マンチュリア」「キューバ」「南米」の9地域に区分されていた. 最多の偵察は1950年代後半の中東で,次に1958年のインドネシア,さらに1960年代のキューバと中国の順であった.ヒマラヤ~中国は1958~1960年と1962年以降に偵察され,1962年以降は継続的に20回/年近く偵察されたとみられる. 4.国未満の空間スケールでの飛行経路と頻度の傾向 1957~1963年の期間,上記偵察回数に対して実際に飛行経路を把握できたミッションは,中国~ヒマラヤ~朝鮮半島が93.1%(53/58),ソ連領が76.2%(16/21)であった. 重要な発見として,偵察頻度の高い地域が,台湾海峡周辺(>10回)の他に内陸部でも複数抽出された.具体的には,甘粛省中部,チベット自治区東部,ヒマラヤ山岳地域が最も高く(>6回), 次に四川盆地,東南アジア諸国と中国の国境地帯,カシミール~新疆西部等が挙げられた(>4回). また,対ソ連ミッションに関して,大地域別のリストでは記載のないモンゴル領内でも偵察飛行が実施されたこと,対ソ連ミッションのなかで偵察機が新疆やチベットにも飛行していたこと,アラル海やシルダリア川沿い,キルギス等でも複数回にわたり飛行が試みられたこと等を確認した. 以上は,U-2偵察写真の利用可能性を,国未満の空間分解能で議論,検討することをはじめて可能にする成果である. 文献 Hammer, E. and Ur, J. 2019. Advances in Archaeological Practice 7(2):1-20. Sato, R., Kobayashi, S., and Jia, R. 2016. Teledetekcja Środowiska Tom 54: 61-73.
著者
佐藤 廉也
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.308-314, 2004-05-15
参考文献数
7
被引用文献数
1

アフリカには穀芽を使ったローカルビール (醸造酒) とハチミツを発酵させた酒があるが, 詳細については明らかではない。ここではエチオピアのハチミツ酒の製造法と酒文化について紹介していただいた。先ずもと (スターター) を造り, さらに異なった方法で酒を造っている, その製法は発酵技術の理に適っており, その酒の消費が焼畑農業と関連を持つ酒文化であることに大変興味を引いた。
著者
賈 瑞晨 佐藤 廉也 縄田 浩志 松永 光平 劉 国彬 張 文輝 山中 典和
出版者
九州大学大学院比較社会文化学府
雑誌
比較社会文化 : 九州大学大学院比較社会文化学府紀要 (ISSN:13411659)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.17-35, 2011

経済成長に伴う貨幣経済の急速な浸透によって、中国内陸部の農村における物質・社会生活は激しく変容している。こうした背景のなかで、本稿は中国・黄土高原の農村における一つの結婚式を取り上げ、その縁談成立から挙式までの詳細を記述することによって、現代中国農村における伝統と変容の一断面を明らかにし、考察の材料を提供することを目指した。結果として、貨幣経済の浸透によって結婚式は豪華かつ派手になったことにより、婿方の出費は膨大となり、借金の返済が出稼ぎ流動を促す大きな要因となっていることが明らかになると同時に、一方で嫁取り婚・夫方居住や男児偏重の傾向、さらには村の互酬的な人間関係が基層的な社会関係として持続している様相が浮かび上がった。
著者
佐藤 廉也 鳴海 邦匡 小林 茂
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100208, 2014 (Released:2014-03-31)

はじめに 演者らは、1945年8月までアジア太平洋地域で日本が作製した地図(広義の外邦図)の調査を継続する過程で(小林編2009など)、アメリカ国立公文書館Ⅱ(NARAⅡ)の収蔵資料の調査を重ね、同館でU-2機撮影の中国大陸偵察空中写真を公開していることを知った。地形図や空中写真の利用が厳しく制限されている中華人民共和国の地理学研究に際しては、すでにCORONA偵察衛星の写真が広く利用されてきた(渡邊・高田・相馬2006、熊原・中田2000など)。これに対しU-2機による空中写真は、高度約2万メートルで撮影されたもので、地上での解像度は2.5フィート(75センチ)といわれ、実体視も可能である。ただし、その撮影はアメリカの軍事的関心に左右され、また衛星写真と違い広範囲をカバーしないことなど、利用に際しては注意が必要である。まだ未調査の点も多いが、本発表ではここ一年間にわかってきたことを報告し、関係者の関心を喚起したい。U-2機による偵察撮影の背景 よく知られているように、U-2機はアメリカ合衆国の秘密の偵察機として開発され、当初はソ連の核兵器やミサイル開発の偵察に利用された。高空を飛行するため、その攻撃は容易でなかったが、1960年5月にソ連軍により撃墜されパイロットが捕虜になって以後、その存在が広く知られるとともに、ソ連上空の偵察飛行は停止された。当時CORONA衛星の開発が進行していたことも、この停止に関与すると考えられる(Day et al.1998)。これ以前より中華民国空軍のパイロットに訓練を施すなど、U-2による偵察の準備が開始されていたが、1962年初頭からその中国大陸上空飛行が本格的に開始された。 中華民国空軍では、すでに通常の飛行機による中国大陸の空中偵察をアメリカとの秘密の協力関係のもとで実施しており(通称「黒コウモリ中隊」による)、U-2機の偵察についてもアメリカの関与を秘匿するため特別の中隊(通称「黒猫中隊」)を創設し、アメリカ国家安全保障会議の専門グループと大統領および中華民国政府の承認のもとで偵察飛行を行った。撮影済みのフィルムはアメリカに運ばれてからポジフィルムが複製され、中華民国に戻されていたが、一時期には横田基地のアジア写真判読センター(ASPIC)で処理されたこともある(Pedlow and Welzenbach 1992: 226,229)。なお最近の台湾では「黒猫中隊」に関する公文書が公開されるようになっている(荒武達朗徳島大准教授による)。U-2機の撮影対象、写真の特色と今後の課題 以上のようなU-2機の偵察飛行については、CIAが刊行したCentral Intelligence Agency and Overhead Reconnaissance: The U-2 and OXCART Programs, 1954-1974 (Pedlow and Welzenbach 1992)が詳しい。2013年6月に新たに公開されたこのテキストにも伏せ字が残るが、核兵器開発や潜水艦の建造、飛行場やミサイル基地の偵察が主目的であった。また中印国境紛争(1962~3年)に際しても偵察を行い、インドのネルー首相に写真を提供している。ただし中華人民共和国の防空能力は徐々に向上し、1968年以降陸上の偵察は行われなくなり、電子偵察に移行する。 U-2機搭載のカメラは首振り型で、垂直写真のほかその両側の斜め写真も撮影し、いずれも各コマは進行方向に向かって長細いかたちとなる(47×22.5cm)。またフィルム・ロールは右と左に分かれている。1フライトで撮影されるコマは8000にのぼり、ロールが50本以上に達することもあり、特定の地域のコマを探し出すのに長時間が必要である。この背景としては、経度1度、緯度1度の表示範囲に分割されているNARAⅡ備え付けの標定図(マイクロフィルム)からフライトやコマの番号を知ることができても、目指す番号のコマを参照するにはフィルム・ロールの缶に記入された番号だけが頼りなので、場合によってはカンザス州の倉庫に保存されている当該フライトのロールを全部取り寄せる必要があるという事情がある。取り寄せに数日かかるだけでなく、1回の閲覧で参照できるのは10ロールにすぎない。また偵察飛行なので、雲のため地上が写っていないこともしばしばである。今後はU-2機による写真の全容を把握するためには全104のフライトの飛行ルートの図示も目指したいが、標定図のないフライトのある可能性もみとめられ、利用の条件整備には関係者の協力が必要である。なお、本発表の準備に際しては、岩田修二首都大学東京名誉教授のご教示を得た。
著者
佐藤 廉也
出版者
九州大学大学院地球社会統合科学府
雑誌
地球社会統合科学 : 九州大学大学院地球社会統合科学府紀要 : bulletin of the Graduate School of Integrated Sciences for Global Society, Kyushu University (ISSN:13411659)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-28, 2014

エチオピア南西部の森林地帯に棲み、焼畑・蜂蜜採集・狩猟を主生業とするマジャンギルと植物との関係について、植物の利用と認知の両面から記述し、考察をおこなった。マジャンギル居住域および生業活動領域に生育する植物(栽培種38種、野生種269種)を採集し、野生種については標本を前にした聞き取りによって植物の方名、分類、生育地、利用(食料・飲料、建材・囲い、衣料・装飾、儀礼、薬、楽器・遊具、燃料、生業・生活道具、蜜源、間接的利用)に関する情報を得た。マジャンギルは方名を持つ野生種の65.4%を有用植物として認知していた。植物が生育する森林タイプ別に見ると、成熟林、長期休閑林、短期休閑林の順に有用と認識する植物の比率は高く、彼らの森における生業と植物の利用・認知との深い関わりが示唆された。In this paper, I described plant uses and related knowledge among the Majangir, who live in the forest located in Southwestern Ethiopia and have been engaged in swidden agriculture, honey collecting and hunting, to discuss on human-plant relationships in the densely forested habitat. I collected 38 domesticated plant species and 269 wild species found in their habitat and asked people about local names, classification, vegetation in which they are found and utility of wild species in front of specimens. As a result, I showed they recognize 65.4% of wild species as useful plants. They regard 87.5% of wild species found in primary forest, 86.8% in long-fallow forest, and 76.6% in short-fallow vegetation as useful. This may show that the depth of their knowledge on plants is related to the extent of importance of its habitat in terms of their subsistence activities.
著者
増田 研 波佐間 逸博 宮地 歌織 山本 秀樹 野村 亜由美 宮本 真二 田川 玄 田宮 奈菜子 佐藤 廉也 野口 真理子 林 玲子
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題は日本のアフリカ研究者による初めての高齢者研究であり、かつ、人類学と公衆衛生学・保健学を組み合わせた方法論を採用したため、期間を通じてそのアプローチのあり方について模索を続けた。成果として書籍(編著)を公刊したほか、日本アフリカ学会におけるフォーラムの開催、日本アフリカ学会の学術誌『アフリカ研究』に特集を組んだことがあげられる。検討を通じて、都市部貧困層高齢者の課題、アフリカにおける高齢者イメージの解体、生業基盤によるケアのあり方の違いといった探求課題を整理できたことも成果である。