著者
松沢 佑次
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.662-669, 1995-07-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
9

高比重リポ蛋白(HDL)が動脈硬化を予防するリポ蛋白であることが疫学的に証明されて既に20年になるが,必ずしもその分子機構は明らかにされていない.最近の研究によりHDLは,コレステロール逆転送系(本来コレステロールは肝臓で作られ末梢細胞へ運ばれるので,その逆の末梢から肝臓へ運びもどす系)の中で主役をなしていることが明らかになっており,その逆転送系が組織におけるコレステロールの畜積を防御するものと考えられるようになってきた.従って,HDLが欠損するとコレステロール逆転送系が作動しなくなるため,atherogeniclipoproteinが少なくても動脈硬化が伸展するのである.しかし,私達は,HDLの血中レベルが増加しながらこのコレステロール逆転送系が障害されている病態として,コレステロール転送蛋白欠損症を見出した.この異常が動脈硬化と直接結びつくかどうかは,未だ結論は出ていないが,少なくとも日常診療で測定されているHDL-コレステロールの血中レベルのみで,動脈硬化との関連を考察することは不十分であり,HDLの機能的評価が重要であることを示す病態である.
著者
北 徹 中谷 矩章 松沢 佑次 KOREAKI NAKAYA
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

我国においても食生活の欧米化に伴い、狭心症、心筋梗塞等の虚血性心疾患の発生頻度が年々上昇している、我々の研究成果を基に上記症の根底をなす動脈硬化発症につき、ことに血清コレステロール代謝に注目し、まず食餌因子の血清コレステロールに与える影響について検討を試みることにした。従来より食餌性の諸因子が血清コレステロール、ことにLDLコレステロールに影響を与えることが知られている。我々は動物性食物の摂取がほとんど無い禅宗修行僧に注目し、彼等の血清脂質と食餌成分とを比較検討し、合わせて外国人および日本人修行僧の比較を試みた。<結果>京都市内の禅寺修行僧を対象に検討とたところ(平均年令29.7才)血清総コレステロール値135,1mg/dlでLDL値は73mg/dlであった。一方コントロールの成人男子は血清コレステロール値が188.9mg/dlでLDLが108.6mg/dlであり、明らかに修行僧の血清コレステロール値ことにLDLコレステロール値は低値を示した。次に外国人、日本人の同居する禅寺において検討したところ、外国人の総コレステロール値は149mg/dl、LDL値は77mg/dl、日本人のそれは150mg/dl、82mg/dlであった。一方コントロールのそれは187mg/dl、112mg/dlであり、人種差が影響していないことが判明した。また禅寺に入山前後で食餌成分の影響を検討したところ、入山前総コレステロール、LDL値は166mg/dl、92mg/dlで6ケ月後に136、77mg/dlに低下している事が判明した。食餌分析の結果、総摂取カロリーには変化が少ないが、禅僧はコレステロールの摂取がほとんど無くしかも動物性食物の摂取が無いためと思われるが、不飽和脂肪酸の摂取が多く、それに比して飽和脂肪酸の摂取が少ない事が明らかとなった。現在動物を用いて飽和脂肪酸を多く含んだ食事、逆に不飽和脂肪酸を多く含んだ食事により、血清コレステロール値の変動を検討する予備実験を進めている。
著者
松沢 佑次 PARK Y.B. KOSTNER G.M FUJIMOTO W.Y 山下 静也 KYUNG Y.B.Park KOSTNER G.M.
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

最近、動脈硬化の最も大きな基盤である脂質代謝異常に人種的・地域的な特徴が存在することが明らかになった。本研究では、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)の遺伝子異常と、LDL受容体の遺伝子異常の各タイプ別頻度を国内外で調査し、動脈硬化の国別の遺伝子基盤の相違を明らかにするために以下の検討をした。1.CETP欠損症CETP欠損症の変異は従来6種発見されているが、この中で比較的頻度が高いことが推察されるイントロン14の異常(IN14)及びエクソン14変異(EX15)を中心とする4変異について検討した。CETP欠損症の遺伝子異常としては、6種類発見されているが、IN14とEX15が大部分を占め、G181X変異も頻度は少ないながら、共通変異であった。IN14のホモ接合体は、全例がHDL-C100mg/dl以上を呈し、EX15のホモ接合体ではこれより低値を示す例が多かった。また、CETP遺伝子変異を有しても、HDL-C値が正常のものもあった。これに対して、国外ではCETP欠損症の頻度は極めて少なかった。日系米人の調査では、HDL-Cが90mg/dl以上のものが計27人あり、その中で、EX15のヘテロ接合体が4人、EX15とIN14の複合ヘテロ接合体が1人発見された。また、韓国においても日本人の共通変異が2種見出された。日系米人でも変異は日本人と共通していた。また、ドイツ人の高HDL血症例で新たな変異が見出され、これは日本人には存在しない変異であった。一方、米国及び欧州ではCETP活性の正常な高HDL血症例が存在し、そのリポ蛋白像はCETP欠損症と異なり、CETP欠損症以外の成因による高HDL血症の存在が示唆された。2.LDL受容体異常(家族性高コレステロール血症、FH)LDL受容体異常に関しては、我が国での遺伝子異常として見つかっているものには、約26種類の変異があったが、この中5つは共通変異で、日本人のFHの約1/3がこれらの変異で説明できた。これらの共通は日本全国で分布し、特定の地域への集積は認められていない。一方、欧米のFHではわが国で見出された変異は見つかっておらず、日本人の起源を推定する上で、アジア地区にも対象を広げて解析する必要がある。