- 著者
-
松澤 孝明
- 出版者
- 一般社団法人 日本内科学会
- 雑誌
- 日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
- 巻号頁・発行日
- vol.107, no.11, pp.2344-2350, 2018-11-10 (Released:2019-11-10)
- 参考文献数
- 10
ライフサイエンス分野は,その成果が国民の健康や福祉に直結し,また,国としての研究投資の大きい分野である.このため,研究不正に対する社会的な関心が高く,各国において注目を集めた不正事案が発生しており,その結果,各国の研究公正システムの形成・発展を牽引する役割を果たしてきた. この分野における研究不正の特徴は,研究不正の発生事案数が多く,我が国の自然科学における研究不正の約75%が集中していることである.また,研究不正の内容として,捏造・改ざん型が多く,重篤な不正と受け止められやすいことや,図表の改ざん等,第三者にも検証しやすい研究不正が多いこと等も特徴として挙げられる. 自然科学系の場合,実験を中心に研究が進められるため,研究を指導する教授のみならず,実際に実験に関与した職階の低い若手研究者も研究不正の責任を問われやすい.研究不正は意図的に行われるばかりでなく,認識不足等が契機となって発生することも多い.また,各国の研究公正システムには国毎に不均一性が存在し,研究活動のグローバル化に伴い,意図せず研究不正に巻き込まれるリスクも懸念されている.このため,研究倫理教育の充実が今日の研究不正対策の課題となっているが,ライフサイエンス分野は,研究倫理教育においても牽引的役割を期待されている.