著者
中村 徹 林 一六 田村 憲司 上條 隆志 荒木 眞之
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

ユーラシア大陸の北緯50度前後を、東西8,000キロに及ぶ大草原(ステップ)のベルトがある。このステップを平成15年から平成18年に生態調査した。調査項目は1)植物相調査、2)植物社会学的植生調査、3)ワク法による種組成と現存量の調査、4)土壌断面調査である。この結果,次のような新たな知見が得られた。1)植物相調査では、カザフスタン・モンゴル国境を境に、西側と東側とで植物相が大いに異なること、さらに、モンゴル・中国内蒙古と日本とを比較すると、草原では植物相が大きく異なるのに対し、湿地では類似している、ことが明らかになった。2)植物社会学的植生調査により、やはり、アルタイ・天山両山脈を境に、種組成に基づいた群落が大きく異なることが明らかになった。また、降水量などの気候条件と、人為の種類と強度によっても群落が異なる。3)ワク法による調査の結果、耕作などの放棄後の遷移系列を類推することができた。また、放棄後10年前後で種多様性が最大になること、および現存量は場所によって大きく異なり、450-1000kg/haの炭素が蓄積されていることなどが判明した。4)土壌断面調査では、各国数カ所ずつの土壌断面を作成した結果、やはり西側と東側とでステップの土壌が異なることが明らかになった。西側では、やや降水量が多いこともあり、色の黒いチェルノーゼムが主体であり、東側では色が薄く、カスタノーゼムが主体である。以上を総括すると、カザフスタン・モンゴル国境付近のアルタイ・天山両山脈を境界に、東と西とでは、植物相、植物群落、土壌が大きく異なる。この原因として、1)標高の高い山脈を植物が乗り越えられず、種の交流が少ないこと、2)東側は降水量がやや少なく乾燥に傾いているが、西側は逆に降水量がやや多いこと、3)人為の種類も、東側は放牧が中心であるのに対し、西側では耕作が主体であること、などがあげられる。
著者
小島 久子 鞠子 茂 中村 徹 林 一六
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.55-64, 2003

長野県菅平にある筑波大学の樹木園に植栽されたブナとミズナラの開葉時期と,葉の霜に対する耐性について実験を行った.実験にはマイナス5度以下に調節できる生育箱と野外で同じような冷却条件が与えられる自然放射冷却装置を製作して用いた.この自然放射冷却装置は既報の論文を参考にこの実験のために製作した.同時にブナ群落の分布限界とされている黒松内を中心とした北海道南部各地の温量指数と遅霜出現時期を検討した.開葉時期は1988年から1994年までの7年間記録し,その平均を求めた.それによると,ブナはミズナラより平均10日ほど早く開葉し,それに要する日温量指数はブナで平均113℃日,ミズナラで182℃日であった.一方,開葉したばかりの葉の霜に対する耐性の実験では,ブナの開葉したばかりの葉は霜に遭うと枯死し,開葉前の芽の段階では霜にあっても枯死しなかった.ミズナラは枝の先端に複数の冬芽を付け,若葉が霜で枯れても側芽が開葉し,その後成長できた.それにたいして,ブナの頂芽は前年の8月ころから形成され,側芽をもたないので,開葉後,遅霜に遭うとその後の成長ができなかった.ミズナラは,開葉時期が遅いことと,側芽を持つことによって,遅霜の害を回避している.開葉時期の遅れは,遅霜のない地域では光合成の開始時期の遅れとなり,物質生産においてブナに対して不利である.ブナは光合成を早く開始する代わりに遅霜に遭遇する危険をもつ.この二つの実験から,ブナは日温量指数が113℃日に達した後遅霜がある地域には自然には分布できないが,ミズナラは上に述べた生態的特性によってその地域でも分布でき,より北に分布を広げることができると思われる.日温量指数が113℃日に達した後に遅霜がある地域を北海道南部で調べてみると,倶知安と岩見沢が相当する.ブナが分布できる黒松内と倶知安のあいだには羊蹄山,ニセコアンヌプリなどの山塊があり,この山塊付近が113℃日に達した後遅霜がある地域に当たりブナの自然分布を妨げていると考えられる.これをブナの北限を説明する開葉時期-遅霜仮説とする.この仮説から,日温量指数が113℃日に達する前に最後の遅霜のある地域では黒松内以北でもブナは生育できるので,人為的に植えればブナは生育できるであろう.
著者
中村 徹 郷 孝子 鳥 云娜 林 一六
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.342-350, 2000-01-31
被引用文献数
16

内蒙古バイインシル草原において24の立地で枠法による群落調査を行い,103種の植物を記録した。そのうち30種は50%以上の調査地点に出現した。それらの種類は,放牧の強さによって群落内での重要度を変化させた。この30種と文献による14種を加え43種を用いて,放牧圧に対する各種の反応を検討した。弱い放牧圧の立地で高い重要度を示す種はAneurolepidium chinense, Stipagrandis, Achnathelum sibiricumであった。これらの種類をタイプIとした。逆に,放牧圧の強い立地で高い重要度を占める種類はCarex Korshinskyi, Cleistogenes squarrosa, Artemisia frigidaなどであった。これらの種類をタイプIIとした。Kochia prostrateやPotentilla bifurcaなど,放牧圧の強さにかかわりなくある程度の量を維持していた種類をタイプIIIとした。それらの群落構成種をもって立地の状態を判定する指数を工夫した。そのために,これらタイプI,II,IIIにそれぞれ4,0.25,1という評点を与え,この評点と各群落構成種の重要度指数の積の合計をもって立地の状態指数(Stand Quality Index:SQI)とした。すなわちSOI=Σ(rl・s)rl:それぞれの種の相対重要度,s:50%以上の出現頻度を持つ種を含む44種のそれぞれの種の評点。この立地状態指数は,1979年から16年間放牧を中止した草原では975,現在放牧を続けている草原で300前後となった。へクタールあたり8頭を越える放牧を行うと,この指数は100以下となった。草原の構成種の生育型組成は,放牧圧が強くなると匍匐型(p型)が増し,放牧圧の弱い立地では分枝型(b型)が増えた。群落の種多様性は,放牧圧が弱い立地では高くなる傾向を示したが,立地の状態指数とは直接関係がみられなかった。
著者
林 一六 伊藤 洋
出版者
筑波大学
雑誌
筑波大学菅平高原実験センター研究報告 (ISSN:09136800)
巻号頁・発行日
vol.8, 1987

この補遺は1985年に「菅平の高等植物目録」が発行された後で、菅平に生育が確認された種類を記録したものである。目録の中の a, b, cなどの文字は次のような意味である。産地、A : 根子岳、四阿山の上部、B : 同じく中腹、菅平高原、大松山の中腹、C : 菅平湿原を含む菅平の最も低い方面。産状、A, B, C : 普通に産するもの。A, b, c : まれに産するもの。 ...