著者
森 英樹 上條 隆志 正木 隆
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.244, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

木本性ツル植物は樹木に取り付くことで、その生育を阻害し、結果的に森林の構造や動態に影響を及ぼすと考えられている。しかし、このような知見の多くは熱帯や亜熱帯地域に集中していて、温帯林ではごくわずかである。そこで本研究では、冷温帯林における木本性ツル植物の空間分布を明らかにし、ホスト樹木、地形および自然攪乱の影響の大きさを検証した。調査地は北茨城市に位置する小川試験地(6ha)である。樹木(DBH1cm以上・全18664本)に取り付くツル植物の種、DBH、位置を記録した。ツル植物は計1408本、計10種記録された。このうち個体数が最も多かった5種(フジ、ツルマサキ、イワガラミ、ツルアジサイ、ツタウルシ)を解析対象とした。本研究の結果からは、温帯林におけるツル植物はホスト樹木の選択性が強く、熱帯林とは対照的に、自然攪乱がツル植物の分布に及ぼす役割は小さいことが示唆された。また、種によって地形の選好性が異なり、種ごとの分布に反映されていると考えられた。
著者
中野 智之 上條 隆志 高山 浩司 岸本 年郎 廣田 充
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

小笠原諸島の西之島は、2013年からの噴火によりほぼ全ての陸地が溶岩に覆われ新たな島となった。西之島は最も近隣の小笠原諸島父島から約130km離れた海洋島であり、海洋島における生態系の成立過程を観察できる世界で唯一の場所である。令和元年度に環境省が実施した総合学術調査において海産無脊椎動物、陸上植物、昆虫等陸棲節足動物、土壌微生物が採集された。本研究課題では、主にDNA解析に基づき、海産無脊椎動物、植物、昆虫、土壌微生物の視点から、「なにが」、「いつ」、「どこから」、「どのように」遷移が起きたのかを人類史上初めて明らかにするものである。
著者
上條 隆志
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は三宅島2000年噴火後の森林生態系の種構成、多様性、機能に関する回復メカニズムを明らかにすることを目的とした。本年度については、以下の調査・解析を行った。1.2000年から2004年に設置した島内34箇所の固定調査区(100m^2から625m^2)において、植生調査と毎木調査をい、既存データと共に解析を行った。2.地上部の刈り取り調査を15地点行った。また、オオバヤシャブシについては個体別に刈り取りを行った。得られた試料の乾燥重量を測定し、バイオマス推定を行った。3.固定調査区6か所において土壌調査を行い火山灰ならびに埋没土壌を採取した。4.固定調査区2か所においてリタートラップを設置し、その回収を行った。5.固定調査区2か所においてシードトラップを設置し、その回収を行った。以上の調査解析結果から、噴火後5年間の植生変化パターンを明らかにすることができた。(1)火山ガスの影響が少なく、火山灰の堆積が厚い地域においては、樹木は胴吹きし、草本層ではハチジョウススキなどが増加した。(2)火山ガスの影響が強く、火山灰の堆積が薄い地域においては、樹木はむしろ衰退し、回復は草本層でのみみられ、森林から草源への退行遷移を示した。また、シードトラップの結果から、ハチジョウススキは裸地においても、周辺から多くの種子が供給されていることが分かった。噴火後に裸地化した地点同士で比較すると、火山ガスの影響の少ない地域の地上部バイオマスが噴火後5年で400g/m^2前後にまで回復したのに対して、火山ガスの影響の強い地域の地上部バイオマスは1.8g/m^2から95g/m^2程度であり、2004年から2005年の増加量も少なかった。リターフォールについては、年間のデータを得ることはできなかったが、継続調査することによって純一次生産量を推定する予定である。
著者
吉倉 智子 村田 浩一 三宅 隆 石原 誠 中川 雄三 上條 隆志
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.225-235, 2009-12-30

ニホンウサギコウモリ(<i>Plecotus auritus sacrimontis</i>)の出産保育コロニーの構造を明らかにすることを目的とし,本州中部の4ヶ所のコロニーで最長5年間の標識再捕獲調査を行った.出産保育コロニーの構造として,齢構成,コロニーサイズとその年次変化,性比および出生コロニーへの帰還率について解析した.また,初産年齢および齢別繁殖率についても解析した.本調査地におけるニホンウサギコウモリの出産保育コロニーは,母獣と幼獣(当歳獣)による7~33個体で構成されていた.また,各コロニー間でコロニーサイズやその年次変化に違いがみられた.幼獣の性比(オス比)は,4ヶ所のコロニー全体で54.2%であり,雌雄の偏りはみられなかったが,満1歳以上の未成獣個体を含む成獣の性比は1.0%とメスに強い偏りがみられた.オスの出生コロニーへの帰還率は,全コロニーでわずか3.6%(2/56)であった.一方,メスの翌年の帰還率は,4ヶ所のコロニーでそれぞれ高い順に78.9%,63.6%,16.7%,0%であった.初産年齢は満1歳または満2歳で,すべてのコロニーを合算した帰還個体の齢別繁殖率は,満1歳で50%(12/24),満2歳で100%(13/13)であった.また,満2歳以上のメスは全て母獣であり,出産年齢に達した後は毎年出産し続けていることが確認された.<br>
著者
中村 徹 林 一六 田村 憲司 上條 隆志 荒木 眞之
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

ユーラシア大陸の北緯50度前後を、東西8,000キロに及ぶ大草原(ステップ)のベルトがある。このステップを平成15年から平成18年に生態調査した。調査項目は1)植物相調査、2)植物社会学的植生調査、3)ワク法による種組成と現存量の調査、4)土壌断面調査である。この結果,次のような新たな知見が得られた。1)植物相調査では、カザフスタン・モンゴル国境を境に、西側と東側とで植物相が大いに異なること、さらに、モンゴル・中国内蒙古と日本とを比較すると、草原では植物相が大きく異なるのに対し、湿地では類似している、ことが明らかになった。2)植物社会学的植生調査により、やはり、アルタイ・天山両山脈を境に、種組成に基づいた群落が大きく異なることが明らかになった。また、降水量などの気候条件と、人為の種類と強度によっても群落が異なる。3)ワク法による調査の結果、耕作などの放棄後の遷移系列を類推することができた。また、放棄後10年前後で種多様性が最大になること、および現存量は場所によって大きく異なり、450-1000kg/haの炭素が蓄積されていることなどが判明した。4)土壌断面調査では、各国数カ所ずつの土壌断面を作成した結果、やはり西側と東側とでステップの土壌が異なることが明らかになった。西側では、やや降水量が多いこともあり、色の黒いチェルノーゼムが主体であり、東側では色が薄く、カスタノーゼムが主体である。以上を総括すると、カザフスタン・モンゴル国境付近のアルタイ・天山両山脈を境界に、東と西とでは、植物相、植物群落、土壌が大きく異なる。この原因として、1)標高の高い山脈を植物が乗り越えられず、種の交流が少ないこと、2)東側は降水量がやや少なく乾燥に傾いているが、西側は逆に降水量がやや多いこと、3)人為の種類も、東側は放牧が中心であるのに対し、西側では耕作が主体であること、などがあげられる。
著者
上條 隆志 廣田 充 川上 和人
出版者
首都大学東京小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究 = Ogasawara research (ISSN:03868176)
巻号頁・発行日
no.46, pp.69-77, 2020-03

小笠原諸島の西之島は、2013年からの火山活動によって大きく面積が拡大した。2013年以前から存在していた島の大部分は、新たな溶岩流やスコリアに覆われ、ほぼ新島に近い状態となった。本調査は、西之島の植物、植生、土壌の現況を明らかにすることを目的として、2019年9月に現地調査を行った。現地調査の結果、維管束植物として、オヒシバ、イヌビエ、スベリヒユの3 種を確認した。これまでの記録を基に検討すると、これら3種は2013年噴火以前から生育していた個体群由来と考えられた。土壌については、表層土壌を採取し、全炭素量、全窒素含量を測定した。さらに、今後のモニタリングのために、5地点において方形区(10m × 10m)を設置し、方形区内の植生調査を行った。
著者
上條 隆志 廣田 充 川上 和人 森 英章
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.800, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

西之島は、小笠原諸島父島の西約130kmに位置でする火山島である。1973~1974年に噴火し、2013年から2019年に至るまで断続的に噴火している。特に2013年以降の噴火では大きく面積を拡大した。このように現在の西之島は、そのほとんどが新たに成立した生態系であり、孤立した生態系が回復してゆくプロセスを観測するのに極めて適している。本研究では、このような西之島において、新島(一部に旧島部分が残存)における初期状態を記録し、今後のモニタリングの基礎を作ることを目的とした。現地調査は2019年9月に実施した。調査は、上陸できた西側と南西側の浜の2地域で行い、踏査による植物の確認と、10m×10mの方形区(5地点)の設置により行った。現地調査の結果、オヒシバ、スベリヒユ、イヌビエの3種の生育を確認した。なお、2008年時点では、これら3これら3種に加え、グンバイヒルガオ、ハマゴウ、ツルナの3種が生育していた。現在確認できる3種の分布は主に旧島部分であるが、オヒシバとスベリヒユについては、旧島部分の直下の海浜にも分布を広げていることが確認された。その一方で、2013年以降に堆積した溶岩上では、これら植物の生育は確認できなかった。
著者
下川 真季 上條 隆志 加藤 拓 樋口 広芳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P5036, 2004

2000年7月の噴火以降、亜硫酸ガスの噴出が続く三宅島ではスギの枯死が顕著であり、今後、島内の多くのスギ植林地に何らかの植生回復・緑化手段が講じられる可能性がある。そこで本研究では、三宅島におけるスギ人工林の土壌中に含まれる埋土種子集団について、発芽可能な種子数および種組成を明らかにし、その植生回復・緑化利用に対する可能性を検討した。2002年12月、島内のスギ人工林において噴火により堆積した火山灰(以下、火山灰)と噴火前の埋没土壌(以下、表土)を採取した。2003年4月、表土と火山灰、および表土と火山灰の混合物(以下、混合)を用いて、播き出し実験を開始した。定期的に発芽数の測定を行い、さらに出現個体を同定した。表土試料から平均2776±90個体/_m2_(値は現地換算したもの)が発芽し、28種が同定できた。一方、火山灰試料からは85±37個体/_m2_が発芽し、6種が同定できた。また、混合試料からは 1912±638個体/_m2_が発芽し、31種が同定できた。主な出現種は、草本ではダンドボロギク・ハシカグサ・コナスビ・シマナガバヤブマオ・ドクダミ・カヤツリグサ類、木本ではカジイチゴ・ヤナギイチゴなどであり、三宅島の二次遷移初期にみられる種が多く見られた。三宅島での一次遷移初期にみられるハチジョウイタドリやハチジョウススキ、オオバヤシャブシなどの先駆種は全く出現しなかった。また、出現した種のうち、外来種はダンドボロギクの一種のみと少なく、在来種が多かった。以上のことから、三宅島のスギ人工林における埋土種子集団は、種子数・種組成ともに植生回復・緑化利用に対して大きな可能性をもつことが明らかとなった。
著者
樋口 広芳 長谷川 雅美 上條 隆志 岩崎 由美 菊池 健 森 由香
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.69-75, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)

八丈小島は外来種であるイタチや野ネコがいない島として,典型的な伊豆諸島の食物連鎖系が残された唯一の島である.しかし昭和44年全島民が離島の際に残されたノヤギが増加し植生被害が顕在化したため,本研究会がノヤギの駆除を提言し,東京都と八丈町が2001年~2007年に計1137頭のノヤギを駆除した.その後,植生は回復していったが,駆除後の生態学的調査は行われていなかったため,今後の保全と活用に資するための基礎査として本研究を行なった.植物においては,希少種であるハチジョウツレサギ,カキラン,オオシマシュスランが駆除後はじめて確認され,爬虫類では準固有種であるオカダトカゲが他の島と比較してより高密度で生息していることが確認された.鳥類では2013年には準絶滅危惧種のクロアシアホウドリが飛来し,2016年-2017年には2個体,2017-2018年には7個体が巣立ち,同種の繁殖北限地となった.イイジマムシクイやアカコッコ,ウチヤマセンニュウなどの希少種が観察されたほか,準絶滅危惧種のカラスバトも高密度で生息していることが確認され,本島が伊豆諸島において貴重な生態系を有することが示唆された.
著者
菊池 輝海 上條 隆志 小川 泰浩 岡部 宏秋 石森 良房
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.231-234, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
8
被引用文献数
1 3

2000年噴火後の三宅島では,高濃度火山ガスの影響のため,現在も山腹に荒廃斜面が見られる。森林総合研究所と(株)伊豆緑産は,島内での継続的な緑化試験を経て,東京クレセントロール工法を開発した。本研究では,本工法の定量的データを観測し,その治山緑化機能を明らかにすることを目的として,資材の捕捉土砂量と植生定着量の計測を行い,他工法との比較を行った。結果,本資材はピット領域に最大1 kg / m2以上の土砂を堆砂させ,他工法と同等の土砂捕捉能力を示した。また,他工法よりもハチジョウススキの自然侵入と定着を促進させる能力を示した。本工法の施工地に播種・植栽を行うことで,緑化効果を高めることが示された。
著者
上條 隆志 川越 みなみ 宮本 雅人
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.157-165, 2011-07-30
被引用文献数
6

2000年噴火以降の植生にみられた変化について、著者らの既存の報告を中心にして紹介する。噴火初期の植生被害は、陥没カルデラの形成に伴う山頂部の消失、泥流の発生、火山灰の堆積による被害であった。山頂部の消失によりハコネコメツツジなどが島内で絶滅した可能性がある。火山灰放出の終息後も、二酸化硫黄を含む火山ガスの放出が続いたため、噴火後も樹木被害が進行し、植生は退行的に変化した。その一方で、特定の草本種が増加した。草本優占種の変化としては、オオシマカンスゲからハチジョウススキへと変化する地点が多かった。2005年以降オオバヤシャブシなどの木本は全体増加傾向にあるが、増加がみられない地点も多く、場所によってはハチジョウススキ優占群落が長期的に成立し続ける可能性がある。噴火と二酸化硫黄放出によって島内で減少した種がある一方で、噴火後に特異的に増加した種もみられた。その一つであるユノミネシダは火山ガス濃度の高い島の東部に多く出現した。
著者
高橋 俊守 加藤 和弘 上條 隆志
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態學會誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.167-175, 2011-07-30
被引用文献数
2

時系列的に観測した衛星画像を用いて、三宅島2000年噴火後の植生の変遷をモニタリングした。1994年から2009年にかけて、JERS-1/0PS及びTerra/ASTERによって観測された16時期の画像を用い、噴火前1時期および噴火直後2年まで、噴火後3~5年、噴火後6~9年の3時期分のNDVI画像に集成した。これらのNDVI画像をもとに、ISODATAクラスタリング法により教師無し分類を行った結果、NDVIの変遷パターンを分類することができた。分類された画像では、噴火後もNDVIの値が相対的に高く、噴火に伴う植生被害が相対的に少ない地域が認められた。これらの地域は樹林地を示しているが、NDVI値は徐々に減少する傾向が続いていた。一方で、噴火後にNDVI値が著しく減少し、その後増加に転じている、草地を示すグループが認められた。NDVI値の変化が植生のどのような変化に対応しているか検証するため、三宅島南西部の阿古地区において、噴火後に継続して実施されている11地点の植生調査の結果をもとに対応関係を評価した。植生構造を高木層、亜高木層、低木層、草本層に分け、それぞれの階層の植被率を合計した値とNDVIとの相関分析を行った。この結果、それぞれの階層の植被率を合計した値とNDVIにはいずれの時期においても有意な相関関係が認められた。ただし、それぞれの階層の植被率とNDVIの相関関係は、植生変遷の過程とともに変化し、一定でなかった。
著者
上條 隆志
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

三宅島において森林生態系の遷移を明らかにすることを目的として以下の研究を行った。1.11年度設置の調査区(1962溶岩、1874溶岩および8000年以上前の噴火堆積物(極相)に各2カ所)に加え、1983溶岩上に2カ所の調査区を設置した。その結果、(1)他の植物が全く生育しない溶岩上にオオバヤシャブシが侵入し低木林を形成し、その後、タブノキーオオシマザクラ林、スダジイ林へと遷移すること、(2)地上部現存量は125年(1874溶岩)で12-20kg/m^2であり、ハワイの研究例(137年で1.9kg/m^2)に比べ、遥かに大きくなることが明かとなった。これは、オオバヤシャブシの窒素固定作用が遷移を促進しているためと考えられた。2.土壌断面調査を行い、11年度の規則サンプリングによる土壌分析結果と併せて解析を行った。地上部炭素量は急速に増加するのに対して、土壌炭素量の増加速度は125年で0.4-0.6kg/m^2と遅く、地上部に対する土壌炭素量の比は0.04-0.1と著しく小さかった。一方、極相ではその比は0.7-1.4と大きく、炭素蓄積速度が地上部と土壌で異なる変化様式を持つことが明かとなった。3.各年代の溶岩上のオオバヤシャブシの葉の窒素濃度を測定した。窒素濃度は年代に関わらず、2%前後と高い値を示した。これは、オオバヤシャブシの窒素固定能力によるものであり、遷移初期の土壌でN濃度が高い(11年度研究成果)のは、窒素を含んだオオバヤシャブシのリター供給が関係していると考えられた。4.各調査区にリタートラップを設置した。2000年7月より噴火活動が活発化したため、定期的なサンプリングはできなかったが、火山灰が森林生態系の遷移に与える影響に関する基礎データを得ることができた。5.以上の研究成果と11年度研究成果を基に論文を作成し、国際誌に投稿した。
著者
上條 隆志
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.59-72, 1996
被引用文献数
5

&nbsp;&nbsp;1.伊豆諸島八丈島の垂直分布と遷移ならびに主要構成樹種のニッチ拡大をあきらかにするために,種が豊富で八丈島と気候的,地質的に類似している南九州の黒島(更新世火山)および開聞岳(完新世火山)との間で,垂直分布の比較研究をおこなった. <BR>&nbsp;&nbsp;2.八丈島の八丈富士(完新世火山)ではタブノキ林が優占していたのに対して,三原山(更新世火山)ではスダジイ林が優占し,山頂部周辺のみにタブノキ林が分布していた.このような分布様式は,大局的にはタブノキ林からスダジイ林への遷移的関係により成立しているものと考えられた. <BR>&nbsp;&nbsp;3.開聞岳や黒島と比較すると八丈島のスダジイ,タブノキならびにヒサカキは,カシ類を欠くことによって垂直的な優占域の拡大,すなわち,その垂直的なニッチを拡大していた.特に,三原山山頂部周辺のタブノキ林は,カシ類の欠如によるタブノキの優占域拡大により成立した特異的な森林タイプと考えられた. <BR>&nbsp;&nbsp;4.種の垂直分布パターンは,八丈富士と開聞岳,三原山と黒島とは異なっていたのに対して,生活形の垂直分布パターンは類似していた.いずれも山頂部は常緑小型葉樹が多くなるが,新しい火山(八丈富士と開聞岳)でより顕在的になっていた.このことから生活形の垂直分布はフロラが異なっても,類似した環境下では一定のパターンを示すものと考えられた. <BR>&nbsp;&nbsp;5.以上のように,八丈島では,カシ類をはじめとする樹種が欠けることによって,それらの種が占めていた分布域を島に生育する他の樹種(スダジイ,タブノキ,ヒサカキ)が埋めること,すなわち,島に生育する種のニッチの拡大が生じていることがあきらかになった.
著者
上條 隆志
巻号頁・発行日
2012

科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書:基盤研究(C)2009-2011
著者
吉倉 智子 村田 浩一 三宅 隆 石原 誠 中川 雄三 上條 隆志
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.225-235, 2009 (Released:2010-01-14)
参考文献数
49
被引用文献数
3

ニホンウサギコウモリ(Plecotus auritus sacrimontis)の出産保育コロニーの構造を明らかにすることを目的とし,本州中部の4ヶ所のコロニーで最長5年間の標識再捕獲調査を行った.出産保育コロニーの構造として,齢構成,コロニーサイズとその年次変化,性比および出生コロニーへの帰還率について解析した.また,初産年齢および齢別繁殖率についても解析した.本調査地におけるニホンウサギコウモリの出産保育コロニーは,母獣と幼獣(当歳獣)による7~33個体で構成されていた.また,各コロニー間でコロニーサイズやその年次変化に違いがみられた.幼獣の性比(オス比)は,4ヶ所のコロニー全体で54.2%であり,雌雄の偏りはみられなかったが,満1歳以上の未成獣個体を含む成獣の性比は1.0%とメスに強い偏りがみられた.オスの出生コロニーへの帰還率は,全コロニーでわずか3.6%(2/56)であった.一方,メスの翌年の帰還率は,4ヶ所のコロニーでそれぞれ高い順に78.9%,63.6%,16.7%,0%であった.初産年齢は満1歳または満2歳で,すべてのコロニーを合算した帰還個体の齢別繁殖率は,満1歳で50%(12/24),満2歳で100%(13/13)であった.また,満2歳以上のメスは全て母獣であり,出産年齢に達した後は毎年出産し続けていることが確認された.