- 著者
-
柚木崎 千鶴子
- 出版者
- 公益社団法人 日本食品科学工学会
- 雑誌
- 日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.10, pp.549, 2009-10-15 (Released:2009-12-08)
- 参考文献数
- 6
1. フリーラジカルがんや動脈硬化,心臓病などの生活習慣病や老化促進に,活性酸素種による生体組織の酸化が密接に関与していることが明らかとなりつつある.活性酸素種は,酸素を含む反応性の高い化合物の総称であり,ラジカルと非ラジカルがある.脂質関連物質を含む広義の意味においての活性酸素のうち,前者としては,反応性の高いものからヒドロキシラジカル(・ OH),アルコキシラジカル(LO・ ),ペルオキシラジカル(LOO・ ),ヒドロペルオキシラジカル(HOO・ ),一酸化窒素(NO・ ),二酸化窒素(NO2・ ),スーパーオキシドアニオン(O-2・ )などがある.後者の非ラジカルグループには一重項酸素(1O2),オゾン(O3),過酸化水素(H2O2),脂質ヒドロペルオキシド(LOOH)などがある1).一般に電子は2個で対をなしている状態で,原子軌道あるいは分子軌道に安定に収容されているが,対にならずに一つだけ軌道に存在する場合(不対電子)がある.これがフリーラジカルできわめて反応性が高い.酸素分子は不対電子が2個存在するのでビラジカルと言われている.体内に取り込まれた酸素は4電子還元を受けて水になる.その過程で1電子還元によりO-2・ ,2電子還元によってH2O2,3電子還元によって・OHが生成する.さらに生体内で発生したフリーラジカルは,高度不飽和脂肪酸のラジカル反応に関与し,脂質ヒドロキシペルオキシド(LOOH)を生じる2).2. ラジカル消去能これらの活性酸素種は,生体防御において積極的に利用される反面,一方では,高い反応性を有するために,生体内たんぱく質,脂質やDNAなどの生体成分を酸化して,たんぱく質の変性,脂質の過酸化,遺伝子の損傷を引き起こし,種々の疾病の発症に関与していると考えられている.このような酸化傷害から自己を防御するために,生体内では,H2O2はカタラーゼにより不活性化され,LOOHはグルタチオンペルオキシダーゼにより分解され,O-2・ はスーパーオキシドディスムターゼにより不均化されることが知られている3).このような生体内防御機構の他に,活性酸素種はアスコルビン酸,トコフェロール,カロテノイド,種々のポリフェノール類等によって消去されることから,植物由来抗酸化成分が,活性酸素が関与する種々の疾患の予防に有効ではないかと期待されている.抗酸化成分の作用メカニズムの一つとしてラジカル阻止があげられる.この過程は,以下のような段階を経るものと考えられている4).1) ラジカル補足段階 : フリーラジカルに抗酸化物質が水素原子を与え,抗酸化物質がもとのフリーラジカルよりも反応性の低い安定フリーラジカルを形成する段階.2) ラジカル終結段階 : 安定フリーラジカルが非ラジカル化合物となりラジカルが消去する段階.3. 分析法ラジカル消去能を含む抗酸化能をin vitroで測定する方法は,HAT(hydrogen atom transfer水素原子供与)反応,あるいはET(electron transfer電子供与)反応の2つのタイプに大別される.HAT反応に基づく測定法では,ORAC(oxygen radical absorbance capacity)法,TRAP(total radical trapping antioxidant parameter)法が,ET反応に基づく測定法では,DPPH(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl)法,TEAC(Trolox equivalence antioxidant capacity)法などが代表的である5).このうちORAC法の公定法化がAOU(Antioxidant Unit)研究会により検討されているが,DPPH法は,非常に簡便な方法であるため抗酸化活性を有する作物のスクリーニングに広く用いられてきた.筆者らもDPPH法により,種々の宮崎県産農産物の可食部,非可食部150試料の抗酸化活性を測定した結果,茎葉利用カンショ(すいおう)葉,サトイモ(泉南中野早生)果皮,マンゴー(アーウィン)果皮,茶(やぶきた)葉,シソ科ハーブ類のブラックペパーミント,スペアミント,スィートバジル,レモンバーム,ローズマリー,ステビアの葉およびブルーベリー葉が高いラジカル消去能を示した6).