- 著者
-
坪内 博仁
- 出版者
- 一般財団法人 日本消化器病学会
- 雑誌
- 日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
- 巻号頁・発行日
- vol.110, no.12, pp.2033-2041, 2013 (Released:2013-12-05)
- 参考文献数
- 30
私たちは,劇症肝炎患者血漿より肝再生因子である肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor;HGF)を初めて単離精製し,そのcDNAのクローニングにも成功した.HGFは728アミノ酸残基からなる一本鎖のポリペプチドとして産生され,シグナルペプチドが外れて細胞外に分泌され,HGF activatorなどのプロテアーゼによりプロセシングを受けて活性型になる.HGFは細胞増殖促進作用だけでなく,細胞分散促進作用,腫瘍細胞障害作用,抗アポトーシス作用,抗線維化作用など多機能な生理活性を有する.HGFの特異的受容体は癌原遺伝子産物c-Metであり,細胞内にチロシンキナーゼドメインを持つ,いわゆるチロシンキナーゼ型受容体である.HGFの多機能な生理活性は,すべてこのc-Met受容体を介して発現する.HGFはD-ガラクトサミン肝炎を抑制し,Jo2誘導急性肝不全モデル動物の生存率を高める.私たちは多くの非臨床試験を実施し,HGFの薬効や安全性を確認したのち,京都大学探索医療センターにおいて劇症肝炎および遅発性肝不全患者を対象として,わが国で初めての未承認薬を用いた医師主導治験を実施した.4例の劇症肝炎および遅発性肝不全患者に組換え型ヒトHGFが投与され,限定的ではあるもののその安全性が確認された.その成果を踏まえ,現在,日本科学技術振興機構の支援を受け,急性肝不全薬としての開発が進められている.