著者
新山 馨 柴田 銃江 齋藤 智之 直江 将司
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.339-351, 2021 (Released:2022-04-26)
参考文献数
70

ササ類は日本の多くの森林で繁茂し、その種の違いは森林植生区分の指標として重要視されてきた。一方で密生したササ群落はしばしば樹木の更新を妨げる。そのためササ類の分布動態の解明は、森林生態学や森林管理上の大きな課題である。本研究はササ類3種が分布する小川保護林において、1) ササ群落の分布動態は、稈高や稈寿命、地下茎の形態などの生態的特性を用いて予測できるのか、2) 雑種起源のアズマザサは親種であるミヤコザサとどのような競合関係にあるのか、3) 極相であるブナ-スズタケ群集に向かってスズタケの優占が進むのか、の3点を検証することを目的に、ササ類3種の稈の分布を30年間 (1990年 - 2020年) 調査した。小川保護林内に設置した小川試験地 (6ha) の10m格子上にある600個の方形区 (2m × 2m) で調査した結果、年拡大速度は、稈高が最も高いスズタケで117m2/year、稈高の低いミヤコザサとアズマザサでは47、53m2/yearであった。稈寿命はスズタケ、ミヤコザサ、アズマザサの順で、15年、2年、7年と推定された。このような3種の分布動態の違いは、稈高や稈寿命などと対応し、アズマザサとミヤコザサは稈高が似ていて共存状態が続くと示唆された。稈高が高く稈寿命も長いスズタケは拡大を続け、ブナ-スズタケ群集へ遷移すると推測された。しかしスズタケ群落の1つが2017年に開花枯死したので、スズタケの実生更新が今後の研究課題となる。
著者
斉藤 正一 柴田 銃江
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.223-228, 2012-10-01 (Released:2012-11-22)
参考文献数
30
被引用文献数
13 15

ナラ枯れ被害を受けやすい森林特性や, 被害林再生の見込み, ナラ枯れが農山村の生活基盤に及ぼす影響を検討するため, 山形県において, ナラ林のタイプや被害程度の異なる林分の森林構造や, 被害木の分解過程などを調べた。ナラ枯れが始まってから10年内には, ほとんどのミズナラ林冠木は枯死したが, コナラ林冠木は少なくとも4割程度が生存した。激害ミズナラ林の林冠層植被率は28%だったが, 激害コナラ林では47%だった。さらに, コナラ林の亜高木層には少数ながら高木性樹種もみられた。そのため, ミズナラ林では高木層を欠く状態が長く続くが, コナラ林ではある程度の林冠修復が期待できる。しかし, 実生稚樹による天然更新は, ユキツバキを主とする常緑広葉樹が低木層を占有し続けるため, どちらのナラ林タイプでも困難だろう。また, ナラ枯れ枯死木の多くが5年ほどで倒伏したことから, 被害激化地域では, 倒木による電線切断や道路閉鎖などのライフラインの障害が数年内に頻繁に発生することが危惧される。
著者
正木 隆 柴田 銃江
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.359-369, 2005-08-31
被引用文献数
5

日本で例外的に広域または長期におこなわれてきた森林研究の成果のうち、いくつかを紹介した。第一に、北上山地でミズナラの種子落下を23年間(1980-2002年)調査した研究では、際立った豊作(健全種子100個/m^2以上)が1987年と1996年に見られ、そのほかの年では30個/m^2以下の低値安定であった。種子生産の豊凶を示す変動係数(CV)は20年以上の観測をおこなわないと安定した値が得られないことが示された。第二に、東北地方の国有林の約150の森林事務所(範囲は200×500 km)でブナの結実状況の視認が1989年以来継続してきている。2000年までの12年間に、観測点の8割以上で並作以上だったのは1995年と2000年の2回のみであった。それ以外の年では、東北地方の一部でのみ結実するか、またはほとんど結実がみられなかった。結実が同調しているスケールは60-190 kmと判断されたが、これは広域調査をおこなったからこそ把握できた知見である。一方、ブナの花芽形成のトリガーの検出には、林分単位で気象条件をモニタリングする必要のあることが示唆された。これらのブナやミズナラの長期・広域での結実モニタリングから、それを餌とする野生生物の保全管理に有益な情報が提供されることが期待される。第三に、スギ人工林(明治41年植栽)を間伐した試験地で、昭和28年(45年生)から平成14年(94年生)までのモニタリング結果に基づいて、スギの成長を個体ベースで解析した。どの林齢でもスギの直径成長は周辺の自己より大きいスギの胸高断面積合計から負の影響を受けていた。また、45年生時点での各個体のモデル予測値と実測値の差分を計算し、それをモデルの説明変数として加えたところ、それ以降の林齢でモデルの決定係数が0.1-0.2ほど改善された。これは、森林動態予測モデルの開発や、長伐期経営における個体管理技術に貢献する成果である。一方、天然林動態の長期観測研究は開始されてからまだ約10年で、群集動態のメカニズムの解明には至っておらず、さらなる長期観測が重要であると考えられた。林業を産業として再生することなしに、長期・広域観測による森林の科学的研究を深化させることは困難であることを論じた。
著者
正木 隆 森 茂太 梶本 卓也 相澤 州平 池田 重人 八木橋 勉 柴田 銃江 櫃間 岳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.48-57, 2011
被引用文献数
1 3

林冠の閉鎖した94年生アカマツ人工林において, 間伐後8年間の個体の成長経過を同齢の無間伐林, 140年生天然アカマツ林と比較しつつ, 成長が改善されたか否か, 成長変化と相関する因子は何か, この人工林を天然アカマツ林のような大径木を含む林型に誘導できるか否か, を検討した。サイズは天然林 (DBH=68 cm, <I>H</I>=30∼35 m) の方が人工林 (DBH=41 cm, <I>H</I>=25∼30 m) よりも高い値を示した。形状比は人工林で50∼80, 天然林で40∼70だった。樹冠長率は人工林0.2∼0.4に対し, 天然林では0.25∼0.5だった。間伐により人工林の約4割の個体の成長が0.1 cm yr<SUP>−1</SUP>改善されたが, 無間伐林では逆に8割の個体の成長が低下した。個体の成長の改善度は, 隣接個体との競合環境の変化や, 樹冠長率など個体の着葉量の指標と連関していなかった。この人工林が140年生時に天然林のような大径木を含む林型に達するには, 今回観測された成長の改善では不十分である可能性が高いと考えられた。