- 著者
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桑野 隆
- 出版者
- 日本質的心理学会
- 雑誌
- 質的心理学研究 (ISSN:24357065)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.1, pp.6-20, 2008 (Released:2020-07-06)
- 被引用文献数
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バフチンには,『ドストエフスキイの創作の諸問題』(1929)とその改訂増補版『ドストエフスキイの詩学の諸問題』(1963)という 2 つのドストエフスキイ論がある。本稿では,これらの著書およびその周辺の著作を比較検討することにより,主として〈ポリフォニー〉,〈対話〉,〈声〉に関する見解の変化を確認することにした。その結果,1920 年代後半から 30 年代半ばまでに目立つ「社会(学)的」視点が 1960 年前後の著作には見られないこと,また 1920-30 年代にはもっぱら「さまざまな声があること」を強調していたのに対して,1960 年前後には「ともに声をだすこと」をも重視しはじめていることが,明らかになった。さらには,『ドストエフスキイの詩学の諸問題』では,〈ポリフォニー〉や〈対話〉こそが他者に対する格別の「能動性」を必要とすることが繰り返し強調されていることも再確認できた。こうした点を考え合わせると,バフチンの対話原理の要点は,「距離」を確保した「対話的能動性」を身につけてはじめて「心に染み入る対話」も可能になるとの主張にあるといえよう。