- 著者
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森 いづみ
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.101, pp.27-47, 2017-11-30 (Released:2019-06-14)
- 参考文献数
- 32
- 被引用文献数
-
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本稿では,国・私立中学への進学が生徒の進学期待と学業上の自己効力感に及ぼす影響について検討する。日本の先行研究では,私立中学へ進学する生徒の背景として多くの要因が明らかにされてきたが,実際に進学した際の効果についての実証研究はいまだ少ない。本稿の課題を検討するため,2011年の「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS)の日本の中学2年生データを用いて,国・私立中学に進学したことによる因果効果をより積極的に検証するために,傾向スコアを用いた分析をおこなった。 分析の結果,国・私立中学へ進学した生徒は,公立に進学した類似の特徴をもつ生徒と比べて進学期待が高まりやすく,とくに階層の低い生徒の進学期待が高まりやすいことが分かった。また,国・私立中学へ進学すると学業的な自己効力感が弱まりやすく,とくに学力の高い生徒の学業的な自己効力感が弱まりやすいことが分かった。 これらの結果から,日本の国・私立中学への進学は,生徒の在学中の学業面に対して,正と負の両方の効果をもつことが示唆された。これらの効果を説明しうるメカニズムについて,トラッキング研究の枠組みを参照して教授上の効果やピア効果を検討したところ,進学期待については週当たりの数学指導時間や学校の学業重視の風潮によってその効果の一部が説明された。学業的な自己効力感については,ピア効果の一つである周囲の学力の高さによって大部分の説明がなされた。