著者
森 直久
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.81-91, 2005-01

被疑者に対する不当な取り調べの抑止のため、取り調べ状況の可視化の必要性が叫ばれている。しかし取り調べ状況の可視化、少なくとも対話体資料の作成と開示は、被疑者だけでなく、すべての供述者についてなされるべきであろう。本論文は、実際の刑事事件を題材に、供述心理学の立場からこの問題を考察した。わいせつ事件の被害者とされている女子学生の供述調書に加え、彼女が二人の教師との間で繰り広げた、捜査初期の会話テープが分析された。このテープには、後の捜査で明らかとなるわいせつ行為の大要が含まれていた。しかし、それらはしばしば、教師の度重なる同一質問や促しの結果語られていた。また後の捜査で登場する事項が否定的に語られたり、このテープ以外ではほとんど登場しない事項が語られていたりした。被害者の供述が、このようなコミュニケーションによって整形されていったとすれば、その信用性は低いと言わざるを得ない。他方これが例外的な事態であることが判明すれば、供述の信用性と取り調べの適切さが認められたであろう。取り調べ状況の可視化がなされていたら、どちらの事態が発生していたのかを判断することも、被害者の供述が信用できるか判断することも容易であったであろう。
著者
田中 彰吾 森 直久
出版者
心の科学の基礎論研究会
雑誌
こころの科学とエピステモロジー (ISSN:24362131)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.2-17, 2022-06-05 (Released:2022-06-05)

新型コロナウイルスの感染拡大にともなって、オンライン会議システムを利用する機会が増え、テレワークや遠隔授業を通じて社会に定着しつつある。オンラインでの会話と対面での会話に違いがあることはすでに広く認知されているが、具体的にどのような質的差異があるのかは必ずしも明らかにされていない。本稿は、現象学者メルロ゠ポンティの「間身体性」の観点を応用して、この差異を解明することに取り組む。間身体性は、自己の身体と他者の身体とのあいだに潜在する相互的・循環的な関係性であり、非言語的コミュニケーションの同期と同調を通じて表出する。対面での会話場面とオンラインでの会話場面の観察データを間身体性の観点にもとづいて比較・分析すると、両者には、視線・姿勢・距離など、非言語の身体的相互作用において大きな違いが見られる。対面での会話は、自他間の身体的相互作用から創発する「あいだ」(または「間(ま)」、「場」)によって会話の過程と内容が左右され、情動や気分が参加者間で共有されやすい。これに対して、オンラインでの会話は身体的相互作用が貧弱になるものの、参加者間で創発する「あいだ」による拘束を受けにくく、明示的な言語的メッセージのやり取りや、個人的な見解に踏み込んだ意見の交換を促進しやすい。
著者
森 直久
出版者
札幌学院大学総合研究所 = Research Institute of Sapporo Gakuin University
雑誌
札幌学院大学心理学紀要 = Bulletin of Faculty of Psychology
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.57-71, 2018-10-31

現在の大学には,学力,意欲,集団への適応力に困難を抱える学生が少なからず存在している。本論文は,このような学生の支援を,生態心理学的アプローチによって遂行しようとするプロジェクトの構想と計画を述べる。学生たちの困難を,特定環境下で不適応的に安定した知覚−行為循環の結果ととらえる。そして適応的な知覚−行為循環を構成する適切なアフォーダンス知覚およびそれを可能にする行為を特定し,環境の整備によって適応的な知覚−行為循環を導こうとする。これが本プロジェクトの基本姿勢である。多様な特性と困難をかかえる学生集団に対して同時に,このような環境整備を実現するため,『学び合い』の実践を導入する。この実践の中で学生らは,適切な知覚−行為循環を生み出す,認知的,社会的なアフォーダンス知覚と行為調整を学習していくことが期待される。
著者
森 直久
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2011-11-24

新制・論文博士