著者
森 章夫 小田 力 和田 義人
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.79-90, 1981-06-30

ヒトスジシマカの休眠卵は低温短日下で育った雌成虫によって産まれるが,卵休眠を誘起する温度,日長条件に最も感受性が高いのは蛹と成虫期であった.長崎では9月中旬から休眠卵が多くなり,10月下旬には産まれる卵がすべて休眠卵であった.休眠卵は翌年2月頃覚醒するまでは孵化することはなく,屋外では3月中旬から5月下旬にかけて孵化する.しかし,非休眠卵でもある程度の耐寒性を備えており乾燥していたりすると越冬も可能である.それゆえ休眠卵は秋に卵が孵化し冬の寒さで幼虫が死滅することを防ぐのに役立っていると考えられる.Diapausing eggs of Aedes albopictus are laid by females reared under the condition of low temperature and short photoperiod. The pupa and the adult are sensitive stages to temperature and photoperiod in the induction of egg diapause. In Nagasaki, diapausing eggs increase in mid September, and all eggs laid after October are in diapause. These diapausing eggs overwinter, and would not hatch until the diapause is broken in February of the next year. Hatching of diapausing eggs begins in mid March and continues until late May. Through some non-diapausing eggs can overwinter, it is sure that most overwintering eggs are in diapause in the field. It seems that the advantage of egg diapause is to prevent eggs from hatching before winter.
著者
福見 秀雄 林 薫 三舟 求真人 七条 明久 松尾 幸子 大森 南三郎 和田 義人 小田 何 茂木 幹義 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.p97-110, 1975-12

長崎地方における日本脳炎(日脳)ウイルスの生態学的研究のうち1964年から1973年に至る10年長間の調査成績を総括し解析を加えた.日脳ウイルスの主媒介蚊であるコガタアカイエカのウイルス感染の拡がりは媒介蚊の密度が最高に達する以前か或いはその時間に一致しているのが例年の様相である.また,人の日脳流行は主に豚の日脳感染が始まる頃の媒介蚊の密度によって影響されるようである.過去10年,相当の大量の越年コガタアカイイカ雌成虫から日脳ウイルスの分離を試みたが,いずれも不成功に終った.このことは蚊体内におけるウイルスの越年の可能性は南方諸地域とは異ることが推察される.
著者
林 薫 三舟 求真人 七条 明久 鈴木 博 松尾 幸子 牧野 芳大 明石 光伸 和田 義人 小田 力 茂木 幹義 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.p129-142, 1975-12

1973年2月3日から18日の間,新生成虫が検出されない時期に野外で捕集した冬期のコガタアカイエカ1083個体,8プールから4株のウイルスを分離し,日本脳炎(日脳)ウイルスと同定された.この事実は,越年蚊体内でウイルスが持ち越されたものと考えられる.そして1973年には年間を通じて,蚊一豚の感染環が証明され,奄美大島,瀬戸内地域における日脳ウイルスの特異な撒布状況が観察された.この所見は我国で初めてのことである.しかしながら,1974年では,コガタアカイエカから7月上旬にはじめてウイルスが分離されると共に,これと平行して豚の新感染も同時に証明された.この事は蚊一豚の感染環,特に蚊によるウイルスの越年が中絶したことを意味すると共に,奄美大島の調査地域へのウイルスの持込みがあったに違いないことを物語るものであろう.換言すれば,奄美大島の調査地域では環境条件さえよければウイルスの土着が可能であるが,条件が悪いと蚊によるウイルスの越年は中絶し,流行期に再びウイルスの持込みが行われるであろうことを推定してよいと思われる.1973年7月24日夜半から25日未明にかけて奄美大島名瀬港及び鹿児島港の中間の海上で,船のマスト上にとりつけられたライトトラップ採集でコガタアカイエカ数個体を捕集した.この事実はコガタアカイエカが洋上を移動していることを意味しているものと考えられる.1975年7月下旬,奄美大島から鹿児島(九州南域)に向け,標色コガタアカイエカの分散実験を試みたが,遇然に実験地域を通過した台風2号で阻止され不成功に終った.しかし,分散実験日の約10日前にフイリッピンからの迷蝶が鹿児島南端に到達していることから気流によるコガタアカイエカの移動は決して否定出来ない.
著者
林 薫 三舟 求真人 七条 明久 鈴木 博 松尾 幸子 牧野 芳大 明石 光伸 和田 義人 小田 力 茂木 幹義 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.p129-142, 1975-12

1973年2月3日から18日の間,新生成虫が検出されない時期に野外で捕集した冬期のコガタアカイエカ1083個体,8プールから4株のウイルスを分離し,日本脳炎(日脳)ウイルスと同定された.この事実は,越年蚊体内でウイルスが持ち越されたものと考えられる.そして1973年には年間を通じて,蚊一豚の感染環が証明され,奄美大島,瀬戸内地域における日脳ウイルスの特異な撒布状況が観察された.この所見は我国で初めてのことである.しかしながら,1974年では,コガタアカイエカから7月上旬にはじめてウイルスが分離されると共に,これと平行して豚の新感染も同時に証明された.この事は蚊一豚の感染環,特に蚊によるウイルスの越年が中絶したことを意味すると共に,奄美大島の調査地域へのウイルスの持込みがあったに違いないことを物語るものであろう.換言すれば,奄美大島の調査地域では環境条件さえよければウイルスの土着が可能であるが,条件が悪いと蚊によるウイルスの越年は中絶し,流行期に再びウイルスの持込みが行われるであろうことを推定してよいと思われる.1973年7月24日夜半から25日未明にかけて奄美大島名瀬港及び鹿児島港の中間の海上で,船のマスト上にとりつけられたライトトラップ採集でコガタアカイエカ数個体を捕集した.この事実はコガタアカイエカが洋上を移動していることを意味しているものと考えられる.1975年7月下旬,奄美大島から鹿児島(九州南域)に向け,標色コガタアカイエカの分散実験を試みたが,遇然に実験地域を通過した台風2号で阻止され不成功に終った.しかし,分散実験日の約10日前にフイリッピンからの迷蝶が鹿児島南端に到達していることから気流によるコガタアカイエカの移動は決して否定出来ない.Characteristics of the ecology of Japanese encephalitis (JE) virus dissemination were investigated in Amami island located between the southern part of Kyushu and the main island of Okinawa. Four strains identified as JE virus were isolated from 8 pools of 1083 hibernated female mosquitoes of Culex tritaeniorhynchus caught in the field from 3rd to 18th February, 1973, before the appearance of newly emerged vector mosquitoes. This finding suggested the overwintering of the virus in the vector mosquitoes in survey areas. The virus dissemination in the survey area in 1973 was observed through the year in connection with the cycle of vector mosquitoes and pigs infection. In 1974, however, the virus isolation from vector mosquitoes was performed in July. This evidence indicated the interruption of the persistence of the virus in vector mosquitoes and the virus might be carried into the survey area in Amami island. These findings were of great significance in connection with the problems on the overwintering of JE virus in Japan. In the midnight on 24th to the very early morning on 25th July, 1973, mosquitoes of Culex tritaeniorhynchus were captured with the light traps set up on the ship sailing between the south part of Kyushu (Kagoshima) and Amami island. This finding suggest that vector mosquitoes might be transported with the wind over the ocean. In accordance with these evidence, the attempt to disperse mosquitoes of Culex tritaeniorhynchus experimentally labeled with dyes from Amami island to the southern part of Kyushu (Kagoshima) was made under the selected condition of the weather in the end part of July, 1975. It was, however, unsuccessful with hindering of occassionally happened typhoon.
著者
小田 力 藤田 紘一郎 森 章夫
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.61-65, 1984-06-30

パプアニューギニアのダンフ,ケビェン及びラバウルの3地域でマラリアとデング熱の伝搬蚊について調査した.採集された蚊はAnopheles farauti, An. koliensis, An. punctulatus, Aedes aegypti, Ae. scutellaris,及びCulex pipiens quinquefasciatusの6種類であった.これら3種のハマダラカはわだちに水がたまって出来た泥水に発生していた.ダンフにおいてはAn. punctulatusがマラリアの主要伝搬蚊と考えられる.また,この地域ではデング熱の主要伝搬蚊であるAedes aegyptiとAe. scutellarisも採集された.前者の主要発生源は屋内では花びんのような人工的容器で,屋外では水のたまった古タイヤであった.後者の発生源も屋外の古タイヤであった.Collections of vector mosquitoes were made in three areas of Papua New Guinea. Mosquitoes collected were of the following 6 species: Anopheles farauti, An. koliensis, An. punctulatus, Aedes aegypti, Ae. scutellaris, Culex pipiens quinquefasciatus. Three species of Anopheline mosquitoes were commonly found in muddy pools such as wheel ruts at the roadsides, and among them An. punctulatus was assumed to be the primary vector of malaria in the area of Danfu, where also Ae, aegypti and Ae. scutellaris, the major vectors of dengue fever, were collected. The main breeding places for Ae. aegypti were artifitial containers such as flower vases indoors and discarded tires outdoors, the latter being the main breeding place for Ae. scutellaris.
著者
和田 義人 茂木 幹義 小田 力 森 章夫 鈴木 博 林 薫 宮城 一郎
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.187-199, 1976-02-28

奄美大島において1972-1975年に蚊の調査を行なった.成虫は畜舎にかけたライトトラップ及び野外でのドライアイストラップにより,幼虫はその発生場所において,1年を通じて採集を行なった.その結果31種の蚊が得られた.上記の方法による採集の記録と,野外で採集した幼虫の飼育の記録とから,各々の種の,特に冬季における,生態について記載した.また,奄美大島での日本脳炎ウイルスの越冬について,伝搬蚊コガタアカイエカの生態の面から考察を加え,ウイルスの越冬が可能なのは,冬の気温が高く,蚊-豚の感染サイクルが持続する場合においてのみであると結論した.Mosquitoes were investigated on Amami-Oshima Island in 1972-1975. Adults were collected by light traps at animal shelters and by dry ice traps in the field, and larvae at their breeding sites in the whole year. In total, 31 species of mosquitoes were found. From the mosquito catches by the above methods together with the rearing records of some larvae collected in the field, the biology of each mosquito particularly in the winter time was reported. Also, the possibility of the overwintering of Japanese encephalitis virus on Amami-Oshima was discussed on the basis of the biology of the vector mosquito, Culex tritaeniorhynchus. It was considered that the successful overwintering of the virus is attained only by the succession of the pig-mosquito cycle maintained by the continuous feeding activity of the vector mosquitoes in warm winter.