著者
森嶋 直人
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.7, pp.954-958, 2021-07-20 (Released:2021-08-04)
参考文献数
15

末梢性顔面神経麻痺は一般的に予後良好な疾患であるが, 全体の2割程度に Bell 麻痺の重症例や Hunt 症候群などの予後不良例が存在する. 顔面神経麻痺に対するリハビリテーションは後遺症である麻痺の改善や, 病的共同運動・拘縮の予防と軽減という点で推奨されている. 実際のリハビリテーションは, 重症度と予後予測目的にて柳原法麻痺スコア評価と発症後10日程度で Electroneurography (以下 ENoG) 検査を行い, 以後理学療法士が麻痺の改善と病的共同運動予防目的のリハビリテーション指導を行う. 3カ月以内に柳原法麻痺スコア38点以上の場合は終了し, 遷延する場合は病的共同運動評価と治療を継続する. 病的共同運動に対するリハビリテーションの手技として 1) 表情筋ストレッチ, 2) 拮抗筋活動による病的共同運動発現予防, 3) バイオフィードバック療法による病的共同運動抑制があり, 主に家庭内プログラムとして患者本人に実施を励行する. 後遺症改善には長期を要する場合がありこの場合は発症後1年以上を必要とする場合がある. 後遺症残存例にはボツリヌス毒素治療や形成外科的治療が選択される. このように長期にわたる顔面神経麻痺に対する診療チームの構成としては診断・初期治療を担当する耳鼻神経科医, リハビリテーションを担当するリハビリテーション医・リハビリテーション療法士, 心理的なサポートを行う看護師・臨床心理士, 形成外科手術による再建に携わる形成外科医がある. 本稿では顔面神経麻痺に対するリハビリテーションの進め方, そのエビデンス, 診療チームの役割, 保険診療上の注意点について概説する.
著者
森嶋 直人 中川 光仁 杢野 謙次
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.B0865, 2005

【はじめに】球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy ; SBMA)は、伴性劣性遺伝形式をとり、通常30~50歳頃に男性にのみに発病し、緩徐に進行する遺伝性の下位運動ニューロン疾患である。性腺機能異常、顔面筋・舌筋・四肢近位筋優位の萎縮と筋力低下、筋攣縮を特徴とする。今回、我々は遺伝子診断によってSBMAと診断された2症例を経験した。長期にわたり筋力測定を行い、筋力低下の特徴と自覚症状の訴えが多い季節変動について考察したので報告する。<BR>【症例】症例1、43歳・男性。 29歳頃より下肢の脱力に気づき徐々に進行、34歳時当院神経内科受診、四肢特に下肢近位優位の脱力・顔面筋の脱力・舌の線維束攣縮を指摘されSBMAと診断。35歳時より理学療法開始、以後外来通院中である。<BR> 症例2、53歳・男性。43歳頃より右上肢の筋力低下が出現、44歳時当院神経内科受診、四肢近位筋の脱力・顔面筋の脱力を指摘されSBMAと診断。同年より理学療法開始。本症例は筋無力症候群を合併し、発症から5年経過した48歳時には、急性呼吸不全により入院。気管切開・人工呼吸器管理となったが、徐々に回復。約3か月の入院管理で人工呼吸器離脱、嚥下困難も回復し、以後外来通院中である。<BR>【評価方法】症例1は平成8年6月から平成16年11月までの約8年間、症例2は平成7年11月から平成16年11月までの約9年間、運動療法を指導し、1から2か月に1度の外来受診時に筋力測定を行った。筋力測定には、HOGGAN社製microFETを用い、運動方向を両側肩外転・肘屈曲・肘伸展・股屈曲・膝伸展・足背屈として筋力測定を行い、同時に握力測定も行った。測定方法はBohannonらの方法に準じ、等尺性筋力を測定した。<BR> 解析方法として、各筋力の経年変化をみるために、各筋別の年平均値を算出し理学療法開始年と比較した(年別減少率)。季節変動として各評価の年平均値からの変動を算出した。<BR>【結果と考察】年別減少率は、症例1で5年後まで大きく、特に左右肘屈曲・肘伸展、右股屈曲、右足背屈では5年間で50%以下に減少した。対して握力は右71%、左79%であり、8年経過しても右78%、左79%と減少率は低かった。症例2では急性呼吸不全で入院した年度を経て、特に左右肘屈曲・伸展、右股屈曲、左右足背屈では5年間で50%以下に減少した。握力は右65%、左58%であり、9年経過して右59%、左50%と症例1に比べ減少率は高かった。2症例とも季節変動の訴えが多かったが、変動はするものの、特に同時期に有意な変化を認めなかった。<BR> 今回の結果よりSBMAの筋力低下の特徴として、経年変化の早い段階で筋力低下を起す筋が明らかになり、遠位筋である前脛骨筋にも及ぶ可能性があることが示唆された。今後、運動指導には近位筋以外のトレーニングにも注意の必要性があると考えられた。