著者
檀浦 正子 小南 裕志 高橋 けんし 植松 千代美 高梨 聡
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

環境変動予測のためには、陸域炭素循環において大きな役割をもつ森林の炭素循環解析およびモデルの確立が必要である。そこで、炭素同位体パルスラベリングをアカマツ、コナラ、ミズナラ、マテバシイに適用し樹木内の炭素移動速度および樹木内滞留時間の樹種間比較を行った。アカマツにおける移動速度は広葉樹と比較して遅く、樹木内滞留時間には季節変動がみられ特に冬季は顕著に遅くなった。ミズナラ・マテバシイについては大きな違いは見られなかった。コナラの葉に固定された炭素は4日程度でそのほとんどが幹へと移動した。しかしラベリングから長期間経過後も13Cが残存し、同化産物によって滞留時間が異なることが示唆された。
著者
片山 寛則 菅原 悦子 植松 千代美 池谷 祐幸
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

東北地方より収集したイワテヤマナシを含む野生ナシ、在来品種の有用形質評価(香気、加工特性、早晩性)と新規利用法の開発、個体識別を行った。収集個体は香気成分、有機酸、糖類ともに多様性が高かった。在来品種'サネナシ''ナツナシ'は香りの強いエステルが存在しニホンナシやセイヨウナシとは異なるさわやかな香りだった。'ナツナシ'などニホンナシの約7倍の有機酸量をもつ個体も存在し優れた加工特性を示した。
著者
片山 寛則 植松 千代美 菅原 悦子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【フィールド調査(イワテヤマナシは自生種それとも導入種?)】未調査地域の青森県、秋田県の全市町村、山形県北部での調査が終了した。秋田県にて95個体、青森県で80個体のナシ属植物が見つかった。岩手県と比べて青森県、秋田県ではナシ属の出現頻度は低かった。またニホンナシの在来系統と思われる大果系ナシやイワテヤマナシとニホンナシとの雑種と思われる果実を有する個体(逸出型)は多く見つかったが、イワテヤマナシの野生個体(果実直径が3cm以下、有蒂、山中または放牧地に自生)はほとんど確認できなかった。北東北のほぼ全域にわたるナシ属探索が終了し、合計840本が見つかった。白神山系ではナシ属植物は全く見つからなかった。奥羽山系では街道沿いや人家の周辺、畑の縁などで現存していたが野生個体はなかった。北上山系ではイワテヤマナシの群落こそ見つからなかったが北は階上岳より南は早池峰山までの高地で野生個体が見つかった。北上山系の高地で現存する野生個体は自生種である可能性が高い。【保全事業】探索で見つかったナシ約550本を野生ナシジーンバンクとして神戸大学にて保存した。また保存後に現地で伐採された個体の返還事業として岩手県九戸村、遠野市にて苗木を植裁した。【DNA分析によるイワテヤマナシの起源】世界のナシ属植物の葉緑体DNAのrps16-trnQとaccD-psaI遺伝子間領域における欠失変異の有無を調査し3タイプ(A, B, C)のゲノムを識別するDNAマーカーを作製した。収集個体の320個体中の約2割とアオナシ、マメナシ類はA型のゲノムタイプであり原始型だった。収集個体の他の約8割とニホンナシ栽培品種のほとんどはB型だった。セイヨウナシ、アフリカ、中央アジア、ロシア由来のC型は収集系統では数個体のみ見つかった。この結果は約8割のイワテヤマナシ収集個体はニホンナシとの雑種であり、残りの2割に真のイワテヤマナシが含まれる可能性を示す。また岩手県全域から抽出した58個体を用いて5種類の核SSRマーカーにより個体識別と系統学的解析を行った。遺伝的多様性が大きく、ほとんどの個体が実生繁殖であることが確認された。今後は北上山系由来の集団数を増やして、集団遺伝学的手法(STRUCTURE解析)により真のイワテヤマナシを推定し起源を明らかにしたい。【芳香性物質の同定】果実に芳香を持つイワテヤマナシ収集個体のうち、ナツナシ、サネナシ、系統番号i830の3系統の果実の香気寄与成分を官能試験、TenaX-TAカラム濃縮法を用いたGC-O分析、AEDA法、GC-MS分析により香りの特徴づけと成分を同定した。ナツナシは官能試験では甘く爽やかな香りであり、ethyl 2-methylbutyrateが最も寄与度が高かった。またサネナシは官能的には強い甘さを持っておりethyl 2-methylbutyrateとethyl hexanoateの寄与度が最も高かった。i830系統ではグリーンな花様の甘さを持つ高沸点の未同定物質とethyl 2-methylbutyrateが最も高かった。ナツナシとサネナシには共通の寄与度の高い成分が多く、2系統の香りは似ていることが明らかになった。またethyl 2-methylbutyrateはニホンナシ‘幸水'では比較的寄与度が高かったが、セイヨウナシ‘ラフランス'ではほとんど寄与しておらずアジアのナシに特徴的な成分かも知れない。今後はより多くの収集系統の香気成分を調べて分類し、イワテヤマナシに特徴的な香気成分を明らかにする予定である。