著者
菅原 悦子 伊東 哲雄 小田切 敏 久保田 紀久枝 小林 彰夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.149-155, 1988-02-15 (Released:2009-02-18)
参考文献数
3
被引用文献数
1 3

枝豆の特有香を完熟大豆の香気との比較で検討し,その解明を試みた.試料としては岩手大学附属農場で収穫した枝豆と市販品を用い,Likens-Nickerson型のエーテル連続抽出装置を用いて香気濃縮物を得, GCおよびGC-MS分析をした.その結果,枝豆の香気成分として28成分を同定し, 19成分を推定した.未熟な大豆である枝豆からも完熟大豆と同様に豆臭,青葉臭の原因物質といわれる1-hexanol, hexanal, (E)-2-hexenal, 1-octen-3-ol, 2-pentylfuranが共通して同定された.これに加えて,完熟大豆には検出されなかった (Z)-3-hexenyl acetate, cis-jasmone, linalool, acetophenoneが同定された.これらの成分がさわやかな青葉様香気に花様で甘い香りを付与し,枝豆特有の香気が生成されることが判明した.とくにcis-jasmoneは農場産の枝豆,市販品ともに相当量存在するにもかかわらず,収穫が遅れると全く検出できなくなることから,枝豆香気の重要な一成分であることが明らかとなった.
著者
孟 琦 今村 美穂 小幡 明雄 菅原 悦子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.249-254, 2015 (Released:2015-09-05)
参考文献数
18
被引用文献数
2

醤油にみりんと砂糖を添加した調味液の加熱による香気の質的変化とその寄与成分を解明するために,醤油とその調味液から香気濃縮物を調製し,香気濃縮物を比較した。香気濃縮物のGC-O分析の結果,調理加熱によって感知できる香気成分数は醤油では減少したが,調味液では増加した。AEDA分析の結果,調理加熱前後の調味液中のFDfが最も高かったのはカラメル様のHEMFで寄与度に変化はなかったが,醤油ではHEMFの寄与度が低下した。みりんの主要成分であるグルコースを添加したモデル調味液は,調理加熱後に感知できる香気成分数が増加し,HDMFとHMFの寄与度が上昇した。このような香気成分の変化は,調味液と酷似していた。これらの結果は,グルコースを多く含むみりんの添加が調味液の調理加熱による香気の形成に大きく寄与することを示している。
著者
高坂 晶子 菅原 悦子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 創立40周年日本調理科学会平成19年度大会
巻号頁・発行日
pp.100, 2007 (Released:2007-08-30)

【目的】 味噌汁は加熱によって匂いが劣化するが、焼き味噌は風味が向上するため、焼きおにぎりなどさまざまな調理で利用されている。そこで本研究では、味噌は高温加熱により低温とは異なる新しい特有香気成分が生成し、風味の向上に寄与すると考え、その組成の変化を明らかにすることを目的とした。さらに、味噌を焼くことによる官能評価への影響も検討した。【方法】 味噌を150℃・200℃で加熱し、三点比較法によって官能評価を行い、官能的に識別できるか検討した。次に、焼き味噌のヘッドスペース(Headspace)に存在する香気成分を固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction)法で抽出し、GC、GC-OおよびGC-MS分析によりその組成を明らかにした。【結果】 官能評価では、150℃と200℃で加熱した味噌を1%の危険率で有意に判別できた。また、正解者のうち78%が150℃で焼いた味噌が好ましいと評価した。GC、GC-MS分析の結果、200℃で10分加熱した味噌では未加熱味噌と比較して増加したピークは22種、減少したピークは10種であった。GC-O分析では同じ試料で51種のにおいが感知された。このうち、未加熱味噌と比較すると増加または新しく生成した香気は34種あり、減少した香気は23種であった。今後は特に新しく生成または増加した香気成分の特定を試みる予定である。
著者
孟 琦 熊丸 陽奈 今村 美穂 中尾 隆人 小幡 明雄 菅原 悦子
出版者
The Japan Society of Cookery Science
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.214-220, 2014

調理加熱前後の生醤油と火入れ醤油から,香気濃縮物を調製した。香気濃縮物のGC-O分析により生醤油では火入れ醤油より甘く香ばしい香気成分が多く感知でき,スモーク様の香気成分は少ないこと,生醤油は調理加熱により感知できる香気成分が加熱前より増加することが判明した。AEDA分析により,生醤油で最も高いFDf成分は甘いカラメル様のHEMFと花様の2-phenylethanolであり,火入れ醤油ではHEMFと燻製様の4VGであることが判明した。さらに,調理加熱後も生醤油ではHEMFの寄与が最も高く,火入れ醤油ではHEMFの寄与度が低下した。甘く香ばしい香りを持つ生醤油は,調理加熱後も火入れ醤油と比較してより複雑な香りになることが明らかになった。さらに,官能評価により,調理加熱した生醤油の甘く香ばしい香りは調理加熱した火入れ醤油より有意に強いことが確認され,この香りの特徴は「豚肉のしょうが焼き」において好まれる傾向があることが判明した。
著者
冨岡 佳奈絵 松本 絵美 岩本 佳恵 髙橋 秀子 長坂 慶子 魚住 惠 菅原 悦子 村元 美代 渡邉 美紀子 佐藤 佳織 阿部 真弓
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2021

<p>【目的】岩手県の伝統的な家庭料理を次世代に継承することを目的に地域ごとに聞き書き調査を行った。その中から、行事食の特徴と地域による違いについて報告する。</p><p>【方法】調査は、岩手県を7地域(県北・県央・中部・北上高地南部・県南・沿岸・奥羽山系)に分け、平成24〜26年に実施した。対象は、地域に30年以上居住している61〜96歳の女性18人とし、昭和30〜40年代の食事と、この頃から伝わる家庭料理について聞いた。その調査結果から、行事食の特徴について比較検討した。</p><p>【結果】正月の雑煮は、しょうゆ仕立ての角もちが基本で、沿岸では「くるみ雑煮」、県南では「ひき菜の雑煮」、かつて沿岸北部では、雑煮ではなく「まめぶ」のところがあった。雑煮のほか、沿岸では「氷頭なます」、県北では「手打ちうどん」があった。桃の節句には、県央・北上高地南部では「ひなまんじゅう」「きりせんしょ」、中部では、くるみを散らした「ごまぶかし」があった。田植えの小昼(おやつ)に、北上高地南部では「小豆まんま」があった。県南では、農作業の節目ごとに餅を食べ、冠婚葬祭にも餅は欠かせず、婚礼の際は「餅本膳」があった。一方、県北では、冠婚葬祭に「手打ちそば」だった。盆には、沿岸・北上高地南部・奥羽山系では「てん(ところてん)」、さらに奥羽山系では「カスべの煮つけ」があった。御大師様の日には、県南では「果報団子」があった。年取りには、全域で「なめたがれいの煮つけ」がみられ、沿岸では「干し魚(はも)入りの煮しめ」、奥羽山系では、ぜんまいの一本煮や凍み大根、身欠きにしんの入った「煮しめ」があった。各行事において、その時季の地場産物や気候風土をいかした食材を調理し、地域・家庭で継承されていた。</p>
著者
松井 佐織 廣吉 康秀 阿南 会美 阿南 隆洋 菅原 悦子 渡辺 明彦 菅原 淳 藤田 剛 向井 秀一
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.279-285, 2014 (Released:2014-02-26)
参考文献数
11
被引用文献数
2

Chlamydia trachomatis(以下クラミジア)による直腸炎は,イクラ状・半球状小隆起が典型的内視鏡像とされるが,自験例では典型例が少なく,丈の低い隆起や隆起を伴わない例を認めた.自験例28例のうち初回内視鏡検査時に隆起性病変を認めた18例では丈の高い隆起(典型例)を3例(10.7%)に,丈の低い隆起を15例(53.6%)に認めた.隆起を伴わなかった10例(35.7%)では,びらん・アフタ・発赤などの所見を認めた.クラミジア直腸炎では,半球状小隆起以外の内視鏡所見が認められることも多いと考えられ,症例の集積と検討が必要と思われる.
著者
菅原 悦子
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.12, pp.863-872, 2013 (Released:2018-02-13)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

味噌や醤油はわが国独特の発酵調味料から世界的に広く知られる調味料として飛躍している。その旨味成分や呈味機構についての研究が多く成されてきたが,近年では特有香気成分HEMFに関する研究が進んでいる。本解説では,味噌,醤油の特徴香成分としてのHEMFの生成メカニズムについて,これまでの研究成果をとりまとめてわかりやすく解説していただいた。本解説の著者は,味噌におけるHEMFの発見者であり,生成メカニズム解明の生化学的研究を進めていられ,今後求められる未解明の研究領域,HEMFの生理機能研究や味噌・醤油に含まれる未知の微量香気成分の可能性についても言及していただいている。わが国の発酵調味食品の製造において,品質向上の面から大変に興味の持たれる研究分野であり,同時に応用面にも寄与する研究である。
著者
高橋 秀子 岩根 敦子 菅原 悦子 魚住 惠 村元 美代 板垣 千尋 安部 恵
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.150, 2007

<BR><B>【目的】</B><BR> 近年は米の消費が低迷している。また、食品加工産業が発達し食材・調理品の購入が手軽になり、外食産業の浸透により外食の頻度も高くなった。米の摂取および調理に関する意識は、食品加工と外食産業の発達を受けて変化してきていることが予想される。岩手県の米の摂取と調理の現況を把握するためアンケート調査を実施した。<BR><B>【方法】</B><BR> 平成19年1月に調査を行った。岩手県内の大学1校と短大2校の学生、卒業生および学生の家庭の調理担当者を調査対象とした。調査内容は対象者の属性、米料理の嗜好および頻度、白飯の摂取状況、おにぎり・いなり寿司・炊き込みご飯・混ぜご飯およびちらし寿司の調理法、米に対する意識等であった。質問用紙を配布し、1ヶ月後に回収した。<BR><B>【結果】</B><BR> 回答者数は133であった。内訳は女性が130(97%)、40代が50(38%)、食事調理経験21~30年が64(48%)を占めた。最も好まれた米料理は白飯で123(92%)が好きと回答した。おにぎり・炊き込みご飯・ちらし寿司等多くの米料理が好まれ、好きが最も少ない米料理はおかゆ57(43%)であった。それぞれの米料理の最も高い摂取頻度は、白飯は毎日121(91%)、おにぎりは週に1回程度、炊き込みご飯と炒飯は月に1・2回、ちらし寿司、赤飯等の米料理は年に数回であった。朝・昼・夕の食事の米料理の摂取量はいずれも茶碗1杯が最も多かった。おにぎりの具材は、多かった順に、梅干し、鮭、こんぶ、かつおぶしであった。いなり寿司は、味付けの皮を購入し俵形に作っていた。炊き込みご飯の具材は人参、油揚げ、ごぼう、鶏肉、しいたけが多く、ほたて、うに、あわび、鮭等の魚介類もあった。回答者の多くは、米は日本人の主食であり、色々な料理にも合い、毎日米を食べたいと考えていた。
著者
孟 琦 熊丸 陽奈 今村 美穂 中尾 隆人 小幡 明雄 菅原 悦子
出版者
一般社団法人 日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.214-220, 2014 (Released:2014-09-05)
参考文献数
28
被引用文献数
4

調理加熱前後の生醤油と火入れ醤油から,香気濃縮物を調製した。香気濃縮物のGC-O分析により生醤油では火入れ醤油より甘く香ばしい香気成分が多く感知でき,スモーク様の香気成分は少ないこと,生醤油は調理加熱により感知できる香気成分が加熱前より増加することが判明した。AEDA分析により,生醤油で最も高いFDf成分は甘いカラメル様のHEMFと花様の2-phenylethanolであり,火入れ醤油ではHEMFと燻製様の4VGであることが判明した。さらに,調理加熱後も生醤油ではHEMFの寄与が最も高く,火入れ醤油ではHEMFの寄与度が低下した。甘く香ばしい香りを持つ生醤油は,調理加熱後も火入れ醤油と比較してより複雑な香りになることが明らかになった。さらに,官能評価により,調理加熱した生醤油の甘く香ばしい香りは調理加熱した火入れ醤油より有意に強いことが確認され,この香りの特徴は「豚肉のしょうが焼き」において好まれる傾向があることが判明した。
著者
菅原 悦子 米倉 裕一
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.323-329, 1998-05-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
13
被引用文献数
3 10

味噌は原料麹の種類や,味,色の濃淡によって区別され,それぞれ特徴的な香気を持っている.そこで,大豆と米から製造される3種類の米味噌,赤色辛口系米味噌・淡色辛口系米味噌・米甘味噌と,大豆と大麦から製造される麦味噌,大豆のみから製造される豆味噌の香気成分の組成を明らかにし,5種類の味噌の香気形成への原料や製造工程の影響について検討した.香気濃縮物は5種類の味噌,それぞれ8点ずつ合計40点から調製し,ガスクロマトグラフとガスクロマトグラフーマススペクトロメトリーを用いて分析し各香気成分の濃度を算出した.求めた濃度を変数として,統計的に処理した.(1) 5種類の味噌間のガスクロマトグラムのパターン類似率は赤色辛口系米味噌,淡色辛口系米味噌,麦味噌の3種間では極めて高かった.しかし,これら3種類の味噌と豆味噌,米甘味噌の類似率は低かった.(2)赤色辛口系米味噌と淡色辛口系米味噌の比較では有意差が認められた香気成分は1種類のみで両者は極めて類似した香気組成をもつことが判明した.米甘味噌と赤色辛口系との比較では12種類の香気成分で有意差があった.米麹を用いて製造される味噌では,特に発酵過程の有無が香気の特徴を大きく左右することが示唆された.(3) 赤色辛口系米味噌では麦味噌,豆味噌よりフェノール化合物とピラジン化合物の濃度が有意に低かった.豆味噌では赤色辛口系米味噌や麦味噌よりHEMFなどの酵母によって発酵過程で形成される香気成分の濃度が有意に低かった.原料とする麹の種類によって形成される香気成分の種類に差が生じることが示唆された.(4) 4-ethylguaiacolは麹の違いによる,米味噌と豆味噌・麦味噌の香気を判別するのに重要な成分であり,HEMFとmethionolは酵母による発酵の過程を示す重要な成分であることが示唆された.それぞれ特徴的な香気を有するこれら3成分の組み合わせと濃度が各種味噌の香気特性に大きな影響を与えると判断された.
著者
片山 寛則 菅原 悦子 植松 千代美 池谷 祐幸
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

東北地方より収集したイワテヤマナシを含む野生ナシ、在来品種の有用形質評価(香気、加工特性、早晩性)と新規利用法の開発、個体識別を行った。収集個体は香気成分、有機酸、糖類ともに多様性が高かった。在来品種'サネナシ''ナツナシ'は香りの強いエステルが存在しニホンナシやセイヨウナシとは異なるさわやかな香りだった。'ナツナシ'などニホンナシの約7倍の有機酸量をもつ個体も存在し優れた加工特性を示した。
著者
菅原 悦子 伊東 哲雄 米倉 裕一 櫻井 米吉 小田切 敏 SUGAWARA Etsuko ITO Tetsuo YONEKURA Yuichi SAKURAI Yonekichi ODAGIRI Satoshi
出版者
日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.p520-523, 1990-07
被引用文献数
1

Bacillus natto was cultured in the chemically defined liquid medium which contain various amino acids as nitrogen source, and effects of amino acids on the formation of pyrazines were examined. The amino acids which are related to glutamic acid on metabolism, L-glutamic acid, L-aspartic acid, L-arginine and L-proline, promoted the best growth. Yields of pyrazines produced in the culture broth were not always parallel to cell growth. In the case of L-serine, L-aspartic acid, L-alanine and ammonium citrate, whole pyrazines were yielded about 10mg/l and above, and mostly consisted of tetramethylpyrazine. Pyrazines which have a characteristic side chain corresponding to the amino acid present in the medium were not detected.各種アミノ酸を添加した合成培地で納豆菌を培養し,ピラジン化合物の生成量を比較検討し,ピラジン化合物生成に対する納豆菌の役割について考察した.(1) 各種アミノ酸を添加した合成培地での納豆菌の増殖は代謝上, L-グルタミン酸と関連の深いアミノ酸(L-グルタミン酸, L-アスパラギン酸, L-アルギニン, L-プロリン)で良好であった.(2) 培養液からのピラジン化合物の抽出方法として,加熱条件の有無を考慮して, LIKENS-NICKERSON型連続蒸留抽出装置を用いる方法とPorapak Q吸着剤を用いる方法を比較したが,連続蒸留抽出法でピラジン化合物が二次的に生成している可能性は薄かった.(3) 納豆菌の増殖の良否とピラジン化合物の生成量には相関はみられず, L-セリン, L-アスパラギン酸, L-アラニン,クエン酸ニアンモニウムで, 10mg/l前後,あるいはそれ以上のピラジン化合物を検出し,その大半はテトラメチルピラジンであった,(4) 各種アミノ酸の特徴的な側鎖をもつピラジン化合物は確認できなかったので,この化合物はアミノ酸から直接生合成されず,より簡単な中間体をへて生成される可能性が高い.(5) 納豆菌が関与するピラジン化合物生成はその前駆体を多量に生成することによる可能性は高いが,最終段階まで酵素的に進むことも考えられ,さらに検討が必要である.
著者
片山 寛則 植松 千代美 菅原 悦子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【フィールド調査(イワテヤマナシは自生種それとも導入種?)】未調査地域の青森県、秋田県の全市町村、山形県北部での調査が終了した。秋田県にて95個体、青森県で80個体のナシ属植物が見つかった。岩手県と比べて青森県、秋田県ではナシ属の出現頻度は低かった。またニホンナシの在来系統と思われる大果系ナシやイワテヤマナシとニホンナシとの雑種と思われる果実を有する個体(逸出型)は多く見つかったが、イワテヤマナシの野生個体(果実直径が3cm以下、有蒂、山中または放牧地に自生)はほとんど確認できなかった。北東北のほぼ全域にわたるナシ属探索が終了し、合計840本が見つかった。白神山系ではナシ属植物は全く見つからなかった。奥羽山系では街道沿いや人家の周辺、畑の縁などで現存していたが野生個体はなかった。北上山系ではイワテヤマナシの群落こそ見つからなかったが北は階上岳より南は早池峰山までの高地で野生個体が見つかった。北上山系の高地で現存する野生個体は自生種である可能性が高い。【保全事業】探索で見つかったナシ約550本を野生ナシジーンバンクとして神戸大学にて保存した。また保存後に現地で伐採された個体の返還事業として岩手県九戸村、遠野市にて苗木を植裁した。【DNA分析によるイワテヤマナシの起源】世界のナシ属植物の葉緑体DNAのrps16-trnQとaccD-psaI遺伝子間領域における欠失変異の有無を調査し3タイプ(A, B, C)のゲノムを識別するDNAマーカーを作製した。収集個体の320個体中の約2割とアオナシ、マメナシ類はA型のゲノムタイプであり原始型だった。収集個体の他の約8割とニホンナシ栽培品種のほとんどはB型だった。セイヨウナシ、アフリカ、中央アジア、ロシア由来のC型は収集系統では数個体のみ見つかった。この結果は約8割のイワテヤマナシ収集個体はニホンナシとの雑種であり、残りの2割に真のイワテヤマナシが含まれる可能性を示す。また岩手県全域から抽出した58個体を用いて5種類の核SSRマーカーにより個体識別と系統学的解析を行った。遺伝的多様性が大きく、ほとんどの個体が実生繁殖であることが確認された。今後は北上山系由来の集団数を増やして、集団遺伝学的手法(STRUCTURE解析)により真のイワテヤマナシを推定し起源を明らかにしたい。【芳香性物質の同定】果実に芳香を持つイワテヤマナシ収集個体のうち、ナツナシ、サネナシ、系統番号i830の3系統の果実の香気寄与成分を官能試験、TenaX-TAカラム濃縮法を用いたGC-O分析、AEDA法、GC-MS分析により香りの特徴づけと成分を同定した。ナツナシは官能試験では甘く爽やかな香りであり、ethyl 2-methylbutyrateが最も寄与度が高かった。またサネナシは官能的には強い甘さを持っておりethyl 2-methylbutyrateとethyl hexanoateの寄与度が最も高かった。i830系統ではグリーンな花様の甘さを持つ高沸点の未同定物質とethyl 2-methylbutyrateが最も高かった。ナツナシとサネナシには共通の寄与度の高い成分が多く、2系統の香りは似ていることが明らかになった。またethyl 2-methylbutyrateはニホンナシ‘幸水'では比較的寄与度が高かったが、セイヨウナシ‘ラフランス'ではほとんど寄与しておらずアジアのナシに特徴的な成分かも知れない。今後はより多くの収集系統の香気成分を調べて分類し、イワテヤマナシに特徴的な香気成分を明らかにする予定である。