著者
榎本 百利子
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では、ハスを使った工芸品作りの現状を調査し、関連するハスの利用法、加工法を整理して体系化するとともに、児童など工作、加工の経験の少ない者でも利用できるような形で情報の公開を進めることを目指した。児童や未経験の市民でも参加できるような体験学習への応用を念頭に置き、工芸品の中でも比較的制作の容易なものを選び、その作業手順を整理して提示することとした。従来、ハスを材料とした工芸品といえば、ハスの生きた植物体の利用が主で、枯れた植物体はほとんど利用されていなかった。実際にハブの栽培を行っている現場では、生のハスの葉や花を採取することは時に生育への影響もあり得るためになかなか行えないが、逆に枯死体は秋から冬に多量に発生して処分に困るくらいである。このハスの枯死体に着目し、工芸品への加工に役立てることを考えた。まず花蓮の既存の利用法について、インターネットや文献等により調査を行った。その中で実施が容易と判断されたものについて、現地に赴き作成過程を検分し、さらに自ら実際に作成することによって、実施可能性を評価した。ハスの既存の工芸品としては、ハスの葉柄の繊維を利用した織物、花托を利用した人形やランプ作り、ハスの葉や花托を利用した染色加工、花托や茎を利用した衝立や置物などがあった。ほかに食品や入浴剤、香料などへの利用もあったが、それらは工芸品としての範疇を超えると考えられたため、ここでは取り上げなかった。これらのハスの利用が盛んな土地として、花ハスの栽培で有名な南越前市〓旧、南条町)に着目した。同町では工業的に、蓮の葉を練りこんだうどん、蓮の葉茶、入浴剤が作られており、町内の温泉施設でハスを利用した他の加工品とともに販売されている。ここを訪問して、織物および染色の工程や施設、その他作業に必要な事項について視察させていただいた。織物は、7月下旬から9月にかけて蓮の葉柄を収穫し、加熱薬品処理、乾燥、繊維をよる等様々な過程を経て得られた糸を材料として作られていた。染色には、花托と葉が用いられていた。葉については、夏に収穫した葉を冷凍保存し、染色に用いると説明を受けた。視察の結果、糸を取り出すことは未経験者にとっては容易ではないと考えられたため、本研究の目的にかなう工芸品として、布の染色に注目した。夏の間にハスの紅色の花弁を集めて乾燥保存しておくとともに、秋から冬にかけて花托と、枯葉を葉柄をつけたまま採取した。また、夏に葉を採取してハスの葉茶を作っておいた。これらから色素を抽出した。花弁は食用酢でもんでから、他のものは特に何の前処理もせずに煎じ、染色液を得た。媒染液には焼きミョウバン液を使用した。染色の対象となる布としては、一般的によく染まるといわれている絹(オーガンジー)のほか、ウール、綿(ガーゼ、シーチング)、麻、さらに対照としてポリエステルのオーガンジーを準備した。綿と麻に関しては、豆乳で漬け込む前処理を実施したものも準備した。染色を行った結果、絹、ウールがよく染まり、続いて前処理をした綿、麻、未処理の綿、麻の順に成績がよかった。ポリエステルは染まらなかった。染色液としては、花托が一番濃く染まったが、染色への使用が難しいとこれまでいわれてきた花弁も、酢を使用することで染色材料として利用できることが確認された。児童・生徒を含む一般の市民のかたがたを対象として、ハスを利用した工芸品づくりの体験学習を行う場合、染色はそれほど複雑な作業を必要とせず、また特別な機器もいらないため、比較的実施が容易である。ただし、個々の工程に比較的長い時間を要することと、熱湯の取り扱いを伴うことから、児童を対象として行う場合には実施の上でこれらの問題点を解消するための工夫が必要であると考えられた。ハスに関心をお持ちの、比較的年配のかたがたを対象とした体験学習には適した題材であろうと思われる。
著者
高橋 友継 榎本 百利子 遠藤 麻衣子 小野山 一郎 冨松 理 池田 正則 李 俊佑 田野井 慶太朗 中西 友子 眞鍋 昇
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.551-554, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
2
被引用文献数
1 5

福島第一原子力発電所事故の2か月半後の2011年5月30日から直線距離で約130km南方に位置する東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場で栽培されていた牧草から調製したヘイレージを飼料として同場で飼養中の乳牛に2週間給与した後2週間福島第一原子力発電所事故に起因する放射性核種を含まない輸入飼料を給与し,牛乳中の131I,134Cs及び137Csの放射能濃度の推移を調べた。飼料と牛乳中の131Iは検出下限以下であった。飼料中の放射性核種(134Csと137Cs)は牛乳中に移行したが,ヘイレージ給与を停止すると1週間は3.61Bq/kg/day,1から2週間は0.69Bq/kg/day,平均すると2.05Bq/kg/dayの割合で速やかに減少した。なお試験期間中を通じて牛乳中の134Csと137Csの放射能濃度は国の暫定規制値及び新基準値(放射性セシウム:200及び50Bq/kg)以下であった。