- 著者
-
樋口 広芳
仁平 義明
石田 健
加藤 和弘
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1998
本研究ではまず,都市におけるカラスと人間生活との摩擦の現状について広く調査した.その結果,ゴミの食い散らかし,人への襲撃,高圧鉄塔への営巣による停電,列車や航空機との衝突など,さまざまな種類の摩擦が生じていることが明らかになった.次に,そうした個々の摩擦の事例について,発生の状況や仕組をいろいろな情報収集と野外観察から明らかにした.ゴミの食い散らかしは,カラスが食物として好む生ゴミが手に入りやすい地域を中心に発生していた.具体的には,プラスチック製のゴミ袋に入れられて路上に放置される地域,とくにその状態が朝の遅い時間まで続くところで頻発していた.生ゴミが大量に出され,カラスの食物になることは,カラスの個体数を増加させる根本原因になっており,それがカラスと人間生活とのさまざまな摩擦の発生につながっていることが示唆された.人への襲撃については,5月から6月に集中し,カラスの巣の付近で発生すること,親鳥が巣やヒナを防衛するための行動であることなどが明らかになった.襲撃は人の背後から飛んできて行なわれ,後頭部を足で蹴るという例が多かった.蹴られることによって頭から出血する例もあるが,大部分は大きな怪我には至らない.高圧鉄塔への営巣による停電は,絶縁上必要な距離を保っている,電線と鉄塔の接地部分の間にカラスが造巣したり,はさまったりすることによって発生していた.関東地方では,カラスによる停電事故が毎年40〜50件起きている.列車や航空機との衝突は,時速数100キロの速度で走ってくる新幹線や航空機を鳥がよけきれずに発生していた.空港では,空港が漁港,河口,ゴミの大規模処分場などの付近につくられている場合に衝突が多発していた.そうした場所にカラスなどが数多く生息しているからである.