著者
土谷 千子 松尾 七重 嵯峨崎 誠 古谷 麻衣子 丸山 之雄 大城戸 一郎 横尾 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.249-253, 2021 (Released:2021-05-28)
参考文献数
15

症例はループス腎炎による慢性腎不全で透析歴28年の53歳女性.腹痛主訴に受診し,感染性腸炎からPeritoneal dialysis(PD)腹膜炎となり入院となった.絶飲食の上,中心静脈栄養を開始した.第17病日から筋肉痛が出現し,微量元素減少症を疑い,血中セレンを測定したところ5(正常値10.6~17.4)μg/dLと低値を認めた.経口摂取を開始,セレン含有栄養補助食品を併用し,再度血中セレンを測定したところ11.7μg/dLと症状の改善とともに血中セレン濃度の改善を認めた.セレンは必須微量元素で,通常の食生活上は欠乏をきたしにくいが,透析患者はたんぱく質の摂取制限があり,血清セレン濃度が低い傾向があると報告がある.また当院で使用できるtotal parenteral nutirition(TPN)用微量元素製剤にはセレンが含まれておらず,本症例は3週間のTPN中に欠乏をきたしたと考えられた.透析患者で比較的長期のTPNを必要とする際,治療に難渋する貧血や筋肉痛などの症状に対してセレン欠乏を考慮する必要がある.
著者
森澤 紀彦 佐藤 博之 松山 桃子 林 直美 安達 章子 佐藤 順一 横尾 隆 雨宮 守正
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.12, pp.2432-2440, 2016-12-10 (Released:2017-12-10)
参考文献数
6
被引用文献数
1

TAFRO症候群は,血小板減少(thrombocytopenia),腔水症(anasarca),発熱(fever),骨髄線維症(myelofibrosis),腎機能障害(renal dysfunction),臓器腫大(organomegaly)を特徴とする.症例は66歳,男性.7カ月前に血小板数減少を指摘され,約1カ月前より腹痛,胸腹水貯留が生じた.前医入院後に腎機能障害が出現し,当院転院となり,TAFRO症候群と診断した.比較的急峻な経過を辿るもステロイドおよびシクロスポリンによる治療で改善した.血小板減少を伴う腎機能障害の鑑別にTAFRO症候群を挙げることが肝心である.
著者
森澤 紀彦 大瀧 佑平 菅野 直希 奥野 憲司 卯津羅 雅彦 三井 理華 遣田 美貴 武田 聡 横尾 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.315-320, 2017 (Released:2017-05-28)
参考文献数
22

リチウム中毒は双極性障害の治療に用いられるが, 有効血中濃度領域は比較的狭く中毒域が近いこと, 多岐にわたる中毒症状が注意点としてあげられる. 今回われわれは, 炭酸リチウム24gを内服し, 意識障害およびQT延長をきたした急性リチウム中毒を経験したので報告する. 症例は26歳女性, 希死念慮を認め, 炭酸リチウム24gを過量服薬した. 意識障害を呈したため当院救急搬送され, 過量服薬後1時間程度で胃洗浄を施行, 心電図で軽度のQT延長を認め, 急性リチウム中毒を疑い, 持続的血液透析を開始した. 開始後, 症状改善し, 血中リチウム濃度の再上昇を認めず, 経過良好にて第7病日に退院となった. リチウムは非常に透析性の高い物質であり, 循環動態が不安定な場合には持続的血液透析が望ましい. 急性中毒に対して早期の血液透析開始により, 血中リチウム濃度を低下させ, 脳内および各組織におけるリチウム濃度の上昇抑制が可能となることが示唆された.
著者
横尾 隆 久保 仁 石川 匡洋 加藤 尚彦 木村 弘章 大井 景子 我那覇 文清 川口 良人 細谷 龍男
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.1115-1119, 2000-07-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

症例は54歳男性, 肝硬変を合併する維持透析患者. 1989年に腹膜透析導入, 1996年よリ血液透析に変更となった. 血液透析中に一過性意識障害をくり返すため精査加療目的に入院. 頭部CTにおいて有意所見みられず, また脳血流シンチでも透析前後で明らかな差異は認められなかった. しかし血液透析後にアンモニア濃度が上昇するため, 門脈ドップラー検査を施行したところ門脈血流は肝内, 本幹とも遠肝性で脾静脈の一部から始まる側副血管を介して下大静脈に流入していた. さらに透析中に本幹での門脈血流の低下が指摘された. このため短絡血流の増加が意識障害を説明するものと考え, 透析中にアミノレバン®を投与することにより認められなくなった. これまでに透析中の門脈血流中の変化に対する報告はみられず, 今回の門脈ドップラーによる血流の結果は肝硬変合併血液透析患者の特殊性を示し, 意識障害が生じた場合の精査に重要であるものと考えられた.
著者
川尻 将守 渡邊 尚 井上 愛 岩谷 理恵子 平塚 明倫 保科 斉生 山本 泉 丸山 之雄 大城戸 一郎 横尾 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.31-35, 2021 (Released:2021-01-28)
参考文献数
14

新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID‒19)が世界中で拡大し,感染による急性腎障害(acute kidney injury: AKI)の発生に伴い透析を必要とする患者が増加している.血液浄化装置を介した感染拡大を防ぐ必要があるが,装置の汚染状況が不明確なため,現在は約10日間装置をウイルスから隔離した状態で静置した後,他の患者へ使用する運用を行っている.今回,COVID‒19患者の血液透析に使用した直後の血液浄化装置に新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: SARS‒CoV‒2)が存在するか調査し,今後の装置の運用に役立てることを目的とした.血液浄化装置の9か所で採取した検体において逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction: RT‒PCR)検査はすべて陰性であった.COVID‒19患者に使用後の装置待機期間短縮は慎重に検討すべきであり,検体の採取箇所や環境等の条件を変更した追加調査が必要と考える.