著者
井川 達也 勝平 純司 櫻井 愛子 保坂 亮 中野 徹 松澤 克
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0806, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】腰部脊柱管狭窄症(LSCS)は脊柱管の狭窄により馬尾や神経根が圧迫され神経症状を呈する疾患である。特徴的な症状として姿勢による症状の変化や神経性間歇跛行が挙げられ,また歩行の特徴としては,体幹前傾角度の増大,歩行速度や歩幅の減少,股関節角度の減少などが挙げられる。この前傾姿勢は減圧による症状緩和を可能にするにも関わらず,特徴的な姿勢を示さない患者も存在する。そこで本研究の目的は,腰部脊柱管狭窄症患者の歩行時の体幹前傾角度と関連する変数(下肢関節,骨盤,体幹の角度など)を明らかにすることである。【方法】対象は当院に手術目的に入院したLSCS患者111名(年齢70.9±6.2歳)とした。歩行動作の計測は,約5.5mの歩行路における自然歩行を3次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社製:100Hz)と床反力計(AMTI社製:1000Hz)を用いて記録した。安定して行えた自然歩行を2試行記録した。測定時には計測着を着用し,四肢,骨盤,体幹,頭部に計49か所の反射マーカーを貼付した。得られたデータから,歩行速度,ケーデンス,左右の歩幅,一周期時間,左右立脚期の体幹前傾最大角度,骨盤前傾最大角度,骨盤回旋最大角度,下肢三関節の屈伸および底背屈最大角度,内部関節屈伸および底背屈モーメント最大値,関節パワー最大および最小値を111名222肢について求めた。なお,関節モーメントと関節パワーは体重で標準化した値を用いた。各変数について,2試行の平均値を解析に用いた。また歩行計測時の下肢痛(VAS)と日本整形外科学会腰痛評価質問表の小項目である歩行機能障害因子も併せて聴取した。統計解析は,まず体幹前傾角度とその他の変数の相関関係を明らかにするため単変量解析(Pearsonの積率相関係数とSpearmanの順位相関係数の算出)を行った。次に体幹前傾角度に関わる要素を明らかにするため重回帰分析を行った。体幹前傾角度を従属変数とし,単変量で有意な相関を認めた変数を独立変数とするステップワイズ法を用いた。統計解析には,IBM SPSS Statistic(Version21)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。【結果】体幹前傾角度と有意な相関を認めた変数は,歩幅(r=-0.17,p=0.01),骨盤前傾最大角度(r=0.29,p=0.01),股関節屈曲最大角度(r=0.27,p=0.01),股関節伸展最大角度(r=0.47,p=0.01),股関節屈曲モーメント最大値(r=-0.44,p=0.01),股関節パワー最小値(r=0.38,p=0.01),膝関節屈曲最大角度(r=0.33,p=0.01),膝関節伸展最大角度(r=0.33,p=0.01),膝関節パワー最大値(r=-0.22,p=0.01),足関節底屈モーメント最大値(r=0.20,p=0.01)であった。次に,独立変数に上記10項目を採用した重回帰分析を行った結果,体幹前傾角度と有意な独立変数として検出された項目は,股関節伸展最大角度(β=0.416),股関節屈曲モーメント最大値(β=-0.348),歩幅(β=0.257),であった。自由度調整済み決定係数は0.294(p<0.01)であった。予測式はy=0.359×股関節伸展角度-8.008×股関節屈曲モーメント最大値+15.251×歩幅+1.607となった。【考察】LSCS患者にとって体幹前傾姿勢の可否は症状緩和のために重要な姿勢であると広く言われている。本研究の結果から,体幹前傾姿勢には疼痛の程度や骨盤,足関節,膝関節運動ではなく,股関節運動が関与していることが示唆された。体幹前傾が大きいLSCS患者は立脚期後半の股関節伸展角度が大きいにも関わらず,股関節屈曲モーメントが小さい傾向にある。これは,股関節屈曲筋力低下のため,上半身重心を前方に変位させることにより股関節屈曲モーメントを減少させる姿勢戦略を選択している可能性が考えられる。腸腰筋筋力低下はLSCSの最も初期の徴候であるとの報告もあることから,この腸腰筋筋力低下が体幹前傾姿勢をとる要因であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の新規性はLSCS患者の体幹前傾姿勢と歩行パラメータとの関係性を示し,立脚期後半の股関節機能の重要性を示したことである。またLSCS患者の除圧術後の理学療法は,歩行中の体幹前傾姿勢を改善させるために立脚期後半を想定した股関節屈曲筋力の改善が重要であることが示唆された。
著者
原 毅 佐野 充広 四宮 美穂 野中 悠志 市村 駿介 中野 徹 松澤 克 櫻井 愛子 草野 修輔 久保 晃 久保田 啓介
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.184-192, 2013-06-20 (Released:2018-04-12)
参考文献数
37
被引用文献数
11

【目的】消化器がん患者の周術期から自宅復帰後における身体運動機能とQuality of Life(以下,QOL)の経時的変化,各時期間の身体運動機能変化と自宅復帰後QOLの関連性について検討すること。【方法】対象は,周術期消化器がん患者42例(男性23例,女性19例,年齢60.6±11.3歳:平均±標準偏差)とした。本研究では,身体運動機能を等尺性膝伸展筋力,Timed "Up and Go" test,6分間歩行距離の3項目,QOL指標にShort-Form 36-Item Health Survey version 2のアキュート版を使用し,手術前,手術後,退院後の3つの時期に各々評価した。【結果】身体運動機能とQOLは,手術後一時的に有意な低下が認められた。退院後では,身体運動機能が手術前と同程度まで向上する一方で,QOLの身体的健康が手術前より有意に低かった。また,手術前後の身体運動機能変化比と退院後のQOLの間に有意な相関関係が認められた。【結論】消化器がん患者の周術期の身体運動機能変化が自宅復帰後のQOLと関連することがあきらかとなった。
著者
石川 有希子 宮川 淳美 高橋 佳子 吉村 雅子 安川 由江 吉野 有夏 櫻井 愛子 納富 あずさ 古畑 公
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.205-213, 2018 (Released:2018-03-28)
参考文献数
31

本研究は、ママパパ学級に初参加した初産婦を対象として、主食・主菜・副菜のそろった食事の頻度と身体状況、生活状況、栄養素および食品摂取量の関係を明らかにし、松戸市健康増進計画(第3次)推進のための基礎資料を得ることを目的とした。主食・主菜・副菜がそろった食事の摂取頻度 “1日2回以上” 群と “1日2回未満” 群を比較した結果、BMI、非妊娠時の体重、非妊娠時の体重と現在の体重の差、妊娠週数、健康維持のための活動については、両群間に有意な差は認められなかった。栄養素および食品群別摂取量については、“1日2回以上” 群は “1日2回未満” 群に比べると、総エネルギー、たんぱく質エネルギー比、ビタミンB1、葉酸、カルシウム、鉄、カリウム、総食物繊維および米類、豆類、野菜類、魚介類の摂取量が有意に多かった。しかしながら、日本人の食事摂取基準(2015年版)をもとに、不適切摂取者の割合を算出した結果、“1日2回以上” 群においても、ビタミンB1不足者63%、食物繊維不足者69%、脂質および食塩の過剰摂取者は100%である等、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が “1日2回以上” だけでは、適切な栄養素摂取量につながらない可能性が示唆された。