著者
横山 茂之 河合 剛太 岡田 典弘 武藤 あきら 渡辺 公綱 志村 令郎 大澤 省三
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本年度は,これまでの4年間の研究成果をとりまとめ,9月24日の第6回公開シンポジウムにおいて広く公表した.また,4年間の班員の成果をまとめた最終報告書を作成した.また,本重点領域研究と関係の深いシンポジウムが8月27日の日本分子生物学会大会中に行われ,これにおいても研究成果が公表された.第6回公開シンポジウムでは,第1項目「RNA機能の発現機構」の研究成果として,オルタナティブ・スプライシングの制御に関与するRNA結合タンパク質,精密なtRNA分子識別を行うクラスIアミノアシルtRNA合成酵素,および特異な二次構造を持つ動物ミトコンドリアtRNAについての立体構造解析の結果が示された.また,グループIイントロンRNAの活性化,リボソームRNAの機能あるいはタンパク質によるtRNAの分子擬態についての研究成果も報告された.第2項目「RNA新機能の検索」については,新規に発見された低分子量RNAによるTrans-translationの機構,リボソームRNAにおける2つのドメイン間のcommunication機構,あるいはミトコンドリアtRNAによるショウジョウバエの生殖細胞形成機構についての研究成果が発表された.また,第3項目「RNAの起源と進化」については,アミノアシルtRNA合成酵素の起源と進化のメカニズム,およびウイルス由来のリボザイムやミトコンドリアtRNA遺伝子変異によるミトコンドリア病についての研究成果が発表された.
著者
太田 成男 小林 悟 武藤 あきら 渡辺 公綱 渡辺 嘉典 岡田 典弘
出版者
日本医科大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1997

ミトコンドリアtRNA病の発症機序の分子機構解明とそれを基礎とした治療法の開発が行われた。太田と渡辺公綱は共同で、ミトコンドリア病の原因である変異ミトコンドリアtRNAを精製し、修飾塩基を含む構造解析をし、ミトコンドリア病のふたつの病型(MELASとMERRF)の原因の3種類の変異ミトコンドリアtRNA(tRNA-LysとtRNA-Leu(UUR))では共通にアンチコドンの塩基修飾が欠損していることを明らかにした。さらに、渡辺はこの塩基の修飾にはタウリンが結合していることを明らかにした。すなわち、3つの変異tRNAには共通にアンチコドンにタウリンが結合していない。この塩基修飾の欠損によって、mRNAのコドンへの親和性が低下してミトコンドリア内の蛋白合成が停止することによって発症することを明らかにした。変異tRNAの構造解析、機能解析を基礎として疾患の治療法の基礎が開発されたので、一連の研究の社会的意義はきわめて大きい。小林はミトコンドリアrRNAが生殖細胞の形成に普遍的に必要であること、生殖細胞形成期の細胞ではミトコンドリアrRNAを含むミトコンドリア型(原核細胞型)のリボソームが形成されていることを明らかにした。この研究によって、ミトコンドリア型の翻訳系が生殖細胞の形成に必要であるという独創的な概念を提出した。この概念は、類する研究がないほど新しい分野をきりひらいたという意味で極めて重要である。渡辺嘉典は減数分裂に必要なRNAであるmeiRNAの機能を明らかにした。すなわち、meiRNA結合蛋白が核と細胞質をシャトルさせるためにRNAが必要であるという新しい概念を打ち立て、証明した。武藤はmRNAとtRNAの双方として機能するmtRNAの役割ドメインを決定し、その分子機構を解明した。