著者
中村 義一 坂本 博 塩見 春彦 饗庭 弘二 横山 茂之 松藤 千弥 渡辺 公綱 野本 明男 谷口 維紹 堀田 凱 京極 好正 志村 令郎
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2001

本特定領域研究では、「原子→分子→細胞→個体」と階層的に研究を推進し、それらの連携によって「RNAネットワーク」の全体的かつ有機的な理解を深めることを目的にした。これらの研究成果は、RNA研究にとどまらず、広く生命科学に対する貢献として3つに集約することができる。・第一の貢献は、構造生物学と機能生物学を連携駆使した研究によって、RNAタンパク質複合体やRNA制御シグナルの動的な作動原理に対する学術的な理解を深めたことである。・第二の貢献は、micro RNAを始めとするタンパク質をコードしない「小さなRNA」に関して先導的な研究を推進できたことである。ノンコ-ディングRNA(ncRNA)は本特定領域の開始時には全く想定されていなかった問題だが、ヒトゲノム・プロジェクトの完了によって、ヒトのRNAの98%をも占める機能未知な「RNA新大陸」として浮上した。今後の生命科学の最優先課題といっても過言ではないこの新たな問題に対して、本特定領域はその基盤研究として重要な貢献をすることができた。・第三の貢献は、本特定領域の研究が、意図するとしないとに係らず、RNAの医工学的な基盤の確立に寄与したことである。本特定領域研究では、実質的研究が開始された平成14年度から年1回の公開シンポジウムを開催し、平成15年と平成18年には各々30名程度の海外講演者を含めた国際シンポジウム(The New Frontier of RNA Science[RNA2003 Kyoto]; Functional RNAs and Regulatory Machinery[RNA2008 Izu])を開催した。これらのシンポジウムは、学術的、教育的、国際交流的に実り豊かな第一級の国際会議となった。又、特定領域研究者のみならず社会とのコミュニケーションを目的として、RNA Network Newsletterの年2回発行を継続し、各方面からの高い評価と愛読を頂戴して全10冊の発行を完了した。なお、事後評価においては「A+」と評価され、本プログラムはその目的を十分に達成することができた。
著者
中村 義一 横山 茂之 渡辺 公綱 志村 令郎 饗場 弘二 多比良 和誠
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

近年のRNA研究の大きな発展を支えた背景には、国内のRNAの基礎研究に関して10年余の間継続して実施されてきたRNAに関係する重点・特定領域研究が果たした役割が大きい。このようなRNA研究に対する熱意は、特に若い研究者の間に大きなうねりとなって現れ、平成11年に日本RNA学会が組織された(初代会長:志村令郎・生物分子工学研究所長)。本基盤研究(C)においては、「RNA研究の21世紀への展開」のために推進すべき課題についての調査と討論を重ね、平成13年度発足特定領域研究(A)「RNA情報発現系の時空間ネットワーク」を申請するに至った。その過程で、本基盤研究(C)に参加し、同時に新特定領域研究の総括班に予定するメンバーは、平成12年に開催されたRNA関連の国際研究集会「tRNA Workshop」(4月、ケンブリッジ)、「RNA Society年会」(5月、マジソン)、FASEBシンポジウム「Posttranscriptional Control of Gene Expression:The Role of RNA」(7月、コロラド)、「Ribosome Biogenesis」(8月、タホ)、「Structural Aspects of Protein Synthesis」(9月、アルバニ)に参加し、最新情報の調査・討論を行った。これらの調査討論に基づき新特定領域研究の申請を準備するとともに、平成13年2月には、国外から12名の研究者を招聘して国際シンポジウム「Post-Genome World of RNA」(開催責任者:東京大学医科学研究所教授中村義一)を東京で開催し、本研究領域に関する最新の発表・討論を実施した。
著者
渡辺 公綱 横川 隆志 河合 剛太 上田 卓也 西川 一八 SPREMULLI Li SPREMULLI Linda lucy LINDA Lucy S SPREMULL Lin
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本国際学術共同研究は、動物ミトコンドリアにおける暗号変化(UGA;普遍暗号では終止暗号がトリプトファンに、AUA;イソロイシンがメチオニンの暗号に、AGA/AGG;アルギニンが殆どの無脊椎動物ではセリン、原索動物ではグリシン、脊椎動物では終止暗号に変化、など)の分子機構をin vitro翻訳系を構築して、解明する目的で始められた。このような研究は、ミトコンドリア(mt)からその細胞内量から見ても、生化学的な研究に十分な試料を調製することが大変困難なこと、翻訳に関わるタンパク性諸因子がかなり不安定で単離が困難なことなどが主な障害となって世界的にも殆ど手がつけられていなかった。我々は特異構造を持つmt・tRNA(殆どのmt・tRNAではL型立体構造形成に関わっているDループとTループ間の塩基対を欠いていたり、DループやTループが欠落したものも見つかっている)と変則暗号解読の因果関係を探る目的で、mt・tRNAの大量調製法を確立し、その構造と性質を調べていたが、翻訳系の構築に必要な活性のある因子の調製ができなかった。国外共同研究者であるSpremulliのグループは、活性あるmtリボソームと翻訳系諸因子の調製に成功していたが、mt・tRNAの単離ができなかった。このような状況においてお互いのグループで開発したシステムと技術を合体させることにより、mtのinvitro翻訳系を構築し、暗号変化の分子機構を解明するという目的で平成3年度から本研究がスタートした。研究はかなり順調に進んできたが、本格的な展開はこれからであり、やっとその基礎が固まったという現状である。以下に年度を追ってその成果を述べる。[平成3年度]1)tRNAの特定配列に相補的な合成DNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法を開発し、mt・tRNAの0.2-0.5mgオーダーの調製が可能になった。2)UCN(N=A,U,G,C)のコドンに対応するウシmt・セリンtRNAを単離、精製し、それが従来の遺伝子から推定されていた配列から、実際の構造がずれていること、アンチコドン・ステムは一塩基対長く、アミノ酸ステムとDステムの間が一塩基しかない、異常な2次構造をとること、この構造は哺乳動物mtに共通であることを明らかにした。3)ウシ肝臓から活性のあるリボソーム、開始因子(IF-2)、伸長因子(EF-Tu/Ts、EF-G)、アミノアシル-tRNA合成酵素(ARS)の調製方法を確立し、それらの性質を検討した。[平成4年度]1)AGY(Y=U,C)のコドンに対応する、Dアームを欠くセリンtRNAのセリルtRNA合成酵素(SerRS)による認識部位を決定する目的で、このtRNA遺伝子からT7RNAポリメラーゼによる転写物を調製し、種々の塩基置換を導入したtRNA変異体のSerRSによるセリン受容能を測定した結果、アンチコドンは認識に無関係だが、Tループが重要であり、中でもよく保存されたループ中央のA44の置換が決定的であることが分かった。2)ウシ・mtでポリ(U)依存ポリ(フェニルアラニン)合成系を初めて構築し、大腸菌の系との構成成分の互換性を検討したところ、mtのPhe-tRNA^<Phe>は大腸菌のEF-TuとGTPとで3者複合体を形成するが、そこからリボソームA部位への転移過程が働かないことを明らかにした。3)ウシ・mtのメチオニンtRNAの塩基配列を再検討し、アンチコドンの一字目に、5-ホルミルシチジンという新規修飾塩基が存在することを明らかにした。4)ウシ・mtフェニルアラニンtRNAの修飾塩基を含む塩基配列を決定し、RNaseや化学試薬への感受性からその立体構造を推定したところ、Dループ、Tループ相互作用はないが、Dアームとバリアブルループ間の3次元的な塩基対形成によってL型に近い構造をとっていることを見出した。[平成5年度]1)ポリ(U)依存ポリ(Phe)合成系の効率化の条件を検討し、1mMスペルミン存在下で大腸菌の系の約1/2のレベルまで合成効率を上昇させることに成功した。2)AUAがメチオニンの暗号であることを証明するために、AUAを含む人工mRNAを用いて、AUAに依存したメチオニル-tRNAのリボソームへの結合、ポリペプチドへのメチオニンの取り込みを調べたが、現在までのところまだ肯定的な結果は得られていない。3)ウシmtからホルミルトランスフェラーゼを精製し、fMet-tRNAを作成し、EF-TuとIF-2の結合をMet-tRNAと比較したところ、fMet-tRNAはIF-2と、Met-tRNAはEF-Tuとそれぞれより高い親和性を示した。これは単一tRNAがホルミル化によって開始と伸長の両反応に使い分けられる可能性を支持するものである。
著者
横山 茂之 河合 剛太 岡田 典弘 武藤 あきら 渡辺 公綱 志村 令郎 大澤 省三
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本年度は,これまでの4年間の研究成果をとりまとめ,9月24日の第6回公開シンポジウムにおいて広く公表した.また,4年間の班員の成果をまとめた最終報告書を作成した.また,本重点領域研究と関係の深いシンポジウムが8月27日の日本分子生物学会大会中に行われ,これにおいても研究成果が公表された.第6回公開シンポジウムでは,第1項目「RNA機能の発現機構」の研究成果として,オルタナティブ・スプライシングの制御に関与するRNA結合タンパク質,精密なtRNA分子識別を行うクラスIアミノアシルtRNA合成酵素,および特異な二次構造を持つ動物ミトコンドリアtRNAについての立体構造解析の結果が示された.また,グループIイントロンRNAの活性化,リボソームRNAの機能あるいはタンパク質によるtRNAの分子擬態についての研究成果も報告された.第2項目「RNA新機能の検索」については,新規に発見された低分子量RNAによるTrans-translationの機構,リボソームRNAにおける2つのドメイン間のcommunication機構,あるいはミトコンドリアtRNAによるショウジョウバエの生殖細胞形成機構についての研究成果が発表された.また,第3項目「RNAの起源と進化」については,アミノアシルtRNA合成酵素の起源と進化のメカニズム,およびウイルス由来のリボザイムやミトコンドリアtRNA遺伝子変異によるミトコンドリア病についての研究成果が発表された.
著者
太田 成男 小林 悟 武藤 あきら 渡辺 公綱 渡辺 嘉典 岡田 典弘
出版者
日本医科大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1997

ミトコンドリアtRNA病の発症機序の分子機構解明とそれを基礎とした治療法の開発が行われた。太田と渡辺公綱は共同で、ミトコンドリア病の原因である変異ミトコンドリアtRNAを精製し、修飾塩基を含む構造解析をし、ミトコンドリア病のふたつの病型(MELASとMERRF)の原因の3種類の変異ミトコンドリアtRNA(tRNA-LysとtRNA-Leu(UUR))では共通にアンチコドンの塩基修飾が欠損していることを明らかにした。さらに、渡辺はこの塩基の修飾にはタウリンが結合していることを明らかにした。すなわち、3つの変異tRNAには共通にアンチコドンにタウリンが結合していない。この塩基修飾の欠損によって、mRNAのコドンへの親和性が低下してミトコンドリア内の蛋白合成が停止することによって発症することを明らかにした。変異tRNAの構造解析、機能解析を基礎として疾患の治療法の基礎が開発されたので、一連の研究の社会的意義はきわめて大きい。小林はミトコンドリアrRNAが生殖細胞の形成に普遍的に必要であること、生殖細胞形成期の細胞ではミトコンドリアrRNAを含むミトコンドリア型(原核細胞型)のリボソームが形成されていることを明らかにした。この研究によって、ミトコンドリア型の翻訳系が生殖細胞の形成に必要であるという独創的な概念を提出した。この概念は、類する研究がないほど新しい分野をきりひらいたという意味で極めて重要である。渡辺嘉典は減数分裂に必要なRNAであるmeiRNAの機能を明らかにした。すなわち、meiRNA結合蛋白が核と細胞質をシャトルさせるためにRNAが必要であるという新しい概念を打ち立て、証明した。武藤はmRNAとtRNAの双方として機能するmtRNAの役割ドメインを決定し、その分子機構を解明した。