著者
武藤 孝司
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.25, 2020 (Released:2020-05-08)

プレゼンティーイズムの研究は2000年頃から主に北欧と米国で行われるようになった。その定義には健康問題を持ちながら出勤している状態で労働生産性損失を含むものと含まないものとがある。これまでの研究のテーマは、プレゼンティーイズムとなる理由、健康や仕事への影響、測定方法の開発、各種疾患との関係やそれへの対応策などであった。今後の課題としては、プレゼンティーイズムに関する理論構築や労働生産性損失測定の方法論確立が挙げられる。
著者
市橋 透 西埜植 規秀 高田 康二 武藤 孝司
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-8, 2015 (Released:2015-02-16)
参考文献数
38
被引用文献数
3 1

目的:成人期に増加する歯周病は細菌感染による慢性疾患であるが,生活習慣とも関連が深い.したがって,歯周病と健康行動との関連を明らかにしていくことは,歯周病予防に重点を置いた保健指導を効果的に推進していく上で重要と考える.そこで,本研究は歯周病が進行した状態にある歯周ポケットに着目し,その有無に関連する健康行動を明らかにすることを目的とした.対象と方法:対象は歯科保健プログラムを全員参加方式で実施した某企業の従業員3,850人で,同時に実施した質問紙調査に回答し,本研究への協力に同意の得られた者3,142人(男性2,429人,女性713人,42.4±10.5歳,範囲20–59歳)とした.歯周組織の状態はCommunity Periodontal Index(CPI)の個人コードで評価し,歯周ポケット無し群(CPI個人コード2以下)と歯周ポケット有り群(CPI個人コード3以上)に分類して健康行動(歯みがき習慣,デンタルフロスおよび歯間ブラシの使用状況,歯科受療状況,ブレスローの健康習慣など)との関連性について比較検討を行った.さらに,歯周ポケットの有無に関連する健康行動を明らかにするため,歯周ポケットの有無を目的変数,説明変数に健康行動の項目を用い,性別,年齢階級,職種を調整変数としてロジスティック回帰分析を行った.結果:ロジスティック回帰分析結果から,歯周ポケット「有り」に関連する好ましくない健康行動は,デンタルフロスを使用しない(OR=1.95(95%CI: 1.57–2.41))が最も高く,タバコを吸う(OR=1.71(95%CI: 1.44–2.03)),1日の歯みがき1回以下(OR=1.33(95%CI: 1.10–1.61))であった.考察:歯周病予防対策が中心となる職域での歯科保健プログラムにおいては,デンタルフロスの使用率の向上と1日2回以上の歯みがき習慣の定着化,歯周病のリスク因子である喫煙対策に向けた健康教育や保健指導が重要であることが示唆された.
著者
武藤 孝司
出版者
公益財団法人 産業医学振興財団
雑誌
産業医学レビュー (ISSN:13436805)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.155-178, 2022 (Released:2022-01-13)

健康増進法に基づいた政策「健康日本21(第二次)」では、健康増進の主要な目標である健康寿命の延伸を図るために、生活習慣病の予防と社会生活上必要な機能の維持及び向上などが必要とされている。具体的な取り組みでは地域における活動だけでなく職域での産業保健活動も期待されている。全国民の約半数にあたる約6,000万人の労働者を対象として行われている産業保健活動に関する学術論文を検討した結果、産業保健活動が日本国民の健康寿命延伸に寄与している可能性が示された。
著者
吉田 勝美 松田 弘史 武藤 孝司 桜井 治彦 近藤 東郎
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.935-940, 1990-10-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
19

長期の体重変動が,肥満の健康影響を評価する上で,関心を呼んでいる。体重の増加量が及ぼす健康影響は知られるものの,体重増加の時間的経緯による健康影響については,ほとんど知られていない。本研究の目的は,体重増加の時間的経緯として,増加速度がもたらす健康影響を評価することである。某企業の1,627名男子従業員の中から,次の基準により,解析対象を選択した。選択基準は,以下のごとくである。1)対象者は,少なくとも20回以上の健康診断を受診している。2)対象者は,青年期より7kg以上の体重増加を認める。上記の基準により,437名が選択された。対象者の年齢は,46.2±5.1歳(M±S.D.)であった。体重の増加速度により,対象者を以下の3群に分けた。急速体重増加群は,5年間に5kg以上の増加を認めた者であり,167名が分類された。緩徐体重増加群は,5年間に5kg未満の体重増加を認めた者であり,212名が分類された。観察期間中に,一時的な体重減少を認めた残りの58名は,その他の群として,以下の解析から除外した。現時点の比体重を補正したMantel-Haenszel odds比は,空腹時血糖の有所見(110mg/dl以上)に関して,急速体重増加群で有意に高かった。また,体重増加速度以外の要因を含めたロジスティック解析の結果では,空腹時血糖の有所見に関するロジスティック式に,年齢とともに体重増加速度が取り込まれ,体重増加速度のodds比は,2.86(95%C.I.:1.35-6.06)であった。血圧,総コレステロール,中性脂肪,尿酸の有所見の発現に関して,体重増加の有意な関係は認めなかった。以上より,青年期から7kg以上の体重増加を認めた者において,体重増加速度が糖代謝異常の発現に関連していることが示され,体重増加速度が有する健康危険指標の意義が確認された。