- 著者
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水藤 昌彦
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, pp.47-61, 2016 (Released:2017-10-31)
- 被引用文献数
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本稿の目的は,2000年代半ばから開始され,現在も活発化を続けている刑事司法と福祉の連携によ る非行・犯罪をした人への対応を題材として,福祉機関の側からみたリスクとセキュリティ(安全の 保証策)に関する課題を検討することである.本稿では,まず刑事司法と福祉による連携の現状と特 徴を確認する.次に,このような刑事司法と福祉の連携が開始された契機,ならびに刑事司法と福祉 のそれぞれからみた連携の目的について検討する.続いて,福祉機関の認識するリスクとセキュリティ について考察する.刑事司法と連携する福祉機関によって認識されると考えられるリスクには,①支 援対象者による再犯のリスク,②支援者としての法的責任を問われるリスク,③他の支援機関との関 係が悪化したり,社会的評価が傷つくリスク,④福祉機関の他利用者,利用者家族との関係を悪化さ せるリスクの4つがあると考えられる.これらのリスクに対するセキュリティは,支援対象者の再犯 防止を過度に強調したり,サービスから排除したりすることにつながる可能性がある.福祉が刑事司 法に対して対等性・自立性を確保していくためには,自らの認識するリスクに対するセキュリティが 福祉の司法化という新たなリスクへつながる可能性をはらんだものである点について自覚することが 求められる.