著者
水野 泰行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1133-1137, 2010-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

慢性疼痛における破局化とは痛みに対して注意がとらわれることや無力感,そして痛みの脅威を過大評価することで特徴づけられる認知過程である.それは痛みの難治化を説明するfear-avoidance modelの一部を構成するものであり,痛みの強さや障害,予後に強く関係しているため,慢性疼痛の心身医学的治療においては看過できないものである.破局化の評価法には疼痛破局的思考尺度(PCS)があり,反芻,無力感,拡大視の3つの下位尺度がある.痛みにとらわれた考えや不安をそのまま無批判に体験するマインドフルネスが破局化と痛みの関与を和らげるといわれており,治療としての有用性が示唆されている.
著者
木村 慎二 細井 昌子 松原 貴子 柴田 政彦 水野 泰行 西原 真理 村上 孝徳 大鶴 直史
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.206-214, 2018-03-16 (Released:2018-04-20)
参考文献数
29
被引用文献数
2

2011年のNakamuraらの調査では,日本人の慢性疼痛の有症率は約15%で,その患者数は増加傾向である.慢性疼痛は急性痛と異なり,通常の薬物療法が効きにくい例があり,日本整形外科学会の2012年腰痛診療ガイドラインでは,運動療法,小冊子を用いた患者教育,さらには認知行動療法がGrade Aとして強く推奨されている.認知行動療法は,ある出来事に対する認知(考え方)と行動を変えることで,問題への効果的な対処の仕方を習得させる心理教育を踏まえた治療法である.慢性疼痛患者の生活および生きがいを獲得することを目的に,筆者は認知行動療法理論に基づき,「いきいきリハビリノート」を用いた運動促進法を開発し,普及に努めている.
著者
水野 泰行 福永 幹彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.1111-1114, 2016 (Released:2016-11-01)

漢方は東洋の人間観である身心一如を重視する心療内科となじみが深く, 重要な治療手段と位置づけられている. 関西医科大学附属病院における3カ月間の外来処方を分析すると, 漢方薬の26.0%を心療内科が処方していた. 次いで女性診療科 (10.9%), 消化器外科 (6.5%), 総合診療科 (5.8%) の処方数が多かった. 外来患者1人あたりの処方数では心療内科が0.63と最も多く, 続いて総合診療科 (0.15), 精神神経科 (0.12) が比較的多かった. 方剤の種類も心療内科が最多で, 総合診療科とともに多種類の方剤がまんべんなく使われていた. 一方, 精神神経科, 消化器外科は少数の方剤を多数使用する傾向があった. 卒前教育では3学年の講義50コマのうち8コマを東洋医学に割り当てている. 卒後教育では当講座主催のセミナーと複数科からなる世話人会による研究会をそれぞれ年1回, 初心者向けのセミナーを年2回開催している.
著者
蓮尾 英明 神原 憲治 水野 泰行 福永 幹彦 中井 吉英
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.417-423, 2015-05-01 (Released:2017-08-01)

背景:心療内科では,慢性めまいを主訴とする症例を多く経験する.この場合,2次的に頸部筋過緊張といった身体異常を認めることが多いが,患者の多くは失体感症傾向が高く自覚に乏しい.そのようなケースへの身体的なフィードバックによる認知の変容は示唆されている.今回われわれは,慢性めまいを訴える患者に対して,催眠による筋弛緩体験によって自覚に乏しい頸部筋過緊張の存在に気づく「体験的気づき」を用いた介入の有用性を検討した.方法:対象は,罹病期間が3カ月以上のめまいを主訴とした,頸部筋過緊張を認める56例である.初診時に,対象を催眠群28例,非催眠群28例にエントリー順に交互に振り分けた.その後,全例に,「頸部筋過緊張が原因の一つ」という説明のうえに肩の漸進的筋弛緩法を指導した.おのおのの群に対して,経時的に,めまい感の程度を数値的評価スケールにて比較検討した.結果:催眠群,対照群ともに,有意なNumerical Rating Scaleの変化が認められた(p<0.001).両群とも初診〜1カ月後(p<0.001)の変化が有意であり,1カ月後〜3カ月後の変化は有意ではなかった.催眠群と対照群の比較では,催眠群のめまい感のNumerical Rating Scaleは,初診〜1カ月後にかけて有意差は得られなかったが(p=0.029),初診〜3カ月後にかけて有意に低下していた(p=0.005).考察:短期間での催眠群でのより有意な改善から,初診時の催眠による体験的気づきがめまい感の改善につながったと考えられる.この「体験的気づき」は,患者に対して,自覚した身体異常と慢性生めまいとの関連への気づきを強く促したと考えられ,失体感症へのアプローチとしての可能性が示された.