著者
木村 慎二 細井 昌子 松原 貴子 柴田 政彦 水野 泰行 西原 真理 村上 孝徳 大鶴 直史
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.206-214, 2018-03-16 (Released:2018-04-20)
参考文献数
29
被引用文献数
2

2011年のNakamuraらの調査では,日本人の慢性疼痛の有症率は約15%で,その患者数は増加傾向である.慢性疼痛は急性痛と異なり,通常の薬物療法が効きにくい例があり,日本整形外科学会の2012年腰痛診療ガイドラインでは,運動療法,小冊子を用いた患者教育,さらには認知行動療法がGrade Aとして強く推奨されている.認知行動療法は,ある出来事に対する認知(考え方)と行動を変えることで,問題への効果的な対処の仕方を習得させる心理教育を踏まえた治療法である.慢性疼痛患者の生活および生きがいを獲得することを目的に,筆者は認知行動療法理論に基づき,「いきいきリハビリノート」を用いた運動促進法を開発し,普及に努めている.
著者
中川 慧 大鶴 直史 猪村 剛史 橋詰 顕 栗栖 薫 中石 真一路 河原 裕美 弓削 類
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】臨床現場においても,難聴者とのコミュニケーションに難渋することが多い。高齢による難聴の多くは感音性難聴といわれており,内耳から脳への伝達経路での障害が原因と考えられている。一般的に感音性難聴を評価する際には,音の聞き分けができるかどうかの主観的評価が用いられているが,加えて大脳皮質応答を客観的に評価することも重要と考えられる。そこで本研究では,聞き取りやすさの条件を変更することで音の聞き分けに対する大脳皮質応答が変化するのかを検討し,感音性難聴を客観的に評価するシステムを確立することを目的とした。【方法】実験に先立ち,難聴者9名を対象に57-S語表(日本聴覚医学会)を用いた50音の聞き取り検査を行い,聞き取りの難しい音・簡単な音を調査した。結果,聞き取りの正答率が最も高い音は『ル』,最も誤答が多かった組み合わせは『ミ』と『ニ』であったため,これらの音を用いて課題を作成した。課題は,約20%の確率で逸脱音を呈示するoddball課題とし,難課題(標準音『ニ』,逸脱音『ミ』)と易課題(標準音『ル』,逸脱音『ミ』)の2課題を設定した。計測は,健聴者10名を対象に,シールドルーム内にて,被験者前方3mの位置のスピーカーから700ms間隔で呈示される音(70dB)を聴いた際の聴覚誘発脳磁界を記録した。スピーカーには,音の指向性および高音域の音圧を高め,聞き手が聞き取りすくなる構造を持つ『COMUOON<sup>Ⓡ</sup>』(ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社)および同一の素材で作られた標準的なスピーカーを使用した。なお計測中,被験者には音に注意を向けないように指示した。各条件500回程度加算し,逸脱音と標準音の差分波形(ミスマッチ反応:mismatch field)をもとに,等価電流双極子推定法を用いて左右聴覚領域それぞれの活動源を推定し,各条件での電流モーメントを比較した。【結果】音の呈示に伴い,刺激後100msをピークとする活動源が両側上側頭回付近に推定された。逸脱音から標準音の応答の差を求めると,易課題では,スピーカーの種類に関わらず100ms(N1m)と220ms付近(P2m)にピークを持つ波形が記録された。一方,難課題ではN1mの振幅が小さく,P2mの潜時が平均288msと遅かったが,『COMUOON<sup>Ⓡ</sup>』を用いることでP2mの潜時が平均259msと短縮した。【結論】感音性難聴の客観的評価システムの導入を目的に聞き分けの難しい言語音を用いた課題を作成し,聴覚誘発脳磁界を指標としてその有用性を検証した。その結果,話し手側から聞き取りやすい音を伝える高精度のスピーカーを用いると,音の認識に関与すると考えられるP2mの出現潜時が短縮した。これは本手法が感音性難聴の客観的評価に対する一つとして有用である可能性を示している。今後は,難聴者を対象に計測を行い,評価システムの確立を目指したい。
著者
福利 崇 渋谷 佳樹 中川 慧 青景 遵之 橋詰 顕 栗栖 薫 河原 裕美 大鶴 直史 弓削 類
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100979, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】我々は,日常生活の中で無意識に他者の姿や行動を観察していることが多い.他者が行っている動作の模倣やイメージをする際は,他者の視点に立って,姿や動作の特徴を注意深く捉える必要があるが,これはリハビリテーションの臨床現場においても共通している.神経心理学において,他者の視点に立つことを意味する視点取得(perspective-taking)という概念があり,この概念に関して様々な観点から研究されている.脳イメージング研究では,fMRIを用いて脳活動部位を同定した研究は数多くみられるものの,時間的な側面から検討した研究は少ない.そこで本研究では,時間・空間分解能力に優れた脳磁図を用いて,部位と時間の両側面から,視点取得における脳神経活動を検討した.【方法】対象は,視覚に異常のない右利きの健常者13 名とした.スクリーン上にランダムに呈示される,左右どちらか一側の上肢または下肢を拳上した全身像の視覚刺激に対する誘発脳磁場活動を,306ch全頭型脳磁計(ELEKTA社, Neuromag System)を使用し,記録した.全身像は,対象者に正面を向けた像(正面像)と背面を向けた像(背面像)から構成し,それぞれ一側の上肢または下肢を挙上した像を作成した.課題は,スクリーン上に呈示された全身像がどちらの上肢または下肢を挙上しているかを解答する本課題と,全身像が挙上している上肢または下肢がスクリーンの右側か左側かを解答するコントロール課題とした.解答は両側示指のタッピングとし,LEDセンサーを用いて各課題および条件の反応時間を計測した.対象者には,各課題において解答に該当する側の示指をできるだけ速くタッピングし,かつ正確に解答するよう指示した.脳磁場測定は,サンプリング周波数を1001Hz,バンドパスフィルターを0.5 ‐30Hzにそれぞれ設定し,実施した.各課題において,正面像と背面像に対する脳活動をそれぞれ約80 回加算した.解析には,グラジオメーターを用い,後頭領域(20ch)と左右の後頭頂領域(各30ch)において各センサー位置におけるRMS(root mean square)を算出し,各領域におけるareal meanを算出した.得られたareal mean波形のピーク値と潜時を,領域別に算出し,課題間で比較した.また,空間フィルター法(sLORETA)を用いて,課題ごとのピーク潜時における各格子点での電流値を算出し,MRI上に空間的に分布表示した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,本研究の趣旨や目的,方法について説明を行い,同意を得た上で実施した.なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:1139)【結果】課題間での平均反応時間は,正面像,背面像ともに,コントロール課題と比較して本課題で有意に延長した(p<0.01).脳磁場活動は,全身像呈示後100ms付近で後頭領域に,さらに200ms付近で右後側頭頂領域において,正面像,背面像ともに明瞭な活動が認められた.100ms付近の成分は,正面像および背面像ともに課題間で活動の有意差はみられなかったのに対し,200ms 付近の右後側頭頂領域における活動は,正面像において,コントロール課題と比較し,本課題で振幅の有意な増加が認められた(p<0.05).また,背面像においても,有意には至らなかったものの本課題において200ms付近の活動が増加する傾向が認められた.【考察】本課題における反応時間がコントロール課題に対して有意に延長したことは,視点取得に際し,より複雑なプロセスを踏んでいることを示している.本課題の全身像の視点取得において,fMRIを用いて右後側頭頂領域が活動したとの報告がある.本研究においても視覚刺激後200ms付近で右後側頭領域に明瞭な反応が認められ,その活動は複雑な視点取得を必要とする本課題で有意に増加した.脳波を用いた先行研究では,視覚刺激後約300ms付近で頭頂付近で観察されるP300 が物体認知や判断を表す成分といわれているが,本研究でみられた右側頭頂領域の200ms付近の成分も,全身像の左右弁別に関与する可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,他者の視点に立って全身像の特徴を捉えようとしている際の脳活動の経時的変化に関連した,部分的な基礎的知見を与えるものである.