著者
堀田 修 永野 千代子
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.69-75, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
29
被引用文献数
1

1960年代にわが国で脚光を浴びた慢性上咽頭炎が近年,耳鼻咽喉科の枠を越えて再び注目を集めつつある.その理由は上咽頭の慢性炎症が後鼻漏,咽頭痛,咽頭違和感等の局所症状に留まらず,慢性疲労,起立性調節障害,過敏性腸症候群等の神経・内分泌系異常を介した症状,IgA腎症の急性増悪,掌蹠膿疱症,反応性関節炎等の自己免疫機序を介した症状等,実に多彩な臨床症状を呈することにある.そして,塩化亜鉛溶液を浸した綿棒を用いた上咽頭擦過療法(Epipharyngeal Abrasive Therapy,EAT)が様々な全身症状の改善に寄与することが再認識されつつある.過去20年の間に神経系と免疫系の連関メカニズムが次々と解明され,最近では迷走神経刺激装置を用いる神経反射を介した免疫疾患や神経疾患への臨床応用も登場し注目されている.上咽頭は神経線維が豊富で迷走神経が投射しており,EATの効果には類似の作用機序が関与していることが推察される.また,脳リンパ路が脳代謝産物の排泄路として重要な役割を果たすことが最近明らかとなったが,上咽頭はこの排泄路の要所であり,EATの瀉血作用を介した鬱血状態の軽減が脳リンパ路の機能改善に繋がると推定される.すなわち,塩化亜鉛溶液による炎症部位の収斂作用のみでなく,上咽頭擦過による迷走神経刺激と瀉血による鬱血・リンパ鬱滞の改善がEATの作用機序として関与していることが推察される.上咽頭は単なる空気の通り道ではなく,神経系・免疫系・内分泌系に影響を及ぼす,いわば全身の「健康の土台」を担う重要部位である.慢性上咽頭炎はこの「健康の土台」が傾いた状態であり,その是正は関連疾患・症状の改善のみならず疾病予防という見地からも重要である.慢性上咽頭炎の治療手段として現状ではEATがBenefit/Risk比の高い処置であるが,慢性上咽頭炎が内包する多様な病態の科学的解明とそれに基づいた新規治療法の開発が医学・医療のブレイクスルーにつながると期待する.
著者
菅原 典子 山村 菜絵子 高橋 安佳里 田澤 星一 久保田 由紀 小澤 恭子 浅田 洋司 田中 佳子 永野 千代子
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.30-36, 2018 (Released:2018-04-15)
参考文献数
15

マイコプラズマ肺炎を疑われ,小児における用法・用量の範囲内のトスフロキサシン(tosufloxacin: TFLX)を内服中に血清クレアチニン(creatinine: Cr)値上昇を来した7 例(4~13 歳)の臨床経過を検討した。4~7 回の内服後に血清Cr 値上昇に気づき,内服中止にて回復傾向を認めた。4 例が急性腎障害の診断基準を満たした。4 例で腹部症状を合併したが,内服中止2 日以内に症状は消失した。1 例は腹痛時にコンピューター断層撮影法での小腸壁の肥厚と磁気共鳴画像での腹水貯留を呈した。既報においても腹部症状を合併する例が多いが,その機序や血清Cr 値上昇との関連は不明である。TFLX による血清Cr 値上昇はcast nephropathy がその成因と想定されており,既報では小児における用法・用量を逸脱した内服が行われていたが,本検討の7 例は規定の範囲内での内服にも関わらず血清Cr 値上昇を来した。今後血清Cr 値上昇や腹部症状の発症機序が明らかとなり,より有効かつ安全にTFLX が使用されることが期待される。