- 著者
-
江原 慶
- 出版者
- 東京大学大学院経済学研究科
- 雑誌
- 経済学論集 (ISSN:00229768)
- 巻号頁・発行日
- vol.81, no.4, pp.21-40, 2017-03-01 (Released:2022-01-25)
- 参考文献数
- 25
本稿では,小幡道昭氏の『マルクス経済学方法論批判』(御茶の水書房,2012年),『価値論批判』(弘文堂,2013年),『労働市場と景気循環─恐慌論批判─』(東京大学出版会,2014年)の3冊を,ひとまとまりの研究成果として通観し,そこで遂行されているマルクス経済学の変革の方向性を捉える.そのためにまず,『資本論』の理論体系から区別された固有の意味でのマルクス経済学の成立を,宇野弘蔵の発展段階論に求め,それは資本主義社会を総体として分析する総合社会科学としての意義を担っていたことを確認した.その上で,小幡氏の『批判』三書が,宇野の歴史的発展段階論の限界を見据えた全面的な改革プロジェクトであり,それは総合社会科学としてのマルクス経済学の再建への礎石となるとした.ただしそのためには,(1)景気循環の変容の理論化,(2)外的条件と歴史的・制度的要因とを峻別した上での原理論の再構築,(3)資本主義の歴史的多様性を再解釈するための歴史理論の再構成など,残された課題は多い.厖大な先行研究を十分吟味しつつ,マルクス経済学の理論・実証研究を一層推進していく必要がある.