著者
桜田 春水 住友 直方 難波 研一 家城 恵子 江尻 成昭 徳安 良紀 渡辺 浩二 本宮 武司 平岡 昌和
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.18, no.8, pp.975-981, 1986

症例は74歳の女性で,頻拍の精査目的で入院した.毎分140の頻拍で,心電図上,II・III・aV<SUB>F</SUB>・V<SUB>3</SUB>~V<SUB>6</SUB>で陰性P波を呈しており,PR時間とRP時間の関係は,PR<RPであった.頸動脈洞圧迫やベラパミル静注により, 一たん, 頻拍の停止を見たが,数拍の洞収縮後,PR時間の延長なしに頻拍が再出現し持続しており,いわゆるincessant型の上室性頻拍であった.<BR>本例に,電気生理学的検査を施行した.頻拍中の心房内興奮順序は,冠静脈洞入口部が最も早期であった.頻拍中の順伝導路は,房室結節・ヒス束を利用していた.逆伝導A波を伴わない右室早期刺激にて頻拍は停止したが,洞収縮から再度頻拍が出現していた.また,頻拍中のヒス束の不応期に加えた右室早期刺激にて,心房補捉が認められた.<BR>以上より,順行性には房室結節・ヒス束を逆行性には副伝導路を利用する房室回帰性頻拍(atrioventricular reciprocating tachycardia)と診断した.逆伝導路には,著明な伝導遅延と,房室結節類似の減衰伝導の性質が認められた.<BR>この様なincessant型の房室回帰性頻拍例は,著者らの知る限りでは本邦初例と思われるので,その発生機序の考察を加えて報告した.