著者
山戸 美智子 江間 薫 武田 義明
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.119-126, 2013

1.近畿地方中部の孤立的に残存している半自然草原を対象に,面積と出現種数の関係,小面積化にともない欠落する種の特性などについて調査を行った.<BR>2.草原生植物の出現種数と草原面積の間には,Gleason(1922)とArrehenius(1921)の両モデルで高い正の相関が認められ,小面積化が半自然草原の種多様性低下に影響を及ぼすことが明らかとなった.<BR>3.面積に対して類似した出現パターンを示す種をまとめ,出現種を4つの種群に整理した.それらは,205000m^2以上の草原に分布が偏るA群,33000m^2以下の草原では欠落傾向を示すB群,1000m^2以下の草原において欠落傾向のあるC群,小面積化にともなう欠落傾向の認められないD群である.<BR>4.小面積化によって欠落傾向の認められた種は,総出現種数の約62%を占めていた.絶滅・絶滅危惧種は,面積の減少にともなう欠落が顕著であり,小面積化による影響を強く受けることがわかった.<BR>5.本調査地のなかで最も大面積を有していた曽爾高原においても,出現種数は総出現種数の約79%であり,地域の種多様性維持には不十分であった.また,錨山や市章山のように小面積であっても,これらの草原にしか出現していない種があることも確認された.<BR>6.半自然草原の保全・復元にあたっては,可能な限り大面積を確保することが重要といえる.さらに,本調査地域全体の種多様性を維持するためには,8カ所すべての草原の保全・復元が必要と考えられた.
著者
石田 弘明 黒田 有寿茂 橋本 佳延 澤田 佳宏 江間 薫 服部 保
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.219-229, 2010-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
41
被引用文献数
5

近年、ニホンジカ(以下、シカ)による暖温帯夏緑二次林の食害が多くの地域で認められるようになってきた。本研究では、シカの採食による暖温帯夏緑二次林の種多様性・種組成の変化の特徴について検討するため、兵庫県南東部と大阪府北西部の暖温帯に分布する(1)シカの採食を全くあるいはほとんど受けていない夏緑二次林(以下、無被害林)と(2)シカの採食を強く受けている夏緑二次林(以下、被害林)に100m^2の調査区を合計50個設置して植生調査を行った。シカの採食可能な範囲にある低木層(高さ約2m)と草本層の植被率は被害林の方が無被害林よりも有意に低かった。両階層の落葉植物種数(/100m^2)もこれと同様の傾向を示した。低木層と草本層の落葉植物種数を生活形(高木、低木、草本、藤本)ごとに比較した結果、落葉植物の種多様性は生活形の違いに関わらずシカの採食による負の影響を受けること、また、低木層の種多様性は草本層のそれよりもその影響を受けやすいことが示唆された。低木層と草本層の種組成は森林タイプ間で大きく異なっており、多くの種が無被害林の識別種として区分された。しかし、被害林の識別種は両階層ともにシキミだけであった。以上のことから、シカの採食は暖温帯夏緑二次林の種組成を著しく単純化させると結論した。