著者
服部 保 栃本 大介 南山 典子 橋本 佳延 藤木 大介 石田 弘明
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.35-42, 2010-06-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
15
被引用文献数
12

1. 宮崎県東諸県郡綾町川中の照葉原生林において,シカの採食による顕著な被害が発生する以前の1988年当時の植生調査資料と激しい被害を受けている2009年現在の植生調査資料とを比較し,照葉原生林の階層構造,種多様性,種組成へのシカの採食の影響を調査した.  2. 階層構造についてはシカの採食によって,第2低木層と草本層の平均植被率がそれぞれ約1/2,1/5に大きく減少した.  3. 階層別の種多様性については全階層と第2低木層において平均照葉樹林構成種数がそれぞれ約3/4,1/2に大きく減少した.  4. 生活形別の種多様性については照葉高木,照葉低木,照葉つる植物,多年生草本において平均種数がそれぞれ2.4種,3.8種,1.2種,2.4種減少した.  5. 減少種数は25種,消失種数は35種,増加種数は6種,新入種数は33種となり種組成は変化した.  6. 他地域から報告されている不嗜好性植物と比較した結果,増加種のうちバリバリノキ,マンリョウ,マムシグサなどの12種が本調査地の不嗜好性植物と認められた.  7. 本調査地の照葉原生林の階層構造,種多様性,種組成はともにシカの採食によって大きな被害を受けており,照葉原生林の保全対策が望まれる.
著者
石田 弘明 戸井 可名子 武田 義明 服部 保
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-16, 2008-05-30
被引用文献数
2

兵庫県、大阪府、埼玉県の都市域に残存する孤立化した夏緑二次林において緑化・園芸樹木の逸出種のフロラを調査した。兵庫県では31地点、大阪府では19地点、埼玉県では16地点の夏緑二次林を調査した。逸出種の出現種数はいずれの地域についても30種を超えており、3地域をまとめたときの総出現種数は60種であった。逸出種の出現種数の70%以上は鳥被食散布型種であったことから、緑化・園芸樹木の夏緑二次林への侵入は主に果実食鳥の種子散布によっていると考えられた。逸出種の中には在来種が数多く含まれていたが、その種数は逸出外来種の2倍以上であった。逸出種の出現種数と夏緑二次林の樹林面積との関係を調べたところ、いずれの地域についてもやや強い正の相関が認められた。また、兵庫県の夏緑二次林で確認された逸出種の出現個体数と樹林面積の間にも同様の相関がみられた。しかし、逸出種の種組成に基づいて算出された各二次林のDCAサンプルスコアと樹林面積の間には、いずれの地域についても有意な相関はみられなかった。このことから、逸出種の種組成に対する樹林面積の影響は非常に小さいと考えられた。兵庫県の夏緑二次林でみられた鳥被食散布型の5種(シャリンバイ、トウネズミモチ、コブシ、トベラ、ヨウシュイボタノキ)について、樹林の林縁部から同種の植栽地までの最短距離を算出し、その距離と出現個体数および分布との関係を解析した結果、ほとんど全ての個体は植栽地から200m以内の樹林に分布しており、これらの種の夏緑二次林への侵入には植栽地からの距離が大きく関係していることが示唆された。これらの知見に基づいて、緑化・園芸樹木の夏緑二次林への侵入・定着を抑制するための方法を提案した。
著者
石田 弘明 黒田 有寿茂 岩切 康二
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.15-32, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
37

1. オオバヤドリギは樹上に生育する半寄生の常緑低木である.オオバヤドリギは比較的希少な種であるが,宮崎県立平和台公園の敷地内には本種の寄生を受けている樹木(以下,宿主木)が数多く分布している.また,これらの多くではシュートの枯死が認められる.このような樹木の衰退はオオバヤドリギの寄生に起因していると推察されるが,オオバヤドリギの寄生と樹木衰退の関係について詳しく検討した例はみられない.2. 本研究では,オオバヤドリギの宿主選択特性とその寄生が樹木に与える影響を明らかにするために,平和台公園においてオオバヤドリギの寄生状況と宿主木の衰退状況ならびにこれらの状況の経年変化を調査した.3. 今回の調査では27種,422本の宿主木が確認された.宿主木の樹高の範囲は1.4-27.0 mで,その96.9%は林冠木であった.種別の幹数はマテバシイが最も多く,総幹数の62.8%を占めていた.4. 本研究と既往研究の間でオオバヤドリギの宿主木を比較した結果,総種数および総科数はそれぞれ67種,29科であった.このことから,オオバヤドリギは少なくとも67種29科の樹木に寄生しうることが明らかとなった.5. マテバシイの寄生率は樹高と共に増加する傾向にあり,樹高が寄生率の高低に関係していることが示唆された.また,マテバシイとアラカシの寄生率は林冠木の方が下層木よりも有意に高く,林冠木がオオバヤドリギの寄生を受けやすいことが示唆された.6. 樹種に対するオオバヤドリギの選好性について検討した結果,マテバシイ,コナラ,スギ,ヒサカキはオオバヤドリギの寄生を受けやすく,逆にシイ類,クスノキ,ハゼノキ,コバンモチ,ナンキンハゼ,アカメガシワなどは寄生を受けにくいことが示唆された.7. 宿主木の衰退の程度を5段階で評価した(衰退度1-5;衰退度5は衰退の程度が最も大きい).その結果,全宿主木の86.7%は衰退度2以上であった.また,これらの中には衰退度5の宿主木も複数含まれており,その幹数は全宿主木の19.7%を占めていた.さらに,マテバシイの衰退度とオオバヤドリギの被覆面積との間には強い正の有意な相関が認められた.これらのことから,調査地における宿主木の衰退の主な要因はオオバヤドリギの寄生であると考えられた.8. 宿主木の中には追跡調査時に枯死が確認されたものが数多く含まれていた.このことから,オオバヤドリギの寄生は宿主木の枯死を引き起こすことが明らかとなった.9. 衰退度5の総幹数は83本で,このうちの89.2%はマテバシイであった.また,追跡調査時に枯死が認められた宿主木の85.4%はマテバシイであった.これらのことから,マテバシイはオオバヤドリギの寄生によって著しく衰退し,場合によっては枯死に至る種であると考えられた.10. 平和台公園にはマテバシイが優占する「放置状態の照葉二次林」がまとまった面積で分布しているので,このことが本公園におけるオオバヤドリギの繁茂に強く関係していると考えられた.
著者
服部 保 石田 弘明 小舘 誓治 南山 典子
出版者
日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.609-614, 2002-03-30
参考文献数
63
被引用文献数
10 10

九州本土以北に分布する照葉樹林構成種について, 都府県単位で分布, 種数生活形, 絶滅の可能性などを各種文献を用いて調査した。都府県単位の種数をみると鹿児島県がもっとも多く, 北上するにつれて種数は少なくなった。種数と最寒月の月平均気温値には正の相関が認められた。照葉樹林構成種の生活形は地上生多年生草本植物 (地生植物) がもっとも多く, 照葉樹は約25%であった。照葉樹林の種多様性 (種の豊かさ, speciesrichness) に果たしているシダ類, ラン科の役割は大きい。照葉樹林構成種の約30%が絶滅に瀕しており, 多年生草本類, 特にラン科の絶滅の可能性が高い。
著者
石田 弘明 黒田 有寿茂 橋本 佳延 澤田 佳宏 江間 薫 服部 保
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.219-229, 2010-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
41
被引用文献数
5

近年、ニホンジカ(以下、シカ)による暖温帯夏緑二次林の食害が多くの地域で認められるようになってきた。本研究では、シカの採食による暖温帯夏緑二次林の種多様性・種組成の変化の特徴について検討するため、兵庫県南東部と大阪府北西部の暖温帯に分布する(1)シカの採食を全くあるいはほとんど受けていない夏緑二次林(以下、無被害林)と(2)シカの採食を強く受けている夏緑二次林(以下、被害林)に100m^2の調査区を合計50個設置して植生調査を行った。シカの採食可能な範囲にある低木層(高さ約2m)と草本層の植被率は被害林の方が無被害林よりも有意に低かった。両階層の落葉植物種数(/100m^2)もこれと同様の傾向を示した。低木層と草本層の落葉植物種数を生活形(高木、低木、草本、藤本)ごとに比較した結果、落葉植物の種多様性は生活形の違いに関わらずシカの採食による負の影響を受けること、また、低木層の種多様性は草本層のそれよりもその影響を受けやすいことが示唆された。低木層と草本層の種組成は森林タイプ間で大きく異なっており、多くの種が無被害林の識別種として区分された。しかし、被害林の識別種は両階層ともにシキミだけであった。以上のことから、シカの採食は暖温帯夏緑二次林の種組成を著しく単純化させると結論した。
著者
石田 弘明
出版者
兵庫県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、ニホンジカの不嗜好性植物が生態系保全に果たす役割とその緑化材料としての有用性について検討すると共に、不嗜好性植物を用いた緑化手法の開発を行うことを目的とした。ニホンジカが高密度に生息する地域で不嗜好性植物の調査を行った結果、様々な種類の不嗜好性植物が緑化材料として有用であることがわかった。また、不嗜好性植物を用いた緑化試験の結果、種子・胞子の播種による緑化は非常に困難であるが、苗の移植による緑化は比較的容易であることが示唆された。
著者
石田 弘明 服部 保 小舘 誓治 黒田 有寿茂 澤田 佳宏 松村 俊和 藤木 大介
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-150, 2008-11-30
被引用文献数
2

シカが高密度に生息する地域の森林伐採跡地では、伐採後に再生した植生がシカの採食によって退行し、その結果伐採跡地が裸地化するという問題が発生している。一方、シカの不嗜好性植物の中には、イワヒメワラビのようにシカの強度採食下にある森林伐採跡地で大規模な群落を形成するものがある。このような不嗜好性植物群落は伐採跡地の土壌流亡や植物種多様性の減少を抑制している可能性がある。不嗜好性植物を伐採跡地の緑化に利用することができれば、シカの高密度生息地域における伐採跡地の土壌保全と種多様性保全を同時に進めることができるかもしれない。本研究では、イワヒメワラビによる緑化の有効性を評価するために、兵庫県淡路島の最南部に位置する諭鶴羽山系においてイワヒメワラビ群落の土壌保全効果と種多様性保全効果を調査した。イワヒメワラビ群落(伐採跡地および牧場跡地)、裸地群落(伐採跡地および牧場跡地)、二次林(ウバメガシ林、ヤブニッケイ林)のそれぞれに5m×5mの調査区を複数設置し(合計93区)、調査区ごとに植生調査と土壌調査を行った。その結果、イワヒメワラビ群落では二次林と同様の土壌が維持されていたが、裸地群落では明らかな土壌流亡が観察された。また、イワヒメワラビ群落では、イワヒメワラビの地下茎の作用によって表層土壌が柔らかくなる傾向がみられた。これらのことは、イワヒメワラビ群落の土壌保全効果が高いことを示している。伐採跡地のイワヒメワラビ群落では調査区あたりの森林生種数の割合が最も大きく、その種数は二次林の種数を上回っていた。また、種組成を群落間で比較したところ、伐採跡地のイワヒメワラビ群落には二次林の構成種の大半が出現していた。これらのことから、イワヒメワラビ群落の種多様性保全効果、特に森林生種の多様性を保全する効果は高いと考えられる。従って、イワヒメワラビを用いた伐採跡地の緑化は有効であるといえる。ただし、場合によっては柵工や枠工などの緑化補助工を併用する必要がある。また、伐採跡地の森林再生を図るためにはシカの個体数管理や防鹿柵の設置が必要である。
著者
石田 弘明 服部 保 黒田 有寿茂 橋本 佳延 岩切 康二
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.49-72, 2012
被引用文献数
1

1. シカの生息密度(以下,シカ密度)が異なる屋久島低地部の複数の場所において照葉二次林と照葉原生林の植生調査を行い,シカ密度の低い照葉二次林(以下,低シカ密度二次林),シカ密度の高い照葉二次林(以下,高シカ密度二次林),シカ密度の低い照葉原生林(以下,低シカ密度原生林)の階層構造,種組成,種多様性を比較した.<BR> 2. 第2低木層(高さの上限は2m前後)の植被率は高シカ密度二次林の方が低シカ密度二次林よりも有意に低く,シカの強い採食圧が第2低木層の植被率を大きく低下させることが明らかとなった.また,二次林の全調査林分を対象に第2低木層の植被率とシカ密度の関係を解析したところ,両者の間にはやや強い負の有意な相関が認められた. <BR>3. DCAを行った結果,全層の種組成は低シカ密度二次林と高シカ密度二次林の間で大きく異なっていることがわかった.特に下層(第2低木層以下の階層)ではこの差が顕著であり,多くの種が低シカ密度二次林に偏在する傾向が認められた.これらのことから,シカの強い採食圧は屋久島低地部の照葉二次林の種組成を著しく単純化させると考えられた.ただし,ホソバカナワラビやカツモウイノデなどは高シカ密度二次林に偏在する傾向にあり,シカの不嗜好性が高いことが示唆された. <BR>4. 高シカ密度二次林の下層の種多様性(100m^2あたりの照葉樹林構成種数)は低シカ密度二次林のそれよりも有意に低く,前者は後者の50%未満であった.また,このような傾向は高木,低木,藤本のいずれの生活形についても認められた.<BR> 5. 二次林の種多様性とシカ密度の関係を解析した結果,全層,下層,第2低木層では両変数の間にやや強い負の有意な相関が認められた. <BR>6. 低シカ密度二次林と低シカ密度原生林を比較したところ,前者は後者よりも種組成が単純で種多様性(特に草本,地生シダ,着生植物の種多様性)も非常に低かった.この結果と上述の結果から,屋久島低地部の照葉二次林の自然性は照葉原生林のそれと比べて格段に低いこと,また,シカの強い採食圧はその自然性をさらに大きく低下させることがわかった. <BR>7. 屋久島低地部の照葉二次林の保全とその自然性の向上を図るためには,シカの個体数抑制や防鹿柵の設置などが必要である.また,照葉二次林の自然性を大きく向上させるためには種子供給源である照葉原生林の保全が不可欠であり,その対策の実施が急務であると考えられた.
著者
宮本 岳史 石田 弘明 松尾 雅樹
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集. C編 (ISSN:03875024)
巻号頁・発行日
vol.64, no.626, pp.3928-3935, 1998-10-25
参考文献数
10
被引用文献数
4

We have developed the new simulation program which can deal with the large displacement, as the railway vehicle derails or overturns and wheels leave from rails. The dynamic behavior of railway vehicles running on track vibrated due to earthquake is analyzed, using this numerical simulation. The tentative running safety limits are proposed, that show the critical amplitude of track vibration at each frequency against the derailment. Moreover, the influence of vertical track vibration besides lateral one on the running safety limits is investigated. As a result, it is found that the vehicle running safety against earthquake has strong relation to the lateral track vibration, although the vertical vibration promotes the jumping of wheels. In the low frequency area, the rolling of carbody is excited gradually, and then the vehicle overturns, when it suffers the large amplitude seismic motion. In the high frequency area, the wheel flange comes into collision with rail at the first or second vibration, and the wheel jumps and leaves from rail. In respect of the critical track acceleration, railway vehicles have a tendency to be able to stand the earthquake with high frequency vibration more than 1.4 Hz.
著者
石田 弘明
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会誌 (ISSN:09120289)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.337-340, 2009-03-05 (Released:2010-11-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
黒田 有寿茂 石田 弘明 服部 保
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.159-167, 2011-11-30

水湿地に生育する絶滅危惧植物ツクシガヤ(イネ科)の保全に向け、その種子発芽特性と種子保存方法を明らかにするために数種の発芽試験を行った。段階温度法による試験の結果、本種は散布された段階では休眠状態にあり、休眠解除には2〜3週間程度の冷湿処理が必要であること、高温により二次休眠が誘導される性質をもつこと、発芽可能な温度域の下限は20℃付近にあることが示唆された。これらの結果から、本種の種子は秋季に散布された後、冬季に休眠解除され、春季に発芽していると考えられた。前処理の水分条件を変えた試験の結果、数ヶ月の冠水は種子の発芽能力に負の影響を及ぼさないこと、発芽時の水位条件を変えた試験の結果、数cmの冠水は種子の発芽を妨げないことがわかった。これらの水分・水位条件に対する性質は、頻繁に冠水する水湿地で定着するための有効な特性と考えられた。保存条件を変えた試験の結果、本種の種子の大部分は、遮光アルミパックへの抜気封入処理により、少なくとも3年は発芽能力を保持することが確認された。本種の保全に向けては、現存個体群の保護、生育立地の維持と共に、抜気封入処理による種子保存を補完的に進めていくことが有効といえる。