著者
松村 俊和 澤田 佳宏 橋本 佳延
出版者
甲南女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

歴史の長いゴルフ場の植生を調査した結果,全国版・地域版のレッドデータブックに掲載の絶滅危惧種および多くの草原生植物の生育を確認した.つまり,これらの場所は草原生植物の逃避場所や種子供給源として機能する可能性がある.管理方法と種多様性との関係では,草刈り頻度および草刈高が種多様性に大きく影響を与えており,草刈り頻度が低く,草刈高が高い地点においては種多様性が高く,逆の地点では種多様性が低かった.また,ゴルフ場関係者の意向を把握する質問紙調査からは,ゴルファーの多くは野草の生育に対して好意的であることが示された.
著者
服部 保 栃本 大介 南山 典子 橋本 佳延 藤木 大介 石田 弘明
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.35-42, 2010-06-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
15
被引用文献数
12

1. 宮崎県東諸県郡綾町川中の照葉原生林において,シカの採食による顕著な被害が発生する以前の1988年当時の植生調査資料と激しい被害を受けている2009年現在の植生調査資料とを比較し,照葉原生林の階層構造,種多様性,種組成へのシカの採食の影響を調査した.  2. 階層構造についてはシカの採食によって,第2低木層と草本層の平均植被率がそれぞれ約1/2,1/5に大きく減少した.  3. 階層別の種多様性については全階層と第2低木層において平均照葉樹林構成種数がそれぞれ約3/4,1/2に大きく減少した.  4. 生活形別の種多様性については照葉高木,照葉低木,照葉つる植物,多年生草本において平均種数がそれぞれ2.4種,3.8種,1.2種,2.4種減少した.  5. 減少種数は25種,消失種数は35種,増加種数は6種,新入種数は33種となり種組成は変化した.  6. 他地域から報告されている不嗜好性植物と比較した結果,増加種のうちバリバリノキ,マンリョウ,マムシグサなどの12種が本調査地の不嗜好性植物と認められた.  7. 本調査地の照葉原生林の階層構造,種多様性,種組成はともにシカの採食によって大きな被害を受けており,照葉原生林の保全対策が望まれる.
著者
橋本 佳延 服部 保 岩切 康二 田村 和也 黒田 有寿茂 澤田 佳宏
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.151-160, 2008
参考文献数
40
被引用文献数
4

タケ類天狗巣病は、麦角菌科の一種Aciculosporium take Miyakeの感染によって生じるタケ類を枯死に至らしめる病気で、日本国内では野外においてマダケおよびモウソウチクを含む6属19種8変種8品種2園芸品種のタケ類、ササ類で感染することが確認されており、近年では国内各地で本病による竹林の枯損被害が報告されている。本研究は、兵庫県以西の西日本一帯を中心とした地域において、マダケ群落およびモウソウチク群落のタケ類天狗巣病による枯損の現状を明らかにし、天狗巣病の影響による今後の竹林の動態を考察することを目的とした。西日本の17県および新潟県、宮城県、静岡県の3県において、本病によるマダケ群落およびモウソウチク群落の枯損状況を調査した結果、西日本におけるマダケ群落における本病発症率は全体では93.2%、各県では75%以上と高い水準であったほか、本病による重度枯損林分は10県で確認された。一方、モウソウチク群落における本病発症率は、西日本全体では3.9%、発症率10%未満の県が15県(うち6県が0%)と極めて低い水準で、重度枯損林分も島根県で1ヵ所確認されたのみと被害の程度は低かったが、参考調査地の静岡県においては発症率が50%と高かった。これらのことから、本病は、(1)西日本各地でマダケ群落を枯損に至らしめる可能性のある病気であり、ほとんどのマダケ群落で発症していること、(2)西日本ではモウソウチク群落を枯死させることはまれな病気であり発症率も低いが、局所的に発症率の高い地域もみられることが明らかとなった。また、今後はマダケ群落の発症林分における病徴が進行し国内の広い範囲でマダケ群落の枯損林分が増加すると予想されたが、モウソウチク群落については発症林分や枯死林分の事例が少ないことから今後の動向についての予測は難しくモニタリングにより明らかにする必要があると考えられた。
著者
橋本 佳延 中村 愛貴 武田 義明
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.103-111, 2007-11-30
被引用文献数
4

中国原産のトウネズミモチは近年、日本において都市の空地、都市林、里山、都市河川等に逸出、急速に分布拡大していることが確認されており、生育と繁殖力が旺盛で早期に優占群落を形成することから在来の生態系や生物多様性に多大な影響を与える侵略的外来種となることが危惧されている。本研究では都市河川に侵入した外来樹木トウネズミモチの個体群が洪水によって受ける分布拡大への影響を明らかにするために、平成16年10月に大規模な洪水が発生した兵庫県南西部を流れる猪名川低水敷の5.3haの範囲において、その洪水直後と洪水翌年にトウネズミモチ個体群の調査を行い、結果を洪水前に行われた既存研究の結果と比較した。調査ではトウネズミモチの個体数、各個体のサイズ、結実の有無、倒伏状況を記録したほか、空中写真撮影を行い調査地における裸地面積および植被部分の面積を測定した。結果、洪水によって陸域に占める裸地の面積は洪水前に比べ871%拡大し、個体群の主要な構造を形成するサイズ1m以上の個体の1/3が消失した一方で、実生・稚樹個体数は洪水直後の24個体から洪水翌年には49個体に増加した。また洪水によってサイズ1m以上の個体の1/3が倒伏し、洪水後の個体群の平均樹高は洪水前の3.3mから2.2mに低下した。個体群に占める結実個体の割合は洪水翌年が24.5%となり、洪水前の46.8%の約1/2に低下した。洪水翌年における立木個体に占める結実個体の割合は37.5%であったのに対し倒伏個体に占める結実個体の割合は4.5%であった。これらのことから、河川敷のトウネズミモチ個体群は洪水による個体数の減少によってその規模が縮小するとともに、個体の倒伏に伴い結実状況は悪化する一方で、洪水によって形成された裸地に新規個体が参入し、残存個体の繁殖力も立木個体を中心として翌年より緩やかに回復するものと考えられ、洪水によるトウネズミモチ個体群の分布拡大を抑制する効果は軽微であることが示唆された。
著者
橋本 佳延 石丸 京子 黒田 有寿茂 増永 滋生 横田 潤一郎
出版者
社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究(オンライン論文集) (ISSN:1883261X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.69-76, 2012 (Released:2012-08-10)
参考文献数
63
被引用文献数
1

Miscanthus sinensis grasslands can be dominated by dwarf bamboo such as Pleioblastus chino var. viridis after abandonment, leading to decrease diversity in the communities. We investigated the effect of mowing on recovery of grassland species richness and cover, and overall species composition over three years. Two treatments were tested: mowing above ground vegetation every autumn and mowing above ground vegetation every autumn with selective cutting of P. chino var. viridis in the first summer. The number of grassland plant species increased slightly under both treatments, although M. sinensis did not return as the dominant species in either treatment after the restoration. The addition of selective cutting of P. chino var. viridis resulted in greater cover of M. sinensis and higher richness and cover of grassland species. These results show that selective cutting of P. chino var. viridis in summer enhance the effect of management for restoring grassland species diversity in long-abandoned semi-natural grassland communities.
著者
石田 弘明 黒田 有寿茂 橋本 佳延 澤田 佳宏 江間 薫 服部 保
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.219-229, 2010-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
41
被引用文献数
5

近年、ニホンジカ(以下、シカ)による暖温帯夏緑二次林の食害が多くの地域で認められるようになってきた。本研究では、シカの採食による暖温帯夏緑二次林の種多様性・種組成の変化の特徴について検討するため、兵庫県南東部と大阪府北西部の暖温帯に分布する(1)シカの採食を全くあるいはほとんど受けていない夏緑二次林(以下、無被害林)と(2)シカの採食を強く受けている夏緑二次林(以下、被害林)に100m^2の調査区を合計50個設置して植生調査を行った。シカの採食可能な範囲にある低木層(高さ約2m)と草本層の植被率は被害林の方が無被害林よりも有意に低かった。両階層の落葉植物種数(/100m^2)もこれと同様の傾向を示した。低木層と草本層の落葉植物種数を生活形(高木、低木、草本、藤本)ごとに比較した結果、落葉植物の種多様性は生活形の違いに関わらずシカの採食による負の影響を受けること、また、低木層の種多様性は草本層のそれよりもその影響を受けやすいことが示唆された。低木層と草本層の種組成は森林タイプ間で大きく異なっており、多くの種が無被害林の識別種として区分された。しかし、被害林の識別種は両階層ともにシキミだけであった。以上のことから、シカの採食は暖温帯夏緑二次林の種組成を著しく単純化させると結論した。
著者
橋本 佳延 栃本 大介 黒田 有寿茂 田村 和也 福井 聡
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.395-399, 2013 (Released:2014-12-11)
参考文献数
25
被引用文献数
1

良好に管理されているススキ草原の種多様性がシカの採食によって受ける影響を明らかにするために,シカ高密度化が進む兵庫県神河町の砥峰高原ススキ草原にて防鹿柵を設置し,柵内外の出現種の出現頻度・平均被度を調査した。結果,ススキ以外の草本種種数は防鹿柵区の方が約4 種多かった(p<0.05)。ススキ以外の草本植物被度は防鹿柵区で4.0 ポイント高く(p<0.05),広葉草本被度は防鹿柵区の方が4.9 ポイント高かった(p<0.001)。防鹿柵区での平均被度が有意に高い種(種群A)は2 種,防鹿柵のみに出現した種(種群B)は8 種確認された。防鹿柵と無柵区との間に生じる広葉草本の被度の差違への寄与率は種群A が27%,種群B が11 %だった。このことから,シカの採食はススキ草原の種多様性に対して負の影響をもたらし,その影響は特定の種に対して顕著に及ぶ可能性があると考えられた。シカの高密度生息地域では,管理により良好に維持されているススキ草原であっても,シカの採食により植物の種多様性が低下する恐れがある事が示唆された。
著者
石田 弘明 服部 保 黒田 有寿茂 橋本 佳延 岩切 康二
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.49-72, 2012
被引用文献数
1

1. シカの生息密度(以下,シカ密度)が異なる屋久島低地部の複数の場所において照葉二次林と照葉原生林の植生調査を行い,シカ密度の低い照葉二次林(以下,低シカ密度二次林),シカ密度の高い照葉二次林(以下,高シカ密度二次林),シカ密度の低い照葉原生林(以下,低シカ密度原生林)の階層構造,種組成,種多様性を比較した.<BR> 2. 第2低木層(高さの上限は2m前後)の植被率は高シカ密度二次林の方が低シカ密度二次林よりも有意に低く,シカの強い採食圧が第2低木層の植被率を大きく低下させることが明らかとなった.また,二次林の全調査林分を対象に第2低木層の植被率とシカ密度の関係を解析したところ,両者の間にはやや強い負の有意な相関が認められた. <BR>3. DCAを行った結果,全層の種組成は低シカ密度二次林と高シカ密度二次林の間で大きく異なっていることがわかった.特に下層(第2低木層以下の階層)ではこの差が顕著であり,多くの種が低シカ密度二次林に偏在する傾向が認められた.これらのことから,シカの強い採食圧は屋久島低地部の照葉二次林の種組成を著しく単純化させると考えられた.ただし,ホソバカナワラビやカツモウイノデなどは高シカ密度二次林に偏在する傾向にあり,シカの不嗜好性が高いことが示唆された. <BR>4. 高シカ密度二次林の下層の種多様性(100m^2あたりの照葉樹林構成種数)は低シカ密度二次林のそれよりも有意に低く,前者は後者の50%未満であった.また,このような傾向は高木,低木,藤本のいずれの生活形についても認められた.<BR> 5. 二次林の種多様性とシカ密度の関係を解析した結果,全層,下層,第2低木層では両変数の間にやや強い負の有意な相関が認められた. <BR>6. 低シカ密度二次林と低シカ密度原生林を比較したところ,前者は後者よりも種組成が単純で種多様性(特に草本,地生シダ,着生植物の種多様性)も非常に低かった.この結果と上述の結果から,屋久島低地部の照葉二次林の自然性は照葉原生林のそれと比べて格段に低いこと,また,シカの強い採食圧はその自然性をさらに大きく低下させることがわかった. <BR>7. 屋久島低地部の照葉二次林の保全とその自然性の向上を図るためには,シカの個体数抑制や防鹿柵の設置などが必要である.また,照葉二次林の自然性を大きく向上させるためには種子供給源である照葉原生林の保全が不可欠であり,その対策の実施が急務であると考えられた.