著者
池田 裕明
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.716-722, 2019

<p>近年のがん免疫療法の発展は目覚ましく,免疫チェックポイント阻害療法に続いてT細胞輸注療法が実用化の段階に入り始めている。B細胞抗原であるCD19に対するキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor, CAR)遺伝子導入T細胞であるCD19-CAR-T細胞の輸注療法が2017年に急性リンパ球性白血病,びまん性大細胞性リンパ腫の治療法として立て続けに米国FDAに承認され,我が国においても本年2月にこれらの疾患について承認が了承され,近く正式承認されることになった。CAR-T療法に続く腫瘍特異的T細胞の輸注療法として腫瘍特異的T細胞レセプター(T cell receptor, TCR)遺伝子を導入したリンパ球の輸注療法が大きく期待されている。本稿ではTCR遺伝子導入リンパ球輸注療法の開発の現状と課題について概観し,我々の取り組みについても紹介する。</p>
著者
池田 裕明 西村 孝司 近藤 哲 宮本 正樹
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

【ヒト検体を用いた研究】食道癌患者の癌細胞HLA class I発現は癌組織CD8^+T細胞浸潤と相関し、癌組織CD8^+T細胞浸潤は良好な患者予後と相関することを見出した。即ち、CD8^+T細胞が食道癌の免疫監視に重要であり、HLA class I発現低下は食道癌の免疫監視回避機序の一つであると考えられた(論文投稿中)。157例の肺癌において、CD4^+、CD8^+両T細胞が浸潤する症例は良好な予後を示した。(Int J Oncol,2006)。CEAに対する抗体とT細胞レセプターのキメラ分子遺伝子を導入したT細胞を作成し、自家大腸癌に対する有効な抗腫瘍効果を示した(Cancer Sci,2006)。癌精巣抗原NY-ESO-1のCD4T細胞認識エピトープとして多種類のMHC class II分子に提示されるプロミスカスなペプチドを同定した(Cancer Sci.,2007)。骨肉腫腫瘍抗原としてCLUAP1を同定した(lnt J Oncol,2007)。【マウスモデルを用いた研究】抗原提示細胞とI型ヘルパーT細胞の相互作用の抗腫瘍効果における重要性(Cancer Res,2006)、トル様レセプターリガンドCpGを用いた腫瘍ワクチンにおけるI型インターフェロンの重要性(Int Immunol,2006)を見出した。腫瘍進展と共に腫瘍内制御性T細胞(Treg)が増加し、同時に腫瘍特異的T細胞移入療法の効果が低下した。T細胞共活性化分子GITRを刺激することにより腫瘍内Tregが減少し、T細胞療法が増強した(基盤的癌免疫研究会2007東京、CRI symposium 2007NY、日本癌学会2007横浜、日本免疫学会2007東京)。GITRを始めとする共活性化分子を刺激する方法が腫瘍の免疫監視エスケープ機序を克服する有望な技術となることが示唆された。