著者
鄒 兆南 沖 真弥
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-9, 2023 (Released:2023-06-03)
参考文献数
13

真核生物の遺伝子発現は、ゲノムに対する転写因子やヒストンの結合パターンによって時空間的に精密に制御されている。この発現制御機構を理解するため、筆者らはゲノム上のタンパク結合を調べるChIP-seqデータを網羅的に解析し、転写因子の結合とヒストン修飾をゲノムワイドに閲覧できるChIP-Atlas(https://chip-atlas.org)を開発している。最近では、ATAC-seqとBisulfite-seqデータを新たに統合し、転写調節領域のエピゲノム状態をより多面的に捉えられるようになった。本稿では、ChIP-Atlasを概観した後、創薬医学、再生医学、遺伝性疾患などの研究分野における実際の応用例を中心に紹介する。このように、ChIP-Atlasのナビゲーションに従い遺伝子転写制御ランドスケープを「旅する」というイメージを膨らませることで、より多くの読者の方がChIP-Atlasを活用した研究成果を生み出し、遺伝子の発現制御機構の解明や生命科学の発展に貢献できればと思う。
著者
沖 真弥 大川 恭行
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.348-350, 2022 (Released:2023-01-25)
参考文献数
6

我々の開発した光単離化学(Photo-Isolation Chemistry: PIC)という技術は,関心領域(ROI)の高深度トランスクリプトーム情報を高解像度の光照射によって抽出できる.大小さまざまなROIに対応できるため,マウス脳の領野,マウス胚の微小細胞集団や,細胞内の非膜型オルガネラの高深度トランスクリプトーム解析に活用できる.
著者
沖 真弥
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

マウスのES細胞を浮遊培養すると、胚様体という凝集塊を形成する。その後、三胚葉を形成し、様々な組織を形成するが、極めて無秩序に分化するため、人為的に分化を制御することは難しい。そこで胚様体の性質のばらつきを調べるために、in situ hybridization法で各種分化マーカの染色をおこなった。その結果、同一シャーレ内の胚様体間だけでなく、単一胚様体内の細胞間でも性質のばらつきが非常に大きいことが明らかになった。特に中胚葉マーカは、day 8の胚様体でも約半数しか発現しておらず、さらに単一胚様体内においても発現細胞の分布はまばらであり、マウス胚のようにクラスター化されていなかった。また、原条前方マーカの発現も同様のばらつきを示したので、中胚葉の運命決定も無秩序であることが示唆された。そこで中胚葉の運命決定を均一なものにするために、FGFシグナルに着目した。マウス初期発生において、中胚葉の運命決定はFGFシグナルの濃度に依存する。したがって化学合成阻害剤でFGFシグナルのレベルを均一化できるのではないかと考えた。まず阻害剤の選別のために、マウス胚を各種FGFシグナル阻害剤で全胚培養し、FGFシグナル標的遺伝子の発現を調べたところ、PD173074という阻害剤が最も特異的かつ効果的であった。また、この阻害剤で受精後6-7日のマウス胚を培養したところ、Fgf8やその受容体Fgfr1の欠損胚と同様、沿軸中胚葉や中軸中胚葉マーカの発現異常を示した。特に沿軸中胚葉マーカの発現は阻害剤の濃度依存的に低下した。以上の結果より、胚様体のFGFシグナルをコントロールするための阻害剤として、PD173074は最も有力な候補であり、マウス胚においてはFGFシグナルのレベルを時期特異的にコントロールできることが明らかになった。
著者
沖 真弥 目野 主税
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究ではマウス初期発生において極めて重要な役割を演じるNodalシグナルの直接的な標的遺伝子を同定し、エピブラストの多分化能維持機構、神経上皮への分化抑制、または原条形成に関わる遺伝子を特定した。またChIP-seqデータを簡易的に利活用できるためのソフトウェア(SraTailor)とデータベース(ChIP-Atlas)を作成し、ウェブを通じて公開した。