著者
青景 遵之 中川 慧 河原 裕美 波之平 晃一郎 土田 和可子 藤村 昌彦 田中 英一郎 弓削 類
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2127-A3P2127, 2009

【目的】重度歩行障害患者の早期歩行Ex.は,設営の煩雑さや多くのマンパワーを必要とすることから,臨床現場における歩行支援ロボットの必要性が高まっている.現在,研究されている歩行支援ロボットは,LokomatやGait trainerといったトレッドミル上での歩行支援ロボットが多く,モビルスーツ型自立歩行支援ロボットとしての研究はほとんど行われていない.モビルスーツ型自立歩行支援ロボットは,トレッドミル上の制限がなく,様々な環境での歩行Ex.が行えることから,歩行障害患者のADLや活動範囲の向上も期待することができる.そのため,現在開発中のモビルスーツ型自立歩行支援ロボット使用時の歩行と通常歩行の健常者における脳活動を比較し,脳機能の視点から歩行Ex.の場面に利用できる可能性を検討することを目的とした.<BR>【方法】対象は,同意の得られた筋骨格系・神経系に障害のない健常男性8名とした.近赤外分光法(near infrared spectroscopy;以下,NIRS)を用い,通常歩行とロボット装着歩行の脳酸素動態を比較した.課題は,安静30秒,歩行40秒,安静30秒のブロックデザインとし,各条件下で5回測定した.歩行速度は,対象者ごとに各条件下で最も快適な速度とした.また,ロボット装着歩行は,非免荷状態での歩行(full-weight robot gait;以下,FW)の他に,転倒と身体への荷重負荷を考慮し,全体重の25%の免荷状態での歩行(partial-weight robot gait;以下,PW)も測定した.NIRSのデータは, 0-10秒と90-100秒の平均を結んだ直線をベースラインとし,前頭前野や運動前野,補足運動野,感覚運動野の領域に分けて加算平均した.また,領域間の比較には,Suzukiらの方法を参考にeffect sizeを使用した. なお本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った.<BR>【結果】歩行によって運動に関連する各領域のoxy-Hbが増加し,その増加量は通常歩行,PW,FWの順に大きかった.領域別では,運動前野での増加が最も大きかった.ロボット装着歩行は,PWでは通常歩行に類似したoxy-Hb変化パターンを示していたが,FWでは,前頭前野や補足運動野などの領域でも大きな変化を示した. <BR>【考察】ロボット装着歩行は,歩行に関与する脳領域,中でも運動前野に大きな活動を起こした.運動前野は,運動学習時に重要な役割を担っているといわれており,ロボット装着歩行が歩行動作の学習に役立つツールとなる可能性が示された.特に,免荷状態のロボット歩行では,通常歩行に近い脳活動パターンを示し,運動学習に有効なツールであると考えられた.非免荷状態のロボット歩行でも,同様な効果が期待できるが,現時点では,通常歩行ではあまり必要のない前頭前野の大きな活動なども増加する結果となった.今後,様々な観点からモビルスーツ型自立歩行支援ロボットとしての実用化に向けて更なる開発と研究を行っていきたい.
著者
松居 和寛 井上 達郎 戸口田 武史 村上 まゆ 土田 和可子 波之平 晃一郎 河原 裕美 藤村 昌彦 弓削 類
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0014-A0014, 2008

【目的】<BR>近年,笑いが身体に与える影響についての報告がみられる.その多くは,免疫などにおける身体的影響,感情プロフィール検査(Profile of Mood States,以下POMS)などの気分尺度を用いて精神的影響について検討されている.しかし,笑いを定量化した論文は極めて少ない.そこで,筋電図(以下EMG),リアルタイム笑顔測定ソフト(OMRON,以下ソフトウェア)を用いて笑いを定量化し,分泌型免疫グロブリン量(SIgA),POMSによる気分尺度を比較した.さらに,EMGとソフトウェア間の相関についても検討を行った.<BR>【方法】<BR>本研究に同意の得られた男女20名(男性10名,女性10名,平均年齢22.4±0.5)を対象とした.EMGによる定量群10名(男性5名,女性5名),ソフトウェアによる定量群(男性5名,女性5名)の二群に分けた.1施行につきEMG群2名,ソフトウェア群2名の計4名で実験を行った.コントロール群として,風景スライド視聴による安静の後、ドキュメンタリービデオを視聴させた.ドキュメンタリービデオの前後で,唾液採取,POMSの記入を行ってもらった.ビデオ視聴後は,ビデオに対する反応をVASを用いて評価した.介入群として,ドキュメンタリービデオを笑いのビデオに替えて視聴させた.以上の施行に関しては,コントロール,介入の順番をランダムとした.ビデオは,すべて8分19秒で統一した.筋電図の電極の貼付位置は,頬骨突起と口角を結ぶ線の中央とした.唾液の採取は,サリベットを用いてサンプリングし,-70°C~-80°Cで冷凍保存した後,ELISA法にて計測した.筋電図による定量は、ビデオ視聴後の積分筋電図をビデオ視聴前のもので除し求めた。さらに、介入群で求めた値を,コントロール群の値で除すことで笑いの増加量とした.ソフトウェアによる定量化は,安静時の値からの増加量を笑いの量とした.<BR>【結果】<BR>EMG増加量の平均値は1.7±0.8であった.ソフトウェアの増加量の平均値は38(%)であった.笑いのビデオの面白さに関するVASの平均値は6.3±2.1であった.POMSにおいて,「活気」の値は,笑いのビデオ視聴後に増加傾向を,それ以外の項目に関しては減少傾向を示した.<BR>【考察】<BR>これまでに筋電図を用いて笑いを測定する報告はみられる.本研究では,ソフトウェアと筋電図におけるデータを比較検討することで,笑いの定量化が出来る可能性が示唆された.
著者
中川 慧 大鶴 直史 猪村 剛史 橋詰 顕 栗栖 薫 中石 真一路 河原 裕美 弓削 類
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】臨床現場においても,難聴者とのコミュニケーションに難渋することが多い。高齢による難聴の多くは感音性難聴といわれており,内耳から脳への伝達経路での障害が原因と考えられている。一般的に感音性難聴を評価する際には,音の聞き分けができるかどうかの主観的評価が用いられているが,加えて大脳皮質応答を客観的に評価することも重要と考えられる。そこで本研究では,聞き取りやすさの条件を変更することで音の聞き分けに対する大脳皮質応答が変化するのかを検討し,感音性難聴を客観的に評価するシステムを確立することを目的とした。【方法】実験に先立ち,難聴者9名を対象に57-S語表(日本聴覚医学会)を用いた50音の聞き取り検査を行い,聞き取りの難しい音・簡単な音を調査した。結果,聞き取りの正答率が最も高い音は『ル』,最も誤答が多かった組み合わせは『ミ』と『ニ』であったため,これらの音を用いて課題を作成した。課題は,約20%の確率で逸脱音を呈示するoddball課題とし,難課題(標準音『ニ』,逸脱音『ミ』)と易課題(標準音『ル』,逸脱音『ミ』)の2課題を設定した。計測は,健聴者10名を対象に,シールドルーム内にて,被験者前方3mの位置のスピーカーから700ms間隔で呈示される音(70dB)を聴いた際の聴覚誘発脳磁界を記録した。スピーカーには,音の指向性および高音域の音圧を高め,聞き手が聞き取りすくなる構造を持つ『COMUOON<sup>Ⓡ</sup>』(ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社)および同一の素材で作られた標準的なスピーカーを使用した。なお計測中,被験者には音に注意を向けないように指示した。各条件500回程度加算し,逸脱音と標準音の差分波形(ミスマッチ反応:mismatch field)をもとに,等価電流双極子推定法を用いて左右聴覚領域それぞれの活動源を推定し,各条件での電流モーメントを比較した。【結果】音の呈示に伴い,刺激後100msをピークとする活動源が両側上側頭回付近に推定された。逸脱音から標準音の応答の差を求めると,易課題では,スピーカーの種類に関わらず100ms(N1m)と220ms付近(P2m)にピークを持つ波形が記録された。一方,難課題ではN1mの振幅が小さく,P2mの潜時が平均288msと遅かったが,『COMUOON<sup>Ⓡ</sup>』を用いることでP2mの潜時が平均259msと短縮した。【結論】感音性難聴の客観的評価システムの導入を目的に聞き分けの難しい言語音を用いた課題を作成し,聴覚誘発脳磁界を指標としてその有用性を検証した。その結果,話し手側から聞き取りやすい音を伝える高精度のスピーカーを用いると,音の認識に関与すると考えられるP2mの出現潜時が短縮した。これは本手法が感音性難聴の客観的評価に対する一つとして有用である可能性を示している。今後は,難聴者を対象に計測を行い,評価システムの確立を目指したい。
著者
土田 和可子 波之平 晃一郎 梶村 政司 森田 哲司 政森 敦宏 小川 健太郎 児玉 直哉 山本 真士 松井 和寛 河原 裕美 藤村 昌彦 弓削 類
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E0763, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】 最近,クリニカルパスの導入に伴い,入院日数が短縮され,病棟での自主練習や自宅でのホームエクササイズの重要性が高まっている.しかし,対象者は高齢者であることが多く,運動内容や負荷量・回数などを一度で覚えることは容易ではない.そのため,本研究では,説明パンフレットを患者個別に対して容易に作成できるソフトウェア(以下ソフトウェア)を開発し,理学療法の場面に活かしていける要素を検討した.【方法】 本研究に同意の得られた病院勤務の理学療法士20名(8施設,女性8名,男性12名,平均年齢27.3±5.75)を対象とし,ソフトウェア使用群10名,パンフレット使用群10名の2群に分けた.対象の2群に対し,患者数,ホームエクササイズ指導の現状と介入効果について調査研究を行った.また,ソフトウェアもしくは6種類の運動パンフレットを配布し,使用方法を説明した.この説明の2週間後,4週間後,6週間後に,質問紙にて調査を行った.調査項目は,ホームエクササイズ指導回数,パンフレット作成回数,パンフレット配布の重要性,等とし比較検討した.統計処理は,T検定を行い,有意水準を5%とした.【結果】 ホームエクササイズの指導状況は,指導回数平均8.7回/月(3.9回/2w),指導時間7.9分/回,また全体の60%が既存のパンフレットがあると答えた.パンフレットの作成・使用回数は1.08回/2w,パンフレットの重要性は4.9(7段階評価),ホームエクササイズの重要性は5.1(7段階評価)であった.介入前のソフトウェア群とパンフレット群においては,各項目において有意差は認められなかった.ソフトウェア群,パンフレット群ともに介入後において運動パンフレット作成回数が介入前より増加した.作成回数の介入前後の変化量は,パンフレット群に比べソフトウェア群の方が有意に高かった.【考察】 パンフレットを配布することは,患者が治療の目的,運動回数,実施期間等を理解する上で必要である.アンケート調査によりホームエクササイズの指導は,2週間に平均3.9回行っていた.しかし,パンフレットは,その27.4%しか用いられてなかった.アンケートによると,配布しない理由として,「忙しい」「作成に時間がかかる」との回答があった.本研究では、ソフトウェアを導入することによって,パンフレット作成回数が増加した.これは,セラピストにとって,業務負担が少なく,実用的なツールとなったためと考えられる.今後は、個別対応したパンフレットの患者への効果も明らかにしてく必要がある.
著者
福利 崇 渋谷 佳樹 中川 慧 青景 遵之 橋詰 顕 栗栖 薫 河原 裕美 大鶴 直史 弓削 類
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100979, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】我々は,日常生活の中で無意識に他者の姿や行動を観察していることが多い.他者が行っている動作の模倣やイメージをする際は,他者の視点に立って,姿や動作の特徴を注意深く捉える必要があるが,これはリハビリテーションの臨床現場においても共通している.神経心理学において,他者の視点に立つことを意味する視点取得(perspective-taking)という概念があり,この概念に関して様々な観点から研究されている.脳イメージング研究では,fMRIを用いて脳活動部位を同定した研究は数多くみられるものの,時間的な側面から検討した研究は少ない.そこで本研究では,時間・空間分解能力に優れた脳磁図を用いて,部位と時間の両側面から,視点取得における脳神経活動を検討した.【方法】対象は,視覚に異常のない右利きの健常者13 名とした.スクリーン上にランダムに呈示される,左右どちらか一側の上肢または下肢を拳上した全身像の視覚刺激に対する誘発脳磁場活動を,306ch全頭型脳磁計(ELEKTA社, Neuromag System)を使用し,記録した.全身像は,対象者に正面を向けた像(正面像)と背面を向けた像(背面像)から構成し,それぞれ一側の上肢または下肢を挙上した像を作成した.課題は,スクリーン上に呈示された全身像がどちらの上肢または下肢を挙上しているかを解答する本課題と,全身像が挙上している上肢または下肢がスクリーンの右側か左側かを解答するコントロール課題とした.解答は両側示指のタッピングとし,LEDセンサーを用いて各課題および条件の反応時間を計測した.対象者には,各課題において解答に該当する側の示指をできるだけ速くタッピングし,かつ正確に解答するよう指示した.脳磁場測定は,サンプリング周波数を1001Hz,バンドパスフィルターを0.5 ‐30Hzにそれぞれ設定し,実施した.各課題において,正面像と背面像に対する脳活動をそれぞれ約80 回加算した.解析には,グラジオメーターを用い,後頭領域(20ch)と左右の後頭頂領域(各30ch)において各センサー位置におけるRMS(root mean square)を算出し,各領域におけるareal meanを算出した.得られたareal mean波形のピーク値と潜時を,領域別に算出し,課題間で比較した.また,空間フィルター法(sLORETA)を用いて,課題ごとのピーク潜時における各格子点での電流値を算出し,MRI上に空間的に分布表示した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,本研究の趣旨や目的,方法について説明を行い,同意を得た上で実施した.なお,本研究はヘルシンキ宣言に基づき,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:1139)【結果】課題間での平均反応時間は,正面像,背面像ともに,コントロール課題と比較して本課題で有意に延長した(p<0.01).脳磁場活動は,全身像呈示後100ms付近で後頭領域に,さらに200ms付近で右後側頭頂領域において,正面像,背面像ともに明瞭な活動が認められた.100ms付近の成分は,正面像および背面像ともに課題間で活動の有意差はみられなかったのに対し,200ms 付近の右後側頭頂領域における活動は,正面像において,コントロール課題と比較し,本課題で振幅の有意な増加が認められた(p<0.05).また,背面像においても,有意には至らなかったものの本課題において200ms付近の活動が増加する傾向が認められた.【考察】本課題における反応時間がコントロール課題に対して有意に延長したことは,視点取得に際し,より複雑なプロセスを踏んでいることを示している.本課題の全身像の視点取得において,fMRIを用いて右後側頭頂領域が活動したとの報告がある.本研究においても視覚刺激後200ms付近で右後側頭領域に明瞭な反応が認められ,その活動は複雑な視点取得を必要とする本課題で有意に増加した.脳波を用いた先行研究では,視覚刺激後約300ms付近で頭頂付近で観察されるP300 が物体認知や判断を表す成分といわれているが,本研究でみられた右側頭頂領域の200ms付近の成分も,全身像の左右弁別に関与する可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,他者の視点に立って全身像の特徴を捉えようとしている際の脳活動の経時的変化に関連した,部分的な基礎的知見を与えるものである.