著者
橘木 修志 河村 悟
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.70-79, 2017-09-21 (Released:2017-10-06)
参考文献数
48
被引用文献数
1

脊椎動物の網膜には桿体と錐体の2種類の視細胞が存在する。いずれも光を検出して神経情報に変換する働きをしている細胞であり,互いによく似ている細胞である。その一方,光に対する応答の仕方には2つの点で大きな違いがある。一つめの違いは光に対する感度の違いである。光に対する感度は錐体よりも桿体のほうが著しく高い。このため,我々は暗いところで桿体を使って物を見ることが出来る。もう一つの違いは応答の持続時間の違いである。同じ光刺激に対して,錐体は桿体より短く応答する。このため,錐体が働く明るい光環境下では,より高い時間分解能で光刺激の変化を見ることが出来る。応答の異なる2種類の視細胞を使い分けることにより,我々は様々な光環境で物を見ている。ところが,桿体と錐体の応答の違いがどのような分子メカニズムで決まっているのかについては長らく不明であった。著者らは魚類のコイの網膜から精製した桿体と錐体を材料として,その違いの生じる分子メカニズムを研究している。本稿では著者らの成果を中心に,これまでにわかってきたことを紹介したい。

3 0 0 0 OA 研究の今昔

著者
河村 悟
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.269-269, 2008 (Released:2008-09-25)
著者
深田 吉孝 富岡 憲治 河村 悟 津田 基之 徳永 史生 塚原 保夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

交付申請書に記載の研究実施計画に沿って研究を進め、以下の知見を得た。【視覚の光情報伝達】種々の部位特異的変異を導入した光受容蛋白質を作成して光応答特性を調べた結果、光受容蛋白質の特性(桿体型または錐体型)を規定するアミノ酸を同定することに成功した(七田)。また、脊椎動物視細胞に発現する諸蛋白質の性質を検討し、カルシウム(河村、深田)あるいはリン脂質代謝系(林)を介した未知の光情報調節機構があるという証拠をつかんだ。一方、無脊椎動物については、ロドプシンキナーゼの一次構造を決定し、脊椎動物のロドプシンキナーゼとβアドレナリン受容体キナーゼの両者の特徴を併せもつことを明らかにした(津田)。この事実は、無脊椎動物のロドプシンが脊椎動物の光受容蛋白質と古くに分岐して以来、独立して進化し、色覚などの視覚システムを発達させたという知見(岩部、深田、徳永)と矛盾しない。【光受容系と概日時計】節足動物の視葉におけるセロトニンやドーパミンの量に概日リズムがあることを見出し、その投与により視覚ニューロンの光応答特性が変化することから、生体アミンによって周期的に視感度が調節されている可能性が考えられた(冨岡)。魚類においては光以外に温度がメラトニン合成の概日リズムを規定する重要な環境因子であることが判った(飯郷)。また、ヤツメウナギやカエルの松果体・脳については、光受容蛋白質やセロトニンに対する抗体を用いて、光受容細胞を幾つかのクラスに分類することができた(保、大石)。ピノプシン抗体を用いた免疫組織学的解析からは、鳥類の松果体におけるピノプシンの局在を示す(荒木、深田)と共に、濾胞を形成しない新しいタイプの光受容細胞を同定した(蛭薙、海老原)。一方、ショウジョウバエ変異体の概日時計に与える光の効果を解析した結果、口ドプシン以外の光受容系の存在が示唆された(塚原)。