著者
篠原 従道 富岡 憲治
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.38-44, 2021-04-01 (Released:2021-04-22)
参考文献数
22

昆虫の多くは休眠状態で越冬する。ある種の昆虫は幼虫で休眠し越冬するが,その分子機構はほとんど未解明である。われわれは,本州から九州にかけて広く生息し,幼虫越冬する2化性 のタンボコオロギ(Modicogryllus siamensis)を用いて幼虫休眠の機構を解析し,日長と温度が協調して幼虫休眠を制御することを明らかにした。すなわち,日長はJuvenile hormone(JH) 合成系を制御することで羽化までの脱皮回数を決定するが,成長速度は温度によりインスリン/TORシグナル伝達系を介して制御される。この両者の協調作用により,秋から冬にかけての短日と低温が成長速度を低下させて幼虫期を延長し,厳しい冬を乗り越えさせていると考えられる。最近,この日長による発育経過の決定機構にエピジェネティックな制御が関係する可能性が示唆されている。今後,次世代シーケンサーや遺伝子編集技術などを利用することで,このメカニズムの解明が進むと期待される。
著者
富岡 憲治
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究ではキイロショウジョウバエ概日活動リズムを制御する時計機構に関して、(1)温度感受性時計がどのような機構で振動するのか、また、(2)温度感受性時計が光感受性時計とどのように協調して概日リズムを制御するのかの2点について解析を行い、以下の成果を得た。恒明温度周期下から恒明恒温条件への移行でリズムが数サイクル継続すること、恒明下で20℃への単一温度変化でリズムが誘発されることがわかった。温度ステップ変化後、PER、TIMともに周期変動が誘発されることから、温度のステップ変化が、PER、TIMなど時計分子の量的変動を介して概日時計の振動を誘発することが示唆された。無周期突然変異系統での実験結果から、温度による振動にはCYC、CLKが必要であることも示唆された。PERの発現を指標として温度周期下で駆動する時計細胞を探索し、脳側方部ニューロン群(LNs)でPERが低温期に発現することが示された。LNを欠失したdisco系統では、温度周期下でも内因的な活動リズムは発現しないことから、上記の結果とあわせて、LNが温度周期下でのリズム発現に主要な役割を担うことが示唆された。クリプトクロームの機能欠損をもつcry^b系統では恒明条件下で長周期(LPC)と短周期(SPC)の2つのリズムを発現する。抗PER抗体を用いた免疫組織化学の結果は、SPCはLNと一部の脳背側部ニューロン群(DN)が、LPCは残りのDNによって制御される可能性を示唆した。光周期と温度周期への同調実験の結果、SPCはより温度同調性が強く、LPCは光同調性の振動体により制御される可能性が示唆された。この結果は、温度周期下でのリズム発現にLNが主要な役割を担うことともよく一致する。cry^b系統の行動リズムの解析から、SPCとLPCは相互作用により通常同調するが、SPCがLPCに対してより強力な同調作用を持つことがわかった。
著者
宮竹 貴久 松本 顕 富岡 憲治 谷村 禎一 松山 隆志
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

開花、サンゴの配偶子放出、昆虫の交尾など生殖を行う時刻や季節が決まっている生物は多い。1つの集団内に生息する個体どうしでも、おたがいが生殖するタイミングがずれると交配が妨げられ生殖的な隔離が生じる。このような時間的生殖隔離に関与すると考えられる生態分子遺伝基盤を解明した。具体的には交尾時刻が5時間異なるミバエの集団間で体内時計を支配する遺伝子を調べた結果、クリプトクローム遺伝子のアミノ酸置換サイトに変異が生じていた。
著者
深田 吉孝 富岡 憲治 河村 悟 津田 基之 徳永 史生 塚原 保夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

交付申請書に記載の研究実施計画に沿って研究を進め、以下の知見を得た。【視覚の光情報伝達】種々の部位特異的変異を導入した光受容蛋白質を作成して光応答特性を調べた結果、光受容蛋白質の特性(桿体型または錐体型)を規定するアミノ酸を同定することに成功した(七田)。また、脊椎動物視細胞に発現する諸蛋白質の性質を検討し、カルシウム(河村、深田)あるいはリン脂質代謝系(林)を介した未知の光情報調節機構があるという証拠をつかんだ。一方、無脊椎動物については、ロドプシンキナーゼの一次構造を決定し、脊椎動物のロドプシンキナーゼとβアドレナリン受容体キナーゼの両者の特徴を併せもつことを明らかにした(津田)。この事実は、無脊椎動物のロドプシンが脊椎動物の光受容蛋白質と古くに分岐して以来、独立して進化し、色覚などの視覚システムを発達させたという知見(岩部、深田、徳永)と矛盾しない。【光受容系と概日時計】節足動物の視葉におけるセロトニンやドーパミンの量に概日リズムがあることを見出し、その投与により視覚ニューロンの光応答特性が変化することから、生体アミンによって周期的に視感度が調節されている可能性が考えられた(冨岡)。魚類においては光以外に温度がメラトニン合成の概日リズムを規定する重要な環境因子であることが判った(飯郷)。また、ヤツメウナギやカエルの松果体・脳については、光受容蛋白質やセロトニンに対する抗体を用いて、光受容細胞を幾つかのクラスに分類することができた(保、大石)。ピノプシン抗体を用いた免疫組織学的解析からは、鳥類の松果体におけるピノプシンの局在を示す(荒木、深田)と共に、濾胞を形成しない新しいタイプの光受容細胞を同定した(蛭薙、海老原)。一方、ショウジョウバエ変異体の概日時計に与える光の効果を解析した結果、口ドプシン以外の光受容系の存在が示唆された(塚原)。