- 著者
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堀尾 強
河村 洋二郎
- 出版者
- Japan Ergonomics Society
- 雑誌
- 人間工学 (ISSN:05494974)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.6, pp.423-430, 1994-12-15 (Released:2010-03-11)
- 参考文献数
- 9
箸の性質や持ち方と箸を扱う諸動作の動作時間との関係を明らかにするため, 男女大学生11名を対象に箸を用いた諸動作を解析した. 実験には14cm, 21cm, 33cmの長さの箸を用い, ダイズ, ニンジン, トウフをはさんで, あるいはつまんで運ぶ動作, ソーセージを切る動作, ハンペンをさく動作について, 作業時間, 動作中の手腕の筋電図, 指と箸の間の圧力を測定した. 作業時間は, ダイズ, ニンジンを運ぶときには箸の長さによる違いはみられなかったが, トウフを運ぶときには長い箸が, 切る, さく動作のときには短い箸ほど動作時間が短かった. また, 箸と接触する手の各部位の圧は, 持ち方により違いがあった. つまんだり, はさんで運ぶ場合, 伝統的な持ち方では各部位の圧の違いは箸の長さ, 食品の大小や性状によらず同じパターンであったが, 他の持ち方では各指の圧パターンのばらつきが大きかった. さらに手腕各筋の筋電図では, 短母指屈筋の振幅が大きいことが特徴で, ニンジンを運ぶ動作, ソーセージを切る動作, ハンペンをさく動作の場合, 長い箸のときは短い箸よりも短母指屈筋の筋電図振幅が大きかった. 箸の長さに関しては, 長い箸では, トウフを運ぶとき以外は, 作業動作が終ったときに箸を持つ位置が先端方向に移動していた. 中等度の長さの箸ではソーセージを切る動作でのみ先端方向へ, 短い箸ではトウフを運ぶ動作でのみ逆に後端方向へ移動していた. なお, 箸を用いた各動作の動作時間と身体計測値との相関はほとんど認められなかった.この動作時間, 圧の比較, 筋電図振幅の比較, および作業後の箸を持つ位置の比較から, 大きい食品を運ぶときは長い箸, 食品を切る, さくという動作では短い箸がよく, 動作に適した箸の長さが異なることが明らかになった. また, 箸に接触した指の各部位の圧の比較から, 伝統的な持ち方ではつまんだり, はさんで運んだ場合, 箸の長さ, 食品の大小や性状に関係なく, 各指にかかる圧のパターンは同じであり, 他の持ち方に比べて安定していることが示唆された.