著者
明田 佳奈 河村 章人
出版者
三重大学
雑誌
三重大学生物資源学部紀要 (ISSN:09150471)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.85-103, 2001-10
被引用文献数
3

海産哺乳類の中で唯一の草食動物である海牛類は、ジュゴン科のジュゴンとマナティ科のアメリカマナティ、アマゾンマナティ、アフリカマナティの2科から成る。海牛類の消化機構は他の肉食性海産哺乳類と比べて異なっていることから、注目を集めていた。本稿では海牛類の消化機構について、(1)消化管の解剖学的特性、(2)餌料植物の栄養学的特性、(3)消化機能に関連した栄養生態学的研究の3点を中心として、消化機構に関する既知の知見を概説し、今後の研究方向について展望する。 (1)海牛類は非反芻動物である。胃は単胃であり、「噴門腺」と呼ばれる海牛類に特有の腺塊がある。噴門腺は消化酵素を分泌する細胞と酸を分泌する細胞の2種の細胞から成っている。ジュゴンの噴門腺は球状に近いが、マナティ科のそれは指のような形をしている。ジュゴン科とマナティ科で形が違う理由は分かっていない。成体では腸は体長の9~16倍になる。ジュゴンの成獣では大腸は小腸の約2倍の長さになるのに対して、マナティでは大腸と小腸は同じ長さである。ジュゴンの盲腸は単一であるが、マナティの盲腸は先端が2つの角状に分岐している。解剖や形態の面から、海牛類は奇蹄目、長鼻目、ハイラックス目、げっ歯目やカメ目のアオウミガメが属する後腸動物に属する。 (2)ジュゴンは4科18種の海産顕花植物を摂餌する。淡水種であるアマゾンマナティを除いて、マナティは海域から淡水域までに生息する多種多様な水生植物を摂餌する。アメリカマナティは60種以上の水生植物を摂餌することが報告されている。ジュゴンが好んで食べる海草は陸生の草食動物が主に食べる植物と比べて、粗タンパク質含有量が少なく、粗繊維含有量が多く、カロリーが低い。一方、マナティ科が食べる水生植物を同じ陸上植物と比べると、粗タンパク質含有量が同等で、粗繊維含有量が少なく、カロリーが低い。陸生植物では水分が75~80%であるのに比べて、水生植物では85~95%が水分であるので、海牛類は自身の体を維持するために、大量の植物を食べなければならない。 (3)それぞれの研究で餌料植物は異なるが、海牛類の消化率は80~90%であり、陸上の非反芻動物はおろか、反芻動物よりも高いことが知られている。海牛類の消化機能は他の草食動物と比べてかなり優れている。消化管内容物の揮発性脂肪酸濃度の研究から、盲腸と大腸は餌料植物の繊維の分解と分解生成物の消化が行われる主な場所であることが考えられた。さらに、海牛類における餌料植物の体内滞留時間(120~216時間)は、後腸動物であるウマ(23~45時間)やゾウ(17~26時間)、オジロジカ(20~40時間)といった他の後腸動物やウシ(48~65時間)のような反芻動物と比べてとても長い。 海牛類は消化管や消化機能を草食性という自身の摂餌特性に適応させ、十分な栄養を体内に吸収するために少なくとも消化機能を2つの面で特化させた。1つは餌料植物が長い大腸内をよりゆっくり通過させて、餌料植物の体内滞留時間を長くしたことである。2つ目は繊維の分解とエネルギー吸収能力を高めるために、消化管内、特に盲腸や大腸に豊富な微生物を有するようになったことである。しかし、消化管内微生物に関する研究はいまだ行われていない。さらに、海牛類の消化生理や消化機能に関する知見はわずかである。今後、飼育環境下にある生存個体や、死亡個体を用いて、海牛類の消化機能に関する知見をさらに増やしていく必要がある。
著者
川口 弘一 河村 章人
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:18847374)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.169-170, 1981

南鳥島の東北東500kmの海域で獲れたニタリクジラの胃内よリハダカイワシ科ハダカイワシ属の稀種<I>Diaphus bertelseni</I>の雄の1成熟個体が得られた.本種は大西洋の熱帯亜熱帯海域から報告があるが, 太平洋からはハワイ沖の報告があるのみである.とくに親魚の採集例が極めて少なく, 地理分布, 形態変異の幅等の知見が限られている.そこで従来の報告と比較しつつ記載を行い, 従来報告のなかった特徴についても言及した.
著者
今井 直 太原 英生 河村 章人
出版者
三重大学生物資源学部
雑誌
三重大学生物資源学部紀要 (ISSN:09150471)
巻号頁・発行日
no.23, pp.1-12, 1999-12
被引用文献数
2

1996年7月から1997年9月にかけて的矢湾の低次生産環境要因(水温,塩分,透明度,溶存酸素量,クロロフィルa濃度,硝酸態窒素,亜硝酸態窒素,ケイ酸態ケイ素及びリン酸態リン)の観測調査を行った。その結果,塩分,クロロフィルa濃度及び硝酸態窒素は上層でより大きな季節変動を示したが,溶存酸素量,亜硝酸態窒素及びケイ酸態ケイ素は下層でより大きな変動を示した。また,表層において硝酸態窒素とケイ酸態ケイ素は低塩分時に高濃度を示すことから,河川水の影響を強く受けていることがわかった。これに対し,亜硝酸態窒素とリン酸態リンは,溶存酸素量が少なくなる夏季の下層で高濃度を示すことから,底土表層のバクテリアによる再生が寄与していることが示唆された。クロロフィルa濃度は,河口に近く栄養塩濃度が高い湾奥部よりも河川水の影響が比較的弱い水道部において高濃度を示した。また,本研究の調査結果と既知のカキとアコヤガイの生息環境の好適・不適条件を比較すると,的矢湾の湾奥部はカキと真珠の養殖漁場としては不適環境になる可能性のあることが示唆された。