- 著者
-
吉村 芳弘
- 出版者
- 一般社団法人 日本老年医学会
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.3, pp.214-230, 2023-07-25 (Released:2023-09-21)
- 参考文献数
- 82
高齢者の栄養状態と健康リスクについての知見は時代とともに変化しており,複数の慢性疾患を抱えた高齢の低栄養患者を診療する機会が増えている.低栄養はマラスムスやクワシオコルだけでなく,疾患に伴う全身炎症の存在も原因となる.低栄養は健康リスクを高める要因として重要であり,高齢者は低栄養に関連した複数の病態を抱えている.入院高齢患者の低栄養は免疫能の低下,感染症,創傷治癒遅延,サルコペニア,フレイル,悪液質,入院,施設入所,日常生活動作の低下,生命予後の悪化など,さまざまな健康関連アウトカムに影響を及ぼす.低栄養は医療経済にも影響を与えており,入院期間の延長や合併症のマネジメントのための費用が増加するだけでなく,健康寿命の短縮や医療サービスの集中的な利用も引き起こす.そのため,低栄養の予防や治療は個々の患者だけでなく医療制度全体にとっても重要な課題である.低栄養の診断は栄養評価のプロセスに組み込まれており,スクリーニングツールや統一診断基準を使用して行われる.また,フレイルやサルコペニアといった身体的脆弱性にも注目が集まっており,muscle healthを通したこれらの状態の同定と管理も重要である.栄養療法は低栄養やフレイル,サルコペニアの予防・治療に有効であり,特にたんぱく質の摂取が重要であるとされている.栄養介入のみならず,運動介入や口腔管理,薬剤管理などの総合的なアプローチが重要であるとされている.リハビリテーション栄養の考え方も重要であり,全人的評価と栄養評価を組み合わせることで高齢者の機能・活動・参加,QOLの向上につながる.総じて,高齢者の栄養状態と健康リスクに対する理解が進んでおり,総合的なアプローチを取ることで高齢者の健康寿命の延伸につながる可能性がある.医療の考え方も変化しており,「治す」だけでなく「ケア」に重点を置くことが求められている.