著者
吉村 芳弘
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.959-966, 2016 (Released:2016-08-20)
参考文献数
58

回復期のリハビリテーションを行う高齢者には、脳卒中、大腿骨近位部骨折、廃用症候群が挙げられ、いずれの疾患においても低栄養とサルコペニアが好発する。さらに、低栄養とサルコペニアはともにリハビリテーションの転帰に悪影響を与える。つまり、回復期リハビリテーションを行うすべての高齢者に対して、リハビリテーション単独の介入ではなく、リハビリテーション栄養管理を行うことが必須であると言える。リハビリテーション栄養のアセスメントのポイントは、「栄養障害を認めるか、原因は何かを評価する」「サルコペニアを認めるか、原因は何かを評価する」「摂食嚥下障害を認めるか評価する」「現在の栄養管理は適切か、今後の栄養状態はどうなりそうか判断する」「機能改善を目標としたリハビリテーションを実施できる栄養状態か評価する」の5つである。回復期のリハビリテーションにおけるリハビリテーション栄養に関する先行研究をレビューし、脳卒中、大腿骨近位部骨折、廃用症候群の疾患別のリハビリテーション栄養について考察しつつ、回復期リハビリテーションにおけるリハビリテーション栄養の現状と今後の展望について概説する。
著者
吉村 芳弘
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.137-145, 2019 (Released:2019-09-15)
参考文献数
32

リハビリテーション(以下,リハ)を行う高齢者には低栄養とサルコペニアの合併が多い.高齢リハ患者の低栄養とサルコペニアの有症率はそれぞれ49‐67%,40‐46.5%と報告されている.低栄養とサルコペニアはいずれもリハや健康関連のアウトカムと負の関連がある.サルコペニア肥満の概念も重要であるが,この領域におけるエビデンスはほとんどない.リハやプライマリ・ケアのセッティングでは,生体インビータンス分析が最も簡便で,侵襲がなく,臨床的に使用しやすいモダリティである.しかし,評価の妥当性や限界に留意しておく必要がある.リハ患者に対しては,通常のリハ評価に加えて,体組成分析による骨格筋量や脂肪量などの詳細な評価が必要である.
著者
白石 愛 吉村 芳弘 鄭 丞媛 辻 友里 嶋津 さゆり 若林 秀隆
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.711-717, 2016 (Released:2016-04-26)
参考文献数
35
被引用文献数
1

【目的】高齢入院患者の口腔機能障害の実態ならびに、口腔機能障害とサルコペニア、低栄養との関連性を明らかにする。【方法】2013年6月より10月までに連続入院した65歳以上の患者108名(男性55名、女性53名、平均年齢80.5±6.8才)を対象とした横断研究。改定口腔アセスメントガイド(ROAG)を用いて口腔機能状態を評価し、サルコペニアや栄養状態との関連性を解析した。【結果】軽度の口腔機能障害を59人(54.6%)、中?重度の口腔機能障害を34人(31.5%)に認めた。ROAGスコアに関連する因子として、年齢、サルコペニアの有無、MNA-SFスコア、経口摂取の有無、FIM運動項目などが抽出された。【結論】多くの高齢入院患者に口腔機能障害を認め、口腔機能障害とサルコペニア、低栄養との関連が示唆された。ROAGは入院時口腔機能スクリーニングとして有用性があると考えられた。
著者
長野 文彦 吉村 芳弘 嶋津 小百合 工藤 舞 備瀬 隆広 濵田 雄仁 白石 愛
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会
雑誌
学会誌JSPEN (ISSN:24344966)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.70-79, 2019 (Released:2019-10-30)
参考文献数
40
被引用文献数
1

【目的】脳卒中患者の骨格筋量と歩行獲得との関連について調査する.【対象及び方法】2015-2016年に連続入院した脳卒中回復期患者204人を対象とした後ろ向きコホート研究.体組成分析を用いて入院時の骨格筋指数・下肢骨格筋指数を評価し,多変量解析により退院時の歩行獲得との関連を解析した.【結果】対象者は204人(平均年齢74歳,男性109人).歩行獲得に有意に関連する因子として,骨格筋指数(P<0.01)・下肢骨格筋指数(P<0.01)がそれぞれ抽出された.【結論】脳卒中患者の骨格筋量は歩行獲得の独立した予測因子であることが示唆された.脳卒中患者の骨格筋量は歩行能力の予後予測に有用であり,全症例に骨格筋量の評価が必要である.
著者
松尾 晴代 吉村 芳弘 石崎 直樹 上野 剛
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.1141-1146, 2016 (Released:2016-10-20)
参考文献数
28

【目的】急性期病院高齢患者における摂食嚥下障害スクリーニング質問紙票 EAT-10 (以下 EAT-10) で評価した嚥下障害の実態ならびに、嚥下障害と低栄養との関連性を明らかにする。【対象及び方法】2015年3月から7月の間に急性期病院に入院した高齢者103人 (平均年齢80±8歳、男性45人) を対象とした横断研究である。EAT-10を用いて嚥下障害を評価し、栄養状態との関連性について相関の解析および多変量解析を行った。【結果】対象者の26.2%が EAT-10で3点以上の評価となり、嚥下障害が示唆された。MNA®-SFでの評価では低栄養を13人 (12.6%) に認めた。多変量解析では EAT-10で評価した嚥下障害は栄養状態の独立した関連因子であった (Beta -0.393. p<0.001) 。【結論】急性期病院入院高齢者の約四分の一に嚥下障害を認め、嚥下障害は栄養障害と関連していた。EAT-10が3点以上の高齢者は嚥下評価と同時に栄養評価を行うべきである。
著者
嶋津 さゆり 吉村 芳弘 上野 いずみ 工藤 舞 白石 愛 備瀬 隆広 長野 文彦 濱田 雄仁
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会
雑誌
学会誌JSPEN (ISSN:24344966)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.149-156, 2019 (Released:2020-02-05)
参考文献数
27
被引用文献数
6

【目的】脳卒中回復期における熊リハパワーライス®の臨床効果の検討.【対象と方法】2015年から2016年に連続入院した脳卒中回復期患者204人を対象とした後向きコホート研究.物性や分量,味や匂いを損なわず,軟飯に中鎖脂肪酸とたんぱく質を混ぜ込んだ熊リハパワーライス®を用い食事管理を行った患者群と,通常の食事管理を行った患者群の単変量解析,意識状態,嚥下レベル,栄養状態,日常生活自立度(FIM運動)等,12項目の傾向スコアでマッチングした2群間の検討と退院時FIM運動を従属変数とした多変量解析を行った.【結果】対象者は204人(平均年齢73.6歳,男性109人,女性95人),脳梗塞127人,脳出血62人,くも膜下出血15人.マッチング後(両群とも38人)では,熊リハパワーライス®摂取群は非摂取群と比較して多くのエネルギーを摂取し,体重と骨格筋量が増加,退院時の常食摂取の割合が高く,FIM運動が高かった(全てp<0.05).多重回帰分析では,熊リハパワーライス®摂取は退院時FIM運動に独立して関連していた(β=.169, p=0.02).【考察】熊リハパワーライス®は脳卒中回復期における栄養改善,身体機能改善に有効である.
著者
田中 龍太郎 吉村 芳弘 嶋津 さゆり 北原 浩生
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.730-737, 2021-12-15 (Released:2021-12-15)
参考文献数
30

本研究は,回復期から自宅退院した脳卒中患者の退院後のIADLとサルコペニアとの関連性を検証した後ろ向きコホート研究である.対象は2015~2019年に当院を退院した脳卒中患者69名で,方法は退院1~1.5ヵ月後に自宅訪問による追跡調査を行った.IADLの評価はFAIを,サルコペニアの評価はAWGSを用いた.退院時のサルコペニア有群は無群と比較し退院後FAIが有意に低かった. 交絡因子を調整した多変量解析の結果,自宅退院した脳卒中患者のFAIにはサルコペニアが独立して関連していた.脳卒中患者のFAIの改善のために,サルコペニアの予防や改善を念頭に入れた作業療法が必要であると考えられた.
著者
吉村 芳弘 山鹿 眞紀夫 古閑 博明
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.309-316, 2018-04-18 (Released:2018-05-21)
参考文献数
50

リハビリテーションを行う高齢者には,低栄養とサルコペニアの合併が多い.高齢リハビリテーション患者の低栄養とサルコペニアの有症率はそれぞれ49~67%,40~46.5%と報告されている.低栄養とサルコペニアはいずれもリハビリテーションや健康関連のアウトカムと負の関連がある.それゆえ,リハビリテーションを行う高齢者に対しては,全身管理と併存疾患のリスク管理を行いつつ,積極的な栄養サポートを多職種で推進する必要がある.
著者
吉村 芳弘
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.18, no.8, pp.383-391, 2018 (Released:2019-09-02)
参考文献数
39

サルコペニアは加齢や低栄養,低活動,疾患などが原因で,骨格筋量の低下とともに握力や歩行速度の低下など機能的な側面を含む概念である,サルコペニアの診断は,四肢骨格筋量に加えて,握力,歩行速度などの身体機能の評価を含めて行われるが,世界的には複数の診断基準が提唱されている。予防や治療の中心は栄養と運動である。サルコペニア高齢者への中鎖脂肪酸の治療可能性が指摘されている。中鎖脂肪酸は炭素鎖8-10の脂質であり,エネルギー効率が高く,すぐにエネルギー源として利用される特徴がある。摂食量が減少した低栄養やサルコペニアの高齢者には極めて有用な栄養素の1つであると考えられる。最近の研究で,中鎖脂肪酸の経口摂取でグレリンの活性化を促すことが判明しており,食欲亢進の点からも中鎖脂肪酸は注目されている。
著者
吉村 芳弘
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.1235-1237, 2014 (Released:2014-10-20)
参考文献数
2
著者
吉村 芳弘
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.214-230, 2023-07-25 (Released:2023-09-21)
参考文献数
82

高齢者の栄養状態と健康リスクについての知見は時代とともに変化しており,複数の慢性疾患を抱えた高齢の低栄養患者を診療する機会が増えている.低栄養はマラスムスやクワシオコルだけでなく,疾患に伴う全身炎症の存在も原因となる.低栄養は健康リスクを高める要因として重要であり,高齢者は低栄養に関連した複数の病態を抱えている.入院高齢患者の低栄養は免疫能の低下,感染症,創傷治癒遅延,サルコペニア,フレイル,悪液質,入院,施設入所,日常生活動作の低下,生命予後の悪化など,さまざまな健康関連アウトカムに影響を及ぼす.低栄養は医療経済にも影響を与えており,入院期間の延長や合併症のマネジメントのための費用が増加するだけでなく,健康寿命の短縮や医療サービスの集中的な利用も引き起こす.そのため,低栄養の予防や治療は個々の患者だけでなく医療制度全体にとっても重要な課題である.低栄養の診断は栄養評価のプロセスに組み込まれており,スクリーニングツールや統一診断基準を使用して行われる.また,フレイルやサルコペニアといった身体的脆弱性にも注目が集まっており,muscle healthを通したこれらの状態の同定と管理も重要である.栄養療法は低栄養やフレイル,サルコペニアの予防・治療に有効であり,特にたんぱく質の摂取が重要であるとされている.栄養介入のみならず,運動介入や口腔管理,薬剤管理などの総合的なアプローチが重要であるとされている.リハビリテーション栄養の考え方も重要であり,全人的評価と栄養評価を組み合わせることで高齢者の機能・活動・参加,QOLの向上につながる.総じて,高齢者の栄養状態と健康リスクに対する理解が進んでおり,総合的なアプローチを取ることで高齢者の健康寿命の延伸につながる可能性がある.医療の考え方も変化しており,「治す」だけでなく「ケア」に重点を置くことが求められている.